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薄紅の記憶  作者: A.I.
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夜、メールの着信音が鳴り、ビクッとした。


携帯電話なんて、俺にとって使い道などなかったが、母子家庭で母親は夜の仕事をしていたので、もしもの為にと前年から持たされたのだ。


電話帳に登録されていたのは、母親と叔母さん、叔父さんのみ。


そんな俺の寂しい電話帳に、この日新規登録者が現れたのだ。


それは数時間前の出来事。






「───私と友達になって下さい。」


人間不信になって久しい俺にとって、耳を疑うようなフレーズだった。


そもそも何をもって初対面の俺なんかと友達に…?


何か裏があるのか?


ひねくれた俺には素直に受け取れなかった。


俺が無言でいると彼女は「嫌やと思ってるでしょう?」と聞いてくる。


「いや、正直意味が分からん…。」


「どうしてですか?」


「なんで俺なんかと…ってのが一つと…」


俺は、彼女の手に握られてるストラップに目をやり「彼氏いるのに男と友達とか、なんかアレなんじゃないの?」と言った。


「え?彼氏?」


一瞬キョトンとした彼女だったが、俺の視線がストラップに向いてるのに気付き「あっ!ハートのこれ?違いますよ!」と笑った。


「向こうでずっと仲良かった親友とね…。友情の証みたいな感じです!」



ほんの一瞬見せた悲しげな表情が、何故か印象に残っている。


「こっちには転勤か何かで?」


「うん。その時にワガママ言ってケータイ買ってもらったの。」


離れる友達と連絡を取るためらしい。


「あ!そうや!ケータイ持ってます?」


「うん、まぁ一応」


「じゃあメル友から始めましょうよ!ね?」


「え、でも…。」


「もぉ!一個だけ言うこと聞くって約束したやないですか!」


「だから、俺と関わってるって知れたら君も何らかの被害に遭うかもしんないしさ…。」


「そんなん知らんし!それにメールやったら大丈夫やと思いません?とにかく───!」


てな感じで、半ば押し切られるように、生まれて初めての赤外線通信ってやつをやった。


でも確かにメル友って形なら、表立つことはないし、ゆくゆくは俺の現状も説明しやすいだろう。


「花谷コウキ……。コウキ君か。」


ケータイの画面を見ながら彼女が呟く。


「え、名前も送らさるの?」


「うん、私のも送ってるから見てみて下さい」


見てみると“大坂カスミ”と登録されている。


「大坂…さん。」


「もぉ!大坂さんなんて他人行儀やな!カスミって呼んで下さいよ!」


「え!?」


軽く度肝を抜かれる俺。


そもそも思春期真っ只中にしてぼっちになり、女子と話すことすらなくなってる俺に、女子を下の名前で呼び捨てるとかあり得ん。


「いや、ムリムリムリムリ!」


「カスミって呼んでくれないと返事しませんからね?」


そうおどける彼女。


何か立場がおかしなことになっている…。


向こうから半ば強引に友達になろうと誘っているのに、名前で呼ばないと返事しないと言われ、それに俺があたふたしてるとか意味が分からんが…。


これが彼女の…。


いや、カスミのペースってやつで。


俺はここからどんどんカスミのペースに巻き込まれてくことになるのだが、それはまた後の話で…。



てゆーかこの時ようやく俺は事の重大さに気付く。


女とアドレス交換してるという事実に。


“自分はぼっち”という意識が強く、それが自分の中でも誇大化され、やがて自ら他人を避けるようになっていた。


今回だって初めはそうだったはずだ。


関わるつもりなんて、これっぽっちもなかったのに、いつの間にかこんなことになっている。


そもそも今さらながらこの子可愛いじゃないか。


そんなことにすら意識が及ばないくらい、俺のリアルは閉ざされていたのだ。


「コウキくーん?固まってますよ?」


「あ、あぁ…」


「さぁ、カスミとお呼び!」


相変わらずおどける彼女をよそに、俺の心拍数は無駄に上がっていた。






「向こうでみんなとお別れする時にね、桜が満開だったの…。」


別れ際、カスミは言った。


「こっちはこれからなんですもんね。なんか不思議な感じがして…。」


「そっか…。」


「だから学校帰り毎日寄っちゃうんですよね。」


カスミはこっちの学校に馴染めてないのだろうか…?


何となくそんなことを思ったりもした。






そんなこんなで、ひとまずメル友になったカスミからの初メールを開く。


なんというか、今まで味わったことのないドキドキ。


お礼と、よろしくって内容が可愛い絵文字つきで書かれていた。


そんなメールに対して、俺は凄くぶっきらぼうな

返信をしたと思う。


本当は読みながらついニヤけていたのに。






翌日。


いつも通り空気のまま学校を終え、家路を歩いていると、背後から誰かが駆け寄る音が近づいてくる。


振り返るとカスミだった。


「あー!気付かれちゃいましたかー!」


「そんなバタバタ走ってりゃ気付くわ」


「帰るの早いですね?」


「学校いたってつまんないしな」


………。


カスミは誰かに俺の噂を、聞かなかったのだろうか… 。


ふとそんなことを思ったが、そんな俺の考えはお構いなしには笑顔で「一緒に公園行きません?」と言ってきた。


「だからさ、俺と一緒にいるとこ見られたらヤバいからさ…。」


「大丈夫ですよきっと!」


コイツは何を根拠に大丈夫とか言ってるのか…。


「あのな?俺は君の事を思って言ってるんだよ?別に君が───」


「ちゃんとカスミって呼んで下さい!」


「はっ?」


「君じゃなくてカスミ!」


「だ、だからカ、カス、カスミがさ…。」


ダメだ照れる。


カスミは笑顔で「うんうん、なんですか?」と頷いている。


クソ、またペースを握られてるじゃないか!


「も、もういいよ!とにかく今日は帰るの!」


カスミは「もぉー!」と膨れっ面しながらも「分かりましたよぉ!じゃあまた夜メールしますからね!」と言って公園の方へ歩いて行った。


(俺はコイツが苦手かも知れん…。)


そう思いながらも緩んだ口許は、ぼっちになって初めて、誰かに向けた笑顔だったと思う。


真っ黒なのか、真っ白なのか分からぬが、とにかく彩りのなかった俺の毎日。


それが少しずつ…。


少しずつだが確かに、カスミ色に染まろうとしていた。


その色は、やっぱり出会った季節も相まってか、

今では薄紅色の思い出として、深く刻まれている。






以来、会わずとも毎夜届く他愛ないメール。


そしてゴールデンウィーク最終日の前日───。


花見の誘いのメールが届く。


『来てくれるまで待ってます』というP.S.付きで…。


取りあえずこの時点でカスミに抱いてた俺の感情は…。


恋とは程遠い"変"な奴だった…。






俺の家族構成は母親と5コ下の妹。


カスミは両親と兄弟はなし。

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