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後編

そして、あくる日の朝。沈みかけた月と、登り始めた太陽が揃って森の方を見つめていると、小鳥が恐る恐る巣穴から出てきました。少しやせていて、真っ白いからだがうす汚れてはいますがとても可愛い小鳥です。

 太陽は小鳥に声をかけました。 

「おはよう。じゃあ、いくよ。」


月と太陽から放たれた、まぶしい光が小鳥を包み込みました。その瞬間、小鳥は可愛らしい人間の女の子の姿に変わりました。小鳥の様子を見ていた鳥たちはびっくりして叫びました。

「人間だ!」


 月が言いました。

「まあまあ、皆落ち着いて。小鳥は今日だけ人間の姿になっただけだよ。ちゃんと元の姿に戻るから安心して。これで人間と話ができるよ。」


「これから、どうしたらいいの?」

 白いワンピースを着た、茶色い長い髪の女の子の姿の小鳥がおずおずと尋ねました。

 太陽が答えました。

「とりあえず、町に出て歩いてみよう。月は沈んじゃうから、私が見ていてあげる。」


「じゃあ太陽、くれぐれも小鳥のことをよろしくね。危ない目にあわさないようにね。」

 月はそう言って沈んでいきました。


 そうして、太陽に見守られながら小鳥は町へと一歩歩き出しました。他の鳥たちや動物たちが注目する中、森を抜け、町の中に入りました。

小鳥は、今まで自分が見下ろしていた所を歩いているのがすごく不思議に思えました。目に見えるものすべてが上から見ているのとは全然違うので、きょろきょろしながら歩いていきました。


 すると道の角から急に車が出てきて、小鳥は車とぶつかりそうになりました。

「きゃっ!」

小鳥が小さく悲鳴をあげたその時、誰かが小鳥の腕を引っ張って助けてくれました。


それは、人間の男の子でした。男の子は言いました。

「危ないじゃないか。このあたりは見通しが悪くて危険なんだから、ちゃんと横を見て気をつけないと。けがはない?」


小鳥はびっくりして何も言えませんでした。

「大丈夫?どこかで休む?」

 男の子は心配そうに小鳥を見ています。小鳥はやっと喋れるようになったので言いました。

「あの、助けてくれてありがとう。私は大丈夫。」

 すると男の子はほっとしたように笑って言いました。

「そう、よかった。じゃあ、もう行くね。気をつけて。」


 男の子は走っていきました。小鳥は男の子の後ろ姿をじっと見ていました。なんだか、その男の子をいつかどこかで見たことがあるような気がしました。


「小鳥!大丈夫だった?」

 太陽が慌てて小鳥に声をかけました。

「ごめんよ、ちょっと目を話した隙に危ない目にあわせてしまったね。」

「ううん、大丈夫。あの人が助けてくれたから。」

 小鳥は少し微笑んで答えました。


 太陽は小鳥を早速危ない目にあわせてしまったので、それを知ったら月がすごく怒るだろうと思いました。ちょうどその頃、月は地球の裏側で大きなくしゃみをしたので、地上に強風が吹き荒れました。月は、太陽が何かやらかしたのではないかとうたぐりました。


 小鳥は気を取り直して、道をまっすぐ歩いていきました。太陽は時々、危ない道や、公園などの場所の説明をしました。そしてしばらく歩くと、小鳥は何やらにぎやかな場所にたどり着きました。太陽が言いました。


「あれは商店街だよ。いろんな物を売っていて、大勢の人が買い物に来ているのさ。」

 小鳥は、あまりに大勢の人間たちがいるので少し怖いと思いながらも、ゆっくりと商店街の中に入って行きました。


大勢の人たちが大きな荷物を持って歩いています。売っている人は大きな、威勢のいい声でお客さんを呼びこんでいます。皆にこにこ笑って楽しそうで、小鳥の思っていたいじわるな人間とは違うようでした。小鳥は人間たちを眺めながらしばらく歩いていましたが、大きな声や人の熱気のせいか、なんだかくらくらしてきました。


「どうしたの!小鳥、気分でも悪いの?疲れたなら、ここから出て少し休もう。さっき見た公園に行こう。」

 小鳥は太陽の言うとおり、商店街を出て、公園に行きました。そこはさっきの商店街とは全然違って誰もいなくて、とても静かでした。


ひときわ大きな桜の木のそばに、ベンチがありました。太陽が言いました。

「あのベンチに座って休むといいよ。」

 小鳥はベンチに座って上を向きました。いつも上から見ている桜の木を、下から見るのもとてもきれいだと思いました。


ピンク色の花びらがはらはらと散って、小鳥の着ている白いワンピースの肩に舞い降りました。久しぶりに浴びた、太陽から降り注ぐ光も暖かくて気持ちがよくて、小鳥は思わずさえずり始めました。

人間になった小鳥の口から、不思議な美しいメロディーが流れました。太陽はその様子を見て、小鳥が元気になってくれてよかったと安心しました。


 その時、公園に誰かがやってきました。それはさっき、小鳥を助けてくれた男の子でした。男の子は小鳥のそばに来て言いました。

「あれ?君、今朝も会ったよね?」


 小鳥はまた会えるとは思わなかったのでびっくりしたままこくりとうなずきました。男の子は続けて言いました。

「さっき歌っていたのって君だよね?ここを通りかかったら、すごくきれいな歌が聞こえてきたから誰だろうって思って。あれ、何ていう歌?」

「あの、ええと、お花がきれいだったから自然に出てきたの。」


男の子は、小鳥の隣に座って言いました。

「そうなんだ。あの、もしよかったらもう一度聞かせてくれないかな?すごくきれいな声だったから。」

 小鳥は、男の子に聞き返しました。

「私の声が、きれい?」

「うん、すごくきれいで好きだよ。」

「そんなこと、一度も言われたことがなかった。他の子たちの方が上手だったから、私には何のとりえもないって思ってたの。」

「そんなことないよ。自信を持っていいと思うよ。」


小鳥はそんな風に言ってもらえたのがすごく嬉しくて、また思わず歌を歌いました。優しくて不思議なメロディーは、男の子を笑顔にしました。それを見て、小鳥も嬉しくなりました。その時、小鳥はこの公園でこの男の子とずっと前に会ったのを思い出しました。


あれは、小鳥がこの公園の周りを飛んでいた時でした。遊んでいた人間の子供たち数人が小鳥を見つけて、一斉に石を投げつけてきたのでした。小鳥は必死で石をかわしましたが避けきれなかった石が羽をかすめて、小鳥はよろめきました。その時、大声をあげて子供たちを追い払ったのがこの男の子だったのです。


小鳥は石を投げられたことがショックで、この男の子のことをすっかり忘れていたのでした。

小鳥は、思い切って男の子に話しかけました。

「あの、ずっと前にこの公園で白い小鳥が石を投げられているの、見なかった?」

男の子は答えました。

「うん、見たよ。皆で小鳥に向かって石を投げるもんだからすごく腹が立って、コラーって怒ってやめさせたんだ。でも、なんで知ってるの?」


小鳥はあわてて答えました。

「友達から聞いたの。優しい人だなって思った。」

男の子ははにかんで言いました。

「そんなの当たり前だよ。でもあの小鳥、けがをしてなければいいけどね。また、飛んでいるの、見れるかな?」


小鳥は男の子の顔を見つめて言いました。

「あの、私、もう行かないと。」

「そうなんだ。また会えるといいね。またその歌、聞かせてよ。」

男の子は優しく微笑んで言いました。小鳥も笑ってうなずきました。


公園を出て歩き出した小鳥は、太陽に話しかけました。

「太陽さん、私、森に帰るわ。」

「もういいの?」

「うん。早く帰って、飛ぶ練習をしたいの。」

太陽は、小鳥がもう一度飛びたいと思ってくれたのが嬉しくて言いました。

「そうか、じゃあ帰ろう。森に帰ったらすぐに元の姿に戻してあげる。帰ってくるのが早くて、月も森の皆もびっくりするだろうけどね。」


そして案の定、月も森の動物たちも驚いていました。月は太陽が失態を犯したのを見抜いていましたが、小鳥が一生懸命飛ぶ練習を始めたのをみて、太陽を許してやることにしました。


そして時が過ぎ、若葉の季節がやってきました。あの公園の桜の木も、キラキラした若葉で覆われています。そこへ、あの男の子がやってきました。初夏の太陽の日差しが少し暑くて、男の子は桜の木のそばのベンチに座って休んでいました。


男の子がふと木を見上げると、木の枝の上に、真っ白い小鳥がとまっていました。小鳥は、男の子の方を見てチチチッときれいな声で鳴きました。なんだか見覚えがある小鳥だなと思いながら、男の子はしばらく小鳥を見つめていました。



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