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薄紅の記憶  作者: A.I.
1/3


2017年3月某日───。


一人暮らしに向けて、荷造りをしていた時の事。


物置と化していた、机の引き出しの奥の方に、可愛らしい封筒があった。


そしてそれを目にした瞬間、俺はある人のことを思い出していた。


ゆっくりと封筒を開ける。


中には、一通の手紙と一枚の写真が同封されていて…。


もう荷造りなんてそっちのけで、それを眺めていた。






ここで断っておく。


これは、小説なんかじゃなくて…。


俺にとって、とてもとても大切だった日々の記憶。


備忘録のようなものだと思って、読んでいただきたい。






話は中学時代まで遡る。


中学の頃の俺は、俗に言う"ぼっち"ってやつだった。


本来なら、振り返りたくもない時期になっていても、おかしくはない。


そんな日々に、色を与えてくれたのが他でもない、手紙の差出人"大坂 カスミ"だったのだ。






カスミとの出逢いは、俺が中3の4月下旬頃だった。


もうその頃には、独りぼっちで過ごすのもすっかり板についていたものだが。


学校の近くには、桜の名所でもある大きな公園があり、その日の放課後、何となくそこを通って帰っていた。


少し歩いていると、何やら落とし物を探してるっぽい女の子がいた。


同じ学校の制服。


多分下級生だろう。


何にしても、俺は関わらない方がいい。



俺のぼっちは、校内でも知らない人が、ほとんどいないと言っても過言じゃないくらい有名になっていた。


前年は『2年の花谷 コウキと関わったら不幸になる』とか『呪われる』『殺される』なんて噂も広まっていたようだし。


この年も"2年"の部分が"3年"になって、噂は続くのだろう。


そんな腫れ物扱いの俺だ。


彼女に関わる気なんて、その時は毛頭もなく、スルーしようと思っていたのだが…。


木陰に落ちてるストラップを視界が捉えてしまった。


(っぽい…。彼女が探してる物はこれっぽいぞ…。)


見つけてしまった物を放っておくのは、どうにも抵抗があり…。


何より、その子がストラップから遠ざかって行くものだから。


俺は仕方なくそれを拾った。


ハートの片割れが象られている。


(彼氏とペアの物かな…。)


なんて思いながら、その子に声を掛けた。


「あの、探してる物ってこれかな?」


ストラップを差し出すと、嬉しそうにそれを受け取り、礼をしてくれた。


大事な物だったようだし、喜んでるので良かったと思った。


が、そんな気持ちとは裏腹に、多分俺は物凄く無愛想に、その場を立ち去ろうとした。


しかし、想定外の事態はここから始まった。



「あの、同じ学校ですよね?」


と、話しかけられたのだ。


「あ、うん、多分…。」


みたいな返事をする俺。


「やっぱり!3年生ですか?」


「うん…。」


俺は思った。


噂は知っているが、顔は知らないというパターンだろうなと。


「私は2年生なんですけど、実は───」


「───俺に関わらない方がいいよ。俺に関わったら不幸になるらしいからね。」


彼女の言葉を遮るように、そう言った。


噂を知っている人間ならば、これで通じる。


そして、動きの止まった彼女に、再び背を向けようとしたところで、意外な言葉が返ってくる。


「何ですか?それ?」


「え、いや、だから…。」


結構動揺してしまった俺。


理由は幾つかあるのだが、順を追って説明する。




まず1年の冬頃から、俺に話しかける同級生はいなくなった。


そして2年生になると、上級生や下級生までもが、俺を見てひそひそ話や、避けるような感じになった。


ある日クラスの誰かが、わざとらしく大きい声で言っていた。


「花谷と話したらヤバい目に遭うから気を付けろよー!」と。


多分そういう話が、俺の知らないところで、どんどんどんどん尾ひれをつけて学校中に広まったのだろう。


そんなこんなで学校の奴とは、誰とも接することがなくなって早1年。


だから普通に話しかけてくる彼女に驚いたってのが一つ。


そして二つ目が、2年生なのに俺の噂を知らないこと。


新入生ならまだ分かるのだが、去年は本当に全校生徒に空気扱いされていた感覚だったから。


最後に、一番動揺した理由が『何ですか?』という、彼女の問い。


自分で自分の噂を説明するとか、考えたこともなかったからだ。


クエスチョン顔で、俺を見つめる彼女。


たまらず俺は言った。


「明日学校で友達にでも聞け!」


「え、なんて聞くんですか?」


「だ、だから…。」


それを説明したら噂を説明するのと同じことだ。


「つーか何で噂知らないんだよ!?」


もう会話のやり取りが意味不明だった。


「そんなに有名な噂なんですか?」


「3年とか2年ならほとんど知ってるハズだよ!」


「そうなんですか?じゃあ転校してきたばかりの私は知らなくてもおかしくはないですよね?」


「え…!?」


それは盲点だった。


でも確かにイントネーションに、かなり違和感はあった。


だから、この土地の人じゃないのは分かるが。


それにしても意外だった。


面白可笑しく噂は伝染すると思っていたのだが。


知らないとは。


とは言え、俺が今でも腫れ物扱い、空気扱いされてることに変わりはない。


俺と接したことで、今度はこの子がイジメにでも遭ったら、責任は取れない。


「とにかく俺とは関わらない方がいいんだよ!」


ちょっと言い方が荒くなってしまう。


彼女にそんなことで怒ったって仕方ないのに。


そして束の間の静寂が流れる。


俺はバツが悪くなり、謝ろうとしたその時だった。


「ひどーい!知らない土地に転校してきてまだまだ不安いっぱいなのにそんな冷たいこと言うなんて!」


「え、え?」


なんだいきなり。


「北海道は寒いけど人の心は温かいって聞いてたのにー!」


「いや、それはさ…。」


涙は流していないが、泣き顔でまくし立てる彼女に、俺はすっかり戸惑っていた。


「ストラップ拾ってくれたから優しい人やと思ったのにー!」


「いや、だから悪かったって…!ごめん!ごめんなさい!」


「もうええもん」


ここで、この子は関西出身なんだな、とか思ったりしたのだが。


それよりもこの場をやり過ごすのに俺は必死で。


「どうすりゃ許してくれんだよ!?」


なんて聞いていた。


「どうせ聞いてくれへんし!」


「いや、聞くよ!何でも聞くから!」


「ほんまに…?」


もう完全に彼女のペースだ。


「う、うん…。」


すると彼女は急にニコッと笑い…


「それやったら───」


信じられないことを口にする。


「私と友達になって下さい。」






これがカスミとの出会い。


4月下旬───。


桜の開花がようやく始まった頃だった。






スペックを紹介しておきます。


俺→花谷 コウキ。


中3当時で身長175cm前後、体重は55kg前後の痩せ型。


苗字は花が好きなので花谷。


名前は元KAT-TUNの田中聖に似てると言われたので、コウキ。


当時の時事ネタで言われただけだろうが…。



大坂 カスミ。


1コ下で身長160cm弱、体重は謎だが見た目は標準体型。


苗字は大阪出身なので大坂。


名前は今にして思うと有村架純に似てるから、カスミ。

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