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(旧)暗躍英雄のアフターライフ  作者: 瀬乃そそぎ
第2章 青き双魂のブレイドダンサー
30/40

2-08 夜間哨戒

お待たせしました。詳しくは活動報告で。


前回までのあらすじ

・アイラと共にヘウスキンさんのキャラバン護衛をする事になったフェンリットらだが、魔物の稀少種の存在や、同じ依頼を受けた他のパーティと険悪な雰囲気になるなど、懸念事項が多い中で護衛が始まった。



 ただ護衛をするだけとはいえ、パーティが複数ある以上決めなければいけない事はいくつかある。

 陣形について話し合ったり、索敵に特化した人がいるのなら、斥候の役割を割り振ったりと様々だ。

 僕は正直、この周辺レベルの魔物ならば発見してからでも全然対応できる。

 だが、何が起こるか分からないのが外の世界だし、今回戦うのは僕だけではない。

 シアの安全性も考えれば、定石に則った構成をしておいた方がいいはずだ。


 出発前、パーティ間での話し合いにゾルさんは参加してこなかった。

 代わりにやって来た彼のパーティメンバーが参加し、僕、そしてグロスさんの三人で方針を決める。

 その結果、僕とシア、アイラの三人はキャラバンの背後に着く形に落ち着いた。


「なんだかガッカリですね……」


 呟いたのは、肩を落としてトボトボと歩くシアだった。

 僕らは人数が少ないため少し離れた位置を歩いている。

 中心が僕、アイラが左側、シアが右側とアバウトな配置だけど、どちらにもカバー出来るようにするつもりだ。

 本音を言うとアイラも、予想していたほど強くは無かった。

 いざと言う時はどちらにも助けに入らなければならないだろう。

 それに、懸念事項だってある……。


「女の子、いなかったもんねー」


 アイラの言葉にシアが頷く。

 確かに彼の言う通り、今回の護衛依頼に女性はシアを除いて一人もいなかった。ゾルさんのパーティもグロスさんのパーティも全員男で構成されている。

 その上、会っていきなりあんな対応をされたのだ。

 この護衛依頼を地味に楽しみにしていたらしいシアは絶賛傷心中である。


「なんていうか、ギャフンって言わせてやりたいですねあの人……。フェンリット、今度何かあったら少し痛い目見せてやってくれません?」


「面倒くさいからやだよそんなの。これから数日間一緒にいるのに、わざわざより険悪になる必要ないし」


「むー、確かにそうですが」


「実際あの人の言うことは正論でしかなくて、僕らが邪道であることに違いはない。だから、彼等に『足手纏い』だと思われないよう頑張るしかないんだよ」


 シアから視線を逸らし前を見て歩きだせば、アイラが不意に小さな声を掛けてきた。


「ねぇフェンリット君。君はどうして、自分の等級を知らせないんだい? 【頂級】(グランドマスター)、なんて言われればあっちは黙ると思うんだけどな」


 彼の方を見れば、心底不思議そうな表情で首を傾げていた。

 確かにその疑問を抱くのは分かる。

 僕が等級を公表すれば、端的に、僕へ口答えしてくる様な人はいなくなるだろうし、以前のように酒場で絡まれるような事も無くなるだろう。

 でも僕は、そんなことは出来ない。

 したくない。

 等級を盾にするなんて事を、僕みたいな人間が出来るはずもない。

 それがキッカケで、よく知りもしない相手に自分への興味を持たれるなんてことに、なりたくはない。

 だから僕は、一言で応じた。


「色々あるんだよ」


「……そっか。それなら仕方ないね」


 簡単に納得したらしいアイラは、両手を頭の後ろで組みながら前を向く。

 退屈そうに、油断だらけの足捌きで歩きながら彼は言った。


「それにしても、全然魔物に出会わないねー。偶然にしてはちょっと違和感を感じるかも」


 彼が蹴った石ころを目で追いながら僕は応じる。


「うん。しばらく進んでいるのに、一向に魔物が出てくる気配がない。流石におかしいな」


「戦う必要がないのは良い事なんじゃないですか?」


 シアの言葉に頷き返す。


「確かに"今"はいいけれど。これがなんらかの異常だとしたら、それを把握していないのは恐ろしいよね」


「ボク達が活動するにおいて、一番怖いのは『知らない事』だからねー」


 まあ、冒険者に限った話ではないだろう。

 知っていれば対応できたことも、知らなければ対応できず、結果死に至るかもしれない。

 戦闘に従事する者にとっては特に顕著な話だ。


「この状況、フェンリットには何か心当たりはないんですか?」


「僕を万能に見られても困るよ。流石に何でもは知らない。でも……正直今回の件については、可能性が一つある」


「……稀少種のことかな?」


 横目でこちらを見てくるアイラに、僕は頷く。


「結局、出発まで稀少種が倒されたっていう話は一切聞かなかった。もし、もしも、稀少種が……」


 声に出してはいけないと思い、口を噤む。

 静かな時間が流れた。

 アイラもそれを理解しているのか、普段の天真爛漫なさまは成りを収めている。

 しばらくして、やっと話に追いついたのかシアが呟いた。


「稀少種が進化していたら、最悪だと……そういうことですね」


「……あぁ」


 進化種。

 魔物を、その魔結晶(マナスフィア)を喰らう事により強化された魔物を指す言葉。

 それらは軒並みその力を増していて、凶暴になっている事が多い。

 魔結晶(マナスフィア)を喰らい、自分が強くなる事を感覚的に理解した奴等は、その後も積極的に魔物を喰らって己を強化する。


 単純に進化種が現れただけならばまだいい。

 早い段階で倒しておけば何の問題もない。

 だが、もしも、件の稀少種が進化してしまっていたら。

 凄まじい速度で魔物を、魔結晶(マナスフィア)を喰らって強化されてしまっていれば。

 その存在は、間違いなく多くの被害を出すだろう。


「でも実際、それって偶然に偶然が重なった奇跡的な可能性だし。注意しておくのは大事だけど、考え込みすぎてもどつぼに嵌まるだけだよ」


 アイラの言葉に頷き返す。

 彼の言う通り、相当低確率な事態だ。

 可能性があると警戒しておくだけで今は十分だろう。

 まあ、警戒していたからといって、それと遭遇するのを避けられるわけではないだろうが。


「もし出会っちゃったら……その時は、覚悟を決めて挑むしかないね」


「面倒極まりないけれど、放っておくわけにもいかないしな」


 アイラに賛同しつつ、実際にその時が来た場合を想定する。

 いざとなったらシアを――【風ノ衣】(ヘリエスティ)を装備するしかないだろう。

 だが、それはなるべく避けたいところだ。

 まだ一度も戦闘になっていないこともあり、他のパーティの面子がどれほど戦えるか分からない。

 最悪、僕が敵を引き連れて場を離脱、時間を掛けてでもなんとか倒すしかないか……。

 もし他の人達と別れることが出来れば、【風ノ衣】(ヘリエスティ)を纏っても問題はない。


「まあ、フェンリットくんもいるし案外何とかなるかもね?」


「……何が根拠になってるか知らないけど、あまり楽観的に期待されても困るぞ」


 大方、僕が【頂級】(グランドマスター)だからと考えているのだろうが。


「僕にだって出来ない事はあるし……それに、今の僕は本調子じゃないから」


 本調子、というよりは単純に『全力を出せない』だけだが。

 シアを装備しなければロクに魔術を使うことも出来ないこの身体。

 不甲斐ないと思うのと同時に、それも受け入れなければならない事だと再認識する。

 と、その時だった。


「……前の方で戦いが始まったみたいだね」


 突然止まるキャラバンと一緒に僕らも静止し、周囲への注意を強める。

 先頭を担っているのはゾルさんが率いるパーティだ。

 今戦っているのも彼等だろう。


「万が一彼等に何かがあったとしても、グロスさん達がカバーに入るだろう。僕達は背後からの襲撃に備えよう」


 おそらく現在交戦中のゾルさん達がいる前方を伺い見る。

 出来る事ならば、早い段階で彼らの戦闘能力を把握しておきたかった。

 だが、持ち場を離れるわけにはいかない。

 シアとアイラの二人に安心して任せられる程の実力があったならよかったけれど、そうでないのだから仕方がない。

 何か混戦になるような出来事が起きでもしない限り、彼らがどの程度戦えるかは分からないままだろう。


「……まあ、何も起きないならいいんだけど」


 しばらくして、キャラバン前方での戦闘は終わった。

 僕らは敵が来る気配のない後方を進みながら、護衛を続けた。

 その間にも何度か、ゾルさんやグロスさんのパーティは戦闘を行ったらしかった。

 この辺りに出てくる魔物はまだ、大して強くないものが多いので、僕らは特に気にする事も無く歩みを進めていた。

 ――結果、僕らは夜に至るまで、一度も戦闘することが無かった。



 

 夜になれば、移動を止めて野営を開始する。

 近くに綺麗な川が流れている、丁度いいスポットを見つけた僕らは、そこで準備を開始した。

 ……まあ、こういう正道の近くには、こうして野営をするために先人が作った『場』というやつが元々あるのかもしれないけれど。

 テントを建てるなどして野営の準備か完了した後は、パーティごとに話し合いの時間がやって来る。

 ようは、夜警についてどうするか、という訳だが……、


「おいテメェら、今日の移動中、一度でも戦闘したか?」

「は?」


 集まって早々、開口一番に僕へと突っかかって来たのは、やはりあの男……ゾルさんだった。

 少し身長の高い彼は、見下ろす様に僕を睨みつけながらそう吐き捨てる。


「俺達は今日、何度も魔物の相手をした。グロスのパーティだって同じだろうな。でもテメェらは俺が知る限りじゃ一度も戦ってないと思うが、どうなんだって聞いてんだよ」


 思わず呆けた声を上げた僕に、更に声を低くして言葉を重ねてくる。

 話題に出てきたグロスさんは何も言わず、目を閉じて事の成り行きを伺っていた。

 シアとアイラは話し合いに同行したいということで、僕の後ろについている。

 そんな中で、僕は静かに応じた。


「確かに、戦闘は一度もしていませんね」

「そうだろうな。なら、俺が言いたい事は分かるよな?」


 見下す様な口調。

 僕はなんとなく嫌な予感を感じとり、適当に返した。


「分かりませんが」

「ふざけてんじゃねえ。今日の夜警をテメェらのパーティで回せって言ってんだよ」


 ――つまりはそういうことだった。

 彼の言い分はこうだろう。

 度重なる戦闘で疲労している自分達ではなく、一度も交戦せずに歩いているだけだった僕らが、夜間の警戒をするのは当たり前だ、と。

 この発言に、声を荒げてしまったのはシアだった。


「あなたっ! それは流石に――」

「理不尽が過ぎるのでは?」


 シアの言葉を制し、パーティリーダーである僕が異論を唱える。

 無論、こんなやり取りだけで退くほど、ゾルさんも我が弱くはなく、


「どこが理不尽だよ。俺達は疲れてんだ。のうのうと歩いていただけのテメェらは体力が有り余ってんだろうが」


 確かに、彼の言い分も間違いではない。

 僕らは偶然にも、一度たりとも戦っていない。

 言ってしまえば歩きながら周囲を警戒していただけで、この中では最も疲労とは無縁だろう。


 かえって彼等は何度と戦闘を繰り返し疲労している。

 見張りを任せて、寝落ちでもされようものなら堪ったものではない。

 人道的にも、僕らが請け負う事が普遍的に見える……そう思うはずだ。


 ――だが流石、にこの提案を全面的に呑む訳にはいかない。

 我慢我慢と思っていたが、そろそろちょっとだけ限界を迎えた。


「いい加減にしろ」

「……あ?」


 ドスの効いた声で先を促してくるゾルさんに、僕はあくまで淡々とした口調で応じる。


「貴方の言い分を呑むつもりはありません」

「ん、だとテメェ……」

「そもそも、僕らをあの配置にしたのはあなたの采配だ。代わりに話し合いへやって来た仲間に、僕らが後方に配置されるよう指示したんでしょう。本来、一番負担が大きいのは後方護衛のはずですからね」


 二の句が継げないゾルさんに、畳みかけるように言う。


「あの時、僕らは特に反論もせずあなたの意見を受け入れた。甘んじて後方護衛につきました。すると今度は、その結果運よく戦闘のなかった僕らに一夜中警戒をさせる? ――それは流石に、虫がよすぎるだろう」


 一応温厚を装っていた僕が、突然冷徹な声を発するようになり、ゾルさんとグロスさんは目を見開いていた。

 後ろでは、シアが「よく言ってくれました」と満足げにしている気配を感じる。

 それら全てを無視し、僕は妥協案を告げた。


「二番手だ」

「……?」

「見張りのタイミングの話です。あなたの言う『一番疲労していない僕らが最も負担を負うべき』という意見には一理あります。なので、一番負担の大きい二番手を()が引き受けます」


 夜警をするとなれば、この場合だと三パーティで交代制にするのが定石だ。

 その中で最も負担が大きいのが、二番目に順番が回ってくるパーティである。

 理由は単純で、一番手なら終わってしまえば朝まで眠れる。

 三番手は、順番が来るまで眠る事が出来る。

 だが、二番手はそのどちらでもない。

 順番が来るまで短い睡眠をし、順番が終わって再び短い睡眠をとる――という形になってしまうのだ。


「これが、僕らの出来る最大限の譲歩です」


 僕らは三人パーティなので、一人あたりの警戒時間が長い。

 けれどまあ、この程度ならばシアとアイラに頼らずとも、僕一人でこなすことが出来るだろう。

 実際ゾルさんの言う通りで、これといって疲労したという訳でもない。

 シアとアイラを寝かせて、僕が一人で夜警の二番手を担い、後続に任せて仮眠を取る。

 これでいいだろう。


「ただ、一つだけ覚えておいてください」

「……な、なんだよ」


 直後、僕はゾルさんへと威圧感を向けた。

 彼は目に見えて分かるほどブルリと身体を震わせて硬直する。

 どうやら標的が甘かったらしく、グロスさんも驚いた表情を浮かべてこちらを向いていた。


「他人を雑に扱うのは良いがですが、相応の覚悟をしておくことです」


この場にいる人間全ての視線が集まるのを感じながら僕は言う。


「――いざと言う時、僕たちが貴方を助けるとは限らない」


 シンと場が静まり返った。

 これは軽い脅し、抑止力。

 実際に彼らが危機的状況に陥っていれば、僕は助けるために動いてしまうだろうから。


「では」


 他の細かい事はゾルさんとグロスさんが二人で決めればいいだろう。

 中間の僕は、二人のやり方に従って夜の見張りをするだけ。

 さっきの威圧は大分効いているようだし、滅多な事にはならないはずだ。

 僕が踵を返すと、シアとアイラが追従してくる。

 背中には、しばらくの間二人の視線を感じていた。






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