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引きこもり1日目

妹が引きこもった。


それは、ある夏の夜のこと。妹から突然の電話がかかってきた。


一つ屋根の下で暮らしいてるというのにわざわざ電話をかけてくるなんて、ツレないなぁ。


普段はLINEでやり取りする事は多いけれど、電話は珍しいな、と思って出てみたらこうだ。


「あたし、明日から引きこもるから」


いきなり引きこもりの予告かよ!引きこもりって予告してからすることなのか!?


「なにそれ?学校で流行ってんの?」


「いや、マジだから。マジで引きこもるから。だから、しばらく会えないよ。もしかしたら永遠に会えないかも」


引きこもりの決意表明ってなんだよ。


声のトーンはいつもと変わらず、むしろ明るく聞こえる。冗談なのか本気なのかサッパリわからない。


「永遠に会えないかも、なんて悲しい事言うなよ」


ここはお兄ちゃんらしいセリフを一つ。


「それだけ伝えたかったんだ!じゃそーゆー事で!」


電話が切れた。


なんだったんだ。


声は終始明るかったぞ。でも、こんなくだらない冗談言うようなやつじゃないしな。


その時に様子を見に行ってもよかったんだけれど、時間も遅かったし、眠たかったんでそのまま寝てしまった。


次の日、僕は専門学校へ行き、妹は中学校へ行くはずが、学校を休んだようだ。


妹は中学2年生の14歳だ。


中2だ。やっぱ、あれか中二病か?いや、厨二病なのか?


とにかく、中2の妹が引きこもり生活をまんまとスタートさせやがった。


僕は学校から帰ってくると、母が呆れた顔で妹の現状を教えてくれました。


「朝からずっと部屋にこもって学校にも行かないって言って聞かないのよ。あの子、一体何考えてるのかしら?あんたから言ってやってよ」


言ってやってよ、って何を言えばいいんだよ。てか、母よ。それはむしろ母の仕事ではないのか?


と、言いつつも可愛い妹(実際に妹は可愛いのだ。自分の妹に対してこんな事を言うのもなんだが、ひいき目無しに見ても妹は割と可愛い方だと思う。兄の自分がそう思うのだから、妹のクラスメイトの男子などはさぞ妹にときめいていることだろう。)少しは心配なので妹様子を見に部屋へ行ってみることにした。


妹とはいえ思春期真っ只中の女の子、ノックぐらいはしないとな。


コンコンコン


「おーい、お兄ちゃんだよー」


・・・・・・・・・


「寝てるのか〜?」


・・・・・・・・・


「引きこもり初日はどーだったー?部屋にこもっててもやることないだろー?」


・・・・・・・・・


「お前が暇してるんじゃないかと思って、お兄ちゃんが映画のDVD持ってきてやったぞー」


普通に話しかけても無視られる可能性が高いと思っていたので、妹を釣るために妹の好きそうな映画のDVDを持ってきておいたのだ。


妹は僕の影響からか、映画がかなり好きだ。時々、僕の部屋にあるDVDを物色して自分の部屋で観ているのを知っている。


「なに?」


ほらきた。


「起きてるなら返事くらいしろよな」


「映画なに?」


かなり映画のタイトルが気になっているようだ。


「今日、Amazonから届いたんだ。前から観たいと思っていた"霧の中の風景"だよ」


って言い終わるか、終わらないうちにドアが開いた。


なぜか睨まれている。


「借りとくわ」


普段部屋で着ている無印のルームウェアを着込み、髪はボサボサ。


だがしかし。


これはこれで可愛いから厄介だ。


なんで、妹だけこんなに可愛いんだ!僕だって可愛く生まれたかった!


答えは簡単だ、妹は美人(昔は相当可愛かったらしい)母に似て、僕は中の下くらいの父に似たのだ。


僕も母に似たかった。そーすりゃジャニーズ系の可愛い男子になれたものを!


と、そんな事は今はどうでもいい。


僕の手からDVDに取ろうとする妹の手を振りほどき、一歩部屋に入る。


「とりあえず、部屋の中に入れてくれよ」


「お兄ちゃんって変態?勝手に妹の部屋に入るなんて」


死んだ魚のような目で睨んでくる。


「お前もお兄ちゃんの部屋勝手に入ってるだろが!」


「あー、時々入ってチェックしてあげてるのよ」


「チェックってなにを?」


「いかがわしい本とかDVDが無いか」


映画のDVDだけではなく、そんなものまで物色してたのか!


「ねぇーよ!そんなもん!」


ほんとはあるけど。


「えー、無いわけないじゃん。健全な18歳の男子が。それともあれ、なかなか手に入らないようなマニアックなのが好きなの?」


「そんな話どうでもいいから、とりあえず中に入れてくれ」


と、言いつつズカズカ入っていく。


観念したのか特に抵抗の様子はない。


妹の部屋は中2女子の部屋にしてはやけにシンプルだ。ピンク色のものとかほとんどないもん。


中2女子はピンクとか好きなんじゃないのか?偏見なのか?


ベッドに勉強机、小さな本棚に、テレビとステレオ。部屋にあるのはそれぐらい。


ただ、このステレオってのが曲者で、なぜか妹はレコードプレーヤーを持っている。


母の姉、つまり伯母さんが昔使っていたプレイヤーをもらったらしい。


昔といっても何十年も昔ではなく、10年前くらいまで使ってたやつで、そんなレトロな感じではなく普通にカッコいいやつだ。


実はそのプレイヤーに関しては僕も狙っていたのだけれど、気が付いたら妹の部屋にあった。いつの間に伯母さんからもらったんだよ、こいつ。


「とりあえずDVDは机の上にでも置いておいてよ。"霧の中の風景"観たかったんだよね」


DVDを机の上に置き、勉強机の椅子に座る。


妹はベッドの上であぐらをかいている。


「で、突然引きこもろうなんて、どーしたんだ?学校でなにかあったのか?その、いじめられてるとか?」


やはり、ここはお兄ちゃんらしく優しく問いかけてやらんとな。


妹はベッドの上にいつも置いてあるカエルのぬいぐるみをいじっている。


なんで、カエルなんだよ。普通の女の子はクマとかそーゆーのじゃないの?


「なにもないよ。いじめもないし」


「なにもないなら、どーして?」


僕が言い終わる前に


「なにもないから引きこもったんだよ」


やっぱり中2病か?


「なにもないから、引きこもったのか?」


「そう。なにもないから」


「いや、なにもないなら何かを探せばいいだろ。外に出た方が色々と探せそうだと思うがね」


「んー、なにかを得たいわけでもないのよ。だから、探す必要もないの。とにかく消えてなくなりたいの」


こいつ、本当に14歳か!?


オギャーと生まれた赤ちゃんの頃から知ってるが(当然だけど)こんな小難しいことを言うような年になったんだなぁ。成長したな我が妹よ!


いやいや、妹の成長を喜んでいる場合ではなかった。


「それに、なにもないって事ないよ。お前可愛いし、センスもいいと思うけどな」


面と向かって可愛いとか言ってしまった!いや、これも我が妹のため仕方のない事だ。


「お兄ちゃんって、シスコン?実の妹のこと可愛いとかヤバくない?」


「いや、客観的に見てお前の造形は割と整ってる方だってことだよ」


「ふーん。でも、そんなこと関係ないのよ」


そっぽを向いて低い声で呟く。


「あと、その消えてなくなりたいって、なんだよ?死にたいの?」


「んー、死にたいわけじゃないのよ。生きたくないの。死にたいのと、生きたくないのって違うでしょ?」


なんか、また小難しい事言ってるが、わかるような気もする。


いや、わかっちゃダメなんだ!


「まぁ、それはなんとなくわからんでもないが、生きたくないって言うほど生きてないだろ。まだ14なんだから」


「お兄ちゃんにはわからないのよ。だってお兄ちゃんは14歳の女の子だったことないでしょ?」


「まぁ、14歳男の子だったことはあるが、女の子だったことはないな。ってどっかで聞いたことあるぞ、そのセリフ!"ヴァージン・スーサイズ"だろ!」


映画"ヴァージン・スーサイズ"の冒頭、末っ子のセシリアのセリフだ。


「よくわかったわね。さすがお兄ちゃん。オタクだね」


「てか、ヴァージン・スーサイズも俺の部屋から勝手にDVD持っていって観たんだろ!」


「別にいいじゃん。減るものでもないし」


少し拗ねた子供のような表情で言う妹。


「まぁ、別にいいけどさ。てか、一言借りてくよーって言ってくれたら喜んで貸してやるのに。今日だってほら、霧の中の風景持ってきてあげたじゃないか」


机の上に置いたDVDを手に持って、拗ねてる妹に手渡してやる。


「ありがとう。だから、お兄ちゃんって好きよ」


今度は何だよ急に。素直に喜ばれると逆に照れるではないか。


「まぁ、それ観たら明日からはまた学校行くんだぞ」


「行かないと思うけど、映画はありがたく借りとくよ。じゃあ、今から観るから出てってくれる?」


「まぁ、気が向いたらとりあえず部屋からは出てこいよな。また映画は貸してやるからさ」


「お兄ちゃんって優しいね。なんで、彼女いないの?」


「うるせー」


なぜ彼女がいないのかはこっちが聞きたいって。


優しいだけじゃ男はモテないんだよー!


きっと、顔とか色々あるんだよー!!


と、まぁこんな感じで妹の引きこもり生活1日目がスタートした。


妹は夏休みを含めて158日間引きこもった。

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