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(旧)暗躍英雄のアフターライフ  作者: 瀬乃そそぎ
第2章 青き双魂のブレイドダンサー
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2-12 青髪の魔術師´


 アーマードベアに進化したうえに、術式を用いて硬質化した稀少種。

 その巨大な拳とぶつかり合った僕の全身には今、壮絶なまでの衝撃が駆け巡っていた。それは痺れとなり、身体を動かすだけで大きな違和感が生じる程。

 手を開閉して感覚を取り戻しながら前方を睨みつけた。

 視界の先には、想像以上の力で吹き飛ばされたからか、怯んでこちらを威嚇しているアーマードベアの姿がある。

 警戒してくれるのはありがたいが、正直分が悪い。


「お、おい……大丈夫なのかよ?」


 横に並んで声を掛けてくるゾルさん。

 どうやら動けるようになったらしい。


「僕は問題ありません。なので取りあえず、お仲間を下がらせてください。あなたも一緒に、安全な場所へ」

「なっ、何を言ってやがる! 護衛で雇われたんだ、俺達も戦う!!」


 健気な事を言ってくれる。

 格下を見下す傾向はあるようだが、冒険者としての矜持は持っているらしい。

 だが。


「申し訳ありませんが、足手まといです。正直、あなた方を守りながら戦って勝てる自信はない。それでも戦うというのなら、ご自由に。僕はあなた方を切り捨てます」

「……、」


 ゾルさんの表情に躊躇がよぎった。

 彼も、この魔物が自分よりも遥かに格上だということを身体で理解しているのだろう。

 とはいえ、前金を貰い、護衛対象が危機に晒されているという状況で、自分たちが何もしないという事にも忌避感を覚えているはずだ。

 だから僕は、少しだけゾルさんの評価を上げたうえで言ってやる。


「護衛は戦うだけが全てではありません。もしかすれば騒ぎに乗じて他の魔物が寄ってくるかもしれない。ゾルさん達は、そういった魔物からヘウスキンさんらを守ってください」


 チラりとヘウスキンさんの方を見る。

 彼は先程の魔結晶(マナスフィア)が詰まれた積み荷の側に立ち、僕の方へ頷きかけてきた。

 分かっています、僕も護衛依頼を受けた身だ。なんとかしてみせましょう。


「……分かった」


 悔しげな声で応じたゾルさんは、アーマードベアに背を向けず一歩づつ後退していく。彼の仲間達も、ゾルさんのジェスチャーに応じて戦線から離脱していった。

 そして、睨み合う僕とアーマードベアだけが残る。

 会話しながらも全力の威圧をぶつけていたお陰か、未だに攻撃してくる様子は見えない。

 そのまま引いてくれればいいのだが……今の奴の目的は間違いなく、ヘウスキンさんの持つ魔結晶(マナスフィア)だ。

 魔物を喰らい、自身が進化していく味をしめたアーマードベアが、通常の魔物よりも多くの魔力を含んだ魔結晶(マナスフィア)を見逃すとは思えない。

 知能レベルが上がっている奴は、僕相手なら倒すことが出来ると考えているのだろう。

 腹立たしい。


「フェンリット」


 後ろから名前を呼んでくるのはシア。

 彼女を装備出来ればあるいは、それほどの被害を出すことなく戦いを終わらせる事も可能だろう。

 【風ノ衣】(ヘリエスティ)を纏って全力の魔術で戦うか、【力ノ帯】(フォルスリヴァ)を身に着け敵の物理耐久を超えた攻撃を仕掛けるか。どちらにしても、現状に比べて安易に戦況を進められる。

 だがやはり、それは最後の手段にしておきたい。

 僕一人でやれるのなら、それが最高で最適なのだから。


「シアは下がっていてくれ。アイラと一緒にいるといい。――あれはどうしようもなくなった時まで取って置く」

「分かりました」


 相棒から傍観の意思を感じ取る。

 彼女の声音からは、僕を責める色を一切感じない。

 最初から全力を尽くさないのは、護衛対象を軽んじているのと同義なのではないか、そう思う人もいるかもしれない。

 だけど僕は、例えシアを装備化して力の全てを使わずとも、護衛対象を傷つけさせる気は一切ない。

 相棒はそれを理解してくれている。

 それを心強く思いながら、僕は全身に身体強化を施した。


「――征くぞ」


 両手の【荒風吹】(シュラーク・フィスト)ぶつけ合わせ、駆け出す。

 身体強化をしているからこそ出来る前傾姿勢。

 限界まで的を狭めた態勢で接近する。

 アーマードベアの殴撃をギリギリで回避し、巨大な身体の側面で地面を削りながら静止。掌を広げた左手を伸ばして脇腹をエイム、引き絞った右手を振り抜いた。

 バガンッッッ!!!! という鈍い爆音が炸裂する。

 硬い。

 アーマードベアが感じたものと同程度の衝撃が自分に返ってくるのを覚えながら、僕はそのまま巨体を押し切った。

 強引に押し飛ばされたアーマードベアの身体が地面を転がる。

 しかし、あまりダメージを負った様子はなくすぐに立ち上がってしまう。


「やっぱり効果はいまひとつ、か」


 痺れる右手を振りながら、僕は舌打ちと同時に吐き捨てた。

 今の一撃がほぼ効かないのなら、相当な持久戦になるだろう。いや、狙い所がよければ案外通用するだろうか?

 ――頭部、とか。

 駆ける。

 僕の速さに付いていけているのか、アーマードベアは間合いに入った直後に巨大な拳を振るう。

 鋼鉄製にも思えるそれは貰えばひとたまりもない一撃となるだろう。


 全力で、しかし最低限の動きで回避。

 地面と激突し、後ろで土砂が巻き散るのを感じながら、僕はその腕にしがみ付いて全力で引っ張った。

 元々力を込めた攻撃だったのもあり、アーマードベアの巨体が体勢を崩す。

 僕はその隙を狙って跳躍、身体はちょうど敵の側頭部を到達点として浮遊した。


 一撃。

 脳震盪を起こすつもりで放った殴撃は――しかし、いともたやすく回避された。

 アーマードベアが、僕に引っ張られた勢いを殺しきらずそのまま前転したのだ。


「コイツ……ッ!!」


 無駄に頭ばっかり良くなりやがって。

 どうやら自分の弱点が頭部にある、そしてそれを敵が狙ってくるだろうという事まで理解しているらしい。

 厄介極まりない。

 とはいえ、そうまでして庇うという事は頭が弱点で間違いないだろう。

 問題は攻撃を当てる、という点な訳だが――


「――チッ!!」


 アーマードベアが振り返りざま、大木のような腕で横薙ぎを繰り出した。滞空中の僕は回避することも出来ず、咄嗟に硬化術を施し両腕を交差してギリギリで受け止める。

 強烈な痛みと衝撃。

 視界が横向きにブレた。

 風を切る音を聞いて自分が吹き飛ばされているのだと理解する。


 奇跡的と言ったところだろうか、進路上には樹木が無く、減速した僕は両手両足を使って地面を削りながら静止した。

 痛みは……なんとか無視できるレベル。

 硬化術が無かったらまずかったか。


 とはいえコイツ、知能も高けりゃ戦闘経験も豊富と来たか。

 僕にダメージが入ったのを感じ取ったのか、やけに好戦的となったアーマードベアがこちらへと突っ込んで来る。

 今のうちに魔結晶(マナスフィア)を奪いにいけばいいものを。

 あれを守っている人たちに、お前に勝るものはいないだろうに。

 まあ、僕を危険因子と認識してくれている分には困らないからいいけれど。


 攻防が始まる。

 物理的な耐久力の高いアーマードベアには、今の僕の全力以下の攻撃ではあまりダメージが通らない。

 実際、本丸の一撃を繰り出す為の牽制の一撃ですら殆どひるまず、その攻撃の倍近くある威力の攻撃を容易く放ってくる。


 それを回避するのは容易だ。

 何の問題もない。

 問題はコイツが、僕が今まで戦ってきた中で最も『硬い』存在であるという点。

 生半可な攻撃では痛みを感じてくれない、本気の一撃ですら多少怯む程度で、致命傷レベルのダメージを与えるには相当な『数』を撃たなければいけないだろう点だった。


 頭部への一撃も、期待通りの威力を発揮してもらえなかった。

 むしろ耐えられるレベルだと理解されてしまい、頭の守りを薄く、攻撃の手数を増やしてきた。

 逆に、物理攻撃に頼っていた僕は打てる手を失っていく。

 苦し紛れに放つ魔術攻撃も、他の攻撃よりは効果があるようだが、やはり致命傷を与えることが出来ない。


「相性が悪すぎる」


 ――ああ、いや、それはただの言い訳だろう。

 結局は自分の力不足で、魔術を全力で使えないというのも自分が悪いことで、この状況を肯定できる要素にはなりえない。

 やはり僕は、シアがいないとダメなのか。

 全てを諦め、全てをシアに頼ろうとした。


 その時だった。


「援護しよう」


 聞き覚えのある声だった。

 そして、聞き覚えのない声音だった。

 片膝をつく僕の隣、そこに感じた気配の方へ視線を向ければ、そこにはやはり見覚えのある人影があった。

 華奢な身体を覆う白い外套、暗青色の髪色に、狼人(リュコス)を示す耳と尻尾。

 パーティを組んで共に護衛依頼を受けた、僕が一方的に男だと思っていた、本当は女の子だった冒険者。

 アイラ=レインルプス。

 だが。

 明らかに、雰囲気が違う。

 明らかに、間違いなく、紛れもなくコイツは"男"だ。


「ああ、名乗るのを忘れていたな」


 前髪をあげて視界を広げたその女――いや、"男"は。


「オレはライカ=レインルプス」


 波の無い湖の水面のように静かな表情で言った。


「――アイラの兄だ。よろしく頼む、フェンリット」


 

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