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前編

 とある町の端に、小さな森がありました。その森には、リスなどの小さな動物たちや昆虫たちや鳥たちが住んでいました。

 季節は、春。太陽が地上に顔を出して、一日が始まります。夜に活動する鳥たちはみんな眠そうに森へ帰ってきました。昼に活動する鳥たちは次々と森から飛び立っていきました。

  

 太陽は、にこにこと笑いながら空を高く高く、ゆっくりと昇っていきました。そして、西の端で沈んでゆく月に声をかけました。

「おーい、昨日も地上の見回りごくろうさーん。」

 すると、月は眠そうに返事をして沈んでいきました。太陽と月の仕事は、地上でみんなが幸せに暮らしているか見守ることです。昼間は太陽、夜は月が交代して仕事をしています。


 ところで、さっきから森の方で太陽を呼ぶ声がしているのに、太陽は全く聞こえていないのか、地上の様子を楽しそうに見ています。しばらくしてから、やっと誰かが呼んでいるのに気づき、森の方に顔を向けました。そして、一本の木がプンプンと怒っているのを見つけました。

「やあ。私に何か用かい?」

 太陽が朗らかに話しかけました。

「さっきから大声で呼んでいるのに気づかないなんて。ちゃんと仕事してくれないと困るよ。」

 木が怒って言うので、太陽はすまなそうに答えました。

「わかったよ、ごめんね。ところでどうしたの?」

「実はここ最近、ぼくの幹に巣穴を作っている小鳥が巣穴から出てこないんだ。出ておいでって何回も言っているのに。巣の中を掃除してくれないと汚れて、ぼくの調子も悪くなってしまう。太陽、何とかしてくれよ。」


 太陽は木の幹を見ました。三つの巣穴があって、その内の一つだけが草や葉っぱで穴がふさがったままでした。

「ここの鳥は病気なの?」

 太陽が聞くと、隣の木が心配そうな声で答えました。

「いいえ。病気ではなくて、一か月ほど前に翼にけがをしてしまってね。二週間ほどで傷は治ったのだけれど、外の世界を怖がって出てこなくなってしまったの。」

 小鳥の巣がある木が言いました。

「けがで一旦は飛べなくなってもね、一生懸命飛ぶ練習をしたらまた飛べるようになるんだ。でもこのまま飛ぶ練習をしなかったら、そのうち本当に飛べなくなってしまうよ。」


 太陽は巣に向かって声をかけてみました。

「おはよう。私は太陽だよ。具合はどう?今日はとってもいい天気だから出てこない?風も気持ちいいし、練習するにはもってこいだよ。」

 周りの木々たちはみんな巣穴に注目しました。でも、反応はありません。

「本当に、病気じゃないの?」

 太陽が困って言うと、巣穴の木が答えました。

「それはないよ。巣穴の中では少しずつ動いているし、ごはんも食べているし。ごはんは鳥たちが持ってきて、巣の外に置いていってくれるのさ。」


 そのとき、一羽の鳥が飛んできました。

「やあ、太陽。ところでその子の説得もいいけど、自分の仕事もちゃんとやったら?いつまで東にいるつもりなの?」

 太陽はとてもびっくりしました。本当なら今頃はもっと南にいるはずです。太陽があわてて南に行こうとすると、森の木たちが言いました。

「私たちも、鳥たちもあの子のことを心配しているの。なんとか力になってあげて。」

「わかった。どうすればいいか考えるよ。」

 太陽はうなずき、南へ向かいました。


 そして、夕方になりました。西までやってきた太陽の仕事はおしまい。東からやってくる月とバトンタッチです。すーっと東から昇ってきた月に、太陽は声をかけました。

「やあ。お仕事よろしくね。ところで、相談したいことがあるんだけど。」

 月は閉じていた目をうっすら開けてうなずきました。太陽は続けて言いました。

「この町の端の森で、ある小鳥が巣穴からずっと出てこられないんだって。森の木たちが心配してるんだよ。私たちも何かできないかな。」

「どうして、出れこられなくなったの?」

「けがをして、外に出るのが怖くなったんだって。」

「どうして、けがをしたの?」

「あっ!そういえば、聞いていなかった。」

「じゃあ、私が森の木たちに聞いてみよう。それより、早く沈んだ方がいいよ。」

 太陽はまたもあわてて沈んでいきました。


そして、夜が明けました。月は昇ってきた太陽に話しかけました。

「太陽、おはよう。昨日の晩、森の木たちに話を聞いて考えついたことがあるんだ。」

「えっ本当?すごいや!で、どうするの?」

「とりあえず今から話しかけてみる。」

 月と太陽は、森の方を向きました。森の木たちが注目する中、月が小鳥の巣に向かって話しかけました。

「おはよう。私は月です。君の事情は聞きました。人間に石を投げられて、君の翼がけがをしてしまったそうだね。私たちがちゃんと見守っていたなら、防げたかもしれない。ごめんなさい。そのお詫びとして、私から提案があるんだけど、一日だけ、人間の姿で外を歩いてみないか?」


 月の提案に、皆はびっくりしてしまいました。森の木たちはざわざわと音をたて、恨めしげに月を見ました。太陽も怒って言いました。

「月はひどいよ!どうしてわざわざ小鳥をいじめた人間の姿にならなければならないの。

小鳥が余計に傷つくじゃないか。」

 月は静かに口を開きました。

「私はいつも地上の世界を見守っている。もちろん、人間のやることも見ている。人間は確かに弱い者いじめをする。でも、いじめない、優しい人間もいる。人間全てを怖がっていてはこのまま外には出られないよ。人間と話をしてみたらいい。怖くないって気づくはずだよ。」


 その時巣穴の中から小さな声がしました。

「でも、怖いよ。」

 それは、かぼそくて、消え入りそうな小鳥の声でした。月は優しく言いました。

「大丈夫、私と太陽でずっと見守っているから。何かあったらすぐに助けてあげるから安心して。ね、太陽。」

 太陽はしぶしぶ言いました。

「月の言うことには一理あると思うし、私も頑張って小鳥を見守るつもりだよ。でも、小鳥が出てきてくれるかな?」

 すると、巣穴から声がしました。

「やってみる。」

 小鳥の一言に皆はまたびっくりしました。小鳥は続けて言いました。

「すごく怖いけど、このままじゃ飛べなくなってしまうって自分でもわかっているから。頑張って外に出てみたい。」

 さっきと同じ小さな声でしたが、声に少し力がこもっていました。

 月は微笑んで言いました。

「やっぱりそう返事してくれると思っていたよ。じゃあ、今日のうちに私と太陽で計画をたてておくから、明日の朝、さっそく出かけよう。」

 

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