3.悪魔
「隣国の聖騎士様が悪魔に襲われたそうよ。撃退なさったみたいだけど」
「聖騎士様と言えば、聖剣使いの・・・」
「まあ、怖い」
早速、サクラ様は仕事をなさったみたいだ・・・失敗しているが。
「隣国の聖騎士様と言えば、ピオニア様の婚約者でいらっしゃるでしょ。ピオニア様もさぞ、ご心配なさっているでしょうね」
「ええ。噂を聞いて心配されていました」
侍女たちの噂話が飛び交う洗濯室は、情報収集をするには最高の場所だ。
「最近、悪魔の噂が多いですわね」
「ええ。怖い事です」
必要な話は聞けたので撤収しよう。
「という事で、噂によると聖騎士様は悪魔を撃退なされたようです」
「まあ、怖い」
・・・ピオニア様。顔が笑ってらっしゃる。どういう意味で「怖い」とおっしゃられているのやら。
「怖くて体が凍えそうだわ。アリッサ、メリッサお茶の用意を」
「「かしこまりました」」
『悪魔』とは秘密結社のメンバーが魔法を行使する際の姿を指すものである。人々は本物の悪魔と信じているが、もちろん違う。秘密結社のメンバーは魔王様と契約しているが、悪魔となったわけではない。魔王様のために仕事をするかわりに魔法の力を与えられただけである。もちろん、魔王様の配下となるには、それぞれ理由があるのだが・・・。
私、アリッサ・クレメントは秘めたる願いも理由もなく、成り行きで秘密結社のメンバーになってしまったのである。
あれは、ピオニア様付きの侍女になって3カ月が過ぎたころである。
「アリッサ。メリッサを呼んできてくれない?ピオニア様の部屋に居ると思うから」
「分かりました」
メリッサを呼びにピオニア様の部屋に入った。部屋にはピオニア様しか居なかった。
「あら、アリッサ。どうしたの?」
「失礼しますピオニア様。メリッサを女官長が呼んでおりまして」
「そうなの。今、使いにやってしまったわ。女官長にそう伝えて」
「かしこまりました」
その時である。部屋にいきなり魔法陣が現れ、扉が出現したのだ。
「な、なに!?」
「しっ!!」
ピオニア様に口をふさがれる。扉から出てきたのは・・・悪魔!!
「ただいま。メリッサ・・・アリッサ!?」
こうして、私アリッサはピオニア様とメリッサの二人が秘密結社のメンバーだと知ってしまった。メンバーに入るか、死ぬか選べとピオニア様に言われ、メンバーとなったのだ。
(今、思えば何てタイミングの悪い・・・)
しかし、秘密結社のメンバーになったことを後悔はしていない。ピオニア様をお慕いしているし、メリッサの事も大好きだ。
ただ、問題があるとすれば・・・
(婚活の為に行儀見習いになったのにな・・・)
表の仕事と裏の仕事が忙しすぎて、婚活が出来ないことくらいだった。




