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(旧)暗躍英雄のアフターライフ  作者: 瀬乃そそぎ
第2章 青き双魂のブレイドダンサー
24/40

2-02 邂逅前夜


■ フェンリット



 淡い水色が混ざり合うような、オレンジ色の空が綺麗な夕暮れ時。


 ここ、イーレムの町には影が差し、魔結晶(マナスフィア)によってエネルギー供給された街灯の法具が明かりを灯し始めた。しかし町が静まる事はなく、一番大きな通りでは未だに人々が行き交い喧騒に包まれている。街灯の法具は完全に灯るまで少し時間が掛かる作りになっていて、まだ遠くの人の顔が分かるほどハッキリと照らされている訳では無かった。


 そんな薄明るい空間を足早に駆け抜けるシアに、僕は一声かけた。


「走るなよシア、危ない」


 すると返ってくるのは楽しそうな声音。


「大丈夫ですよー! 私はしっかり見えているので!!」


 僕より数歩先の場所で振り返ったシアは、身に着ける和装のスカートを揺らしながら笑みを浮かべた。

 シアの頭には狐の耳が、臀部には木の葉形の尻尾が生えている。そんな彼女はいわゆる亜人種、狐人族(ルナール)であるため夜目が利くのだ。普通の人族(ヒューマン)である僕より、普段の視野は広い。

 だが、僕が声を掛けた理由はそこにはなかった。


「そういう話じゃない訳だが。周りの人の迷惑になるだろ」


 ぶつからずとも、走っている人がいれば注意――声を掛ける方の意味ではない――するのが人間だ。

 そんな事を考えていると、言わんこっちゃない。

 早速シアが躓いて、近くにいた子供の方に倒れそうになる。


「っ」


 事前にシアの挙動に注意していた僕は、彼女が体勢を崩し始めた時には動いていた。

 前のめりになる彼女の左腕を掴み、思いきり自分の方へと引き寄せる。


 すると彼女は簡単に立ち直り――どころか、逆に僕の方へ倒れてくる。思った以上にシアが軽かったのもあり、少し強めに引いてしまった。


「きゃうっ」


 仕方なく身体で受け止めると、効果音のようにそんな声が聞こえてきた。

 格好がつかないのは、彼女の方が身長が高く、むしろ僕の顔が彼女の胸に埋まってしまいそうになるからだった。


 つまりなんというか、アレだ。

 柔らかくて良い匂いがした。


 ともあれ別に、何か特別な感情が湧き上がる訳でもない。相手はシアで、彼女程の胸が柔らかく、女性という存在がどういう理由かは不明だけれど何やら良い匂いがするためそこに異性を感じるのは自明の理というやつな訳で、つまりいつも通りだった。


 体格差があれど、簡単には倒れないよう体幹は鍛えてある。

 しっかりと彼女を受け止めた僕は尋ねた。


「おい、大丈夫か? だから言っただろ、危ないって」


「ううぅ……すいませぇん」


 弱々しい声を上げるシアに溜息をついていると、不意に近くの子供が僕らを指でさしてきた。

 直後、その子が夕暮れの町中に大声の爆弾を落とした。



「ねーねーママー、なんかお兄さんとお姉さんが抱き合ってるー」



 ビクッと身体が震えた。

 隣に立つ母親らしき女性の服の裾を引っ張り、こちらに指を向ける少年の言葉とまなざしからは、一切の邪気を感じられない。


 だけど違う、そうじゃない。


 僕は転びそうになったシアを止めてそのまま態勢を支えただけであって別に民衆のど真ん中で熱い抱擁を交わしているとかそういう訳ではなく背中に手を回しているのだって体格的に僕の方が劣っている訳で魔術の力が無いと一般男性よりちょっと筋肉がある程度だから――っ!!


 なんて言い訳が口から出る事は無く、僕の中でぐるぐると渦を巻く。

 例え口に出たところで意味もない。

 僕は胸に抱えるシアの身体を引き剥がそうとするが……


「……オイッ!!」


 彼女は僕の胴体を両腕でしっかりとホールドして離そうとしない。

 完全に捕捉されていた。


「(えぇ、そうですよどうして気付かなかったんでしょう。外堀から埋めてしまえばいいのです……)」


 こいつは何を不穏なこと言ってやがる。


「(なにせフェンリット、このままでは一切手を出してくる気がしませんし……おかしい、おかしいです。手応え的には間違いなくお互い好き合っている筈なのに、同じ屋根の下で寝泊まりしていても何も起きないなんて……)」


「……、」


「(私の押しが足りないに違いありません、えぇ。これからはもう少し積極的にいくとして、コレはその第一歩……)」


 呆れてものも言えない僕の頬がピクピクと痙攣する中、多くの視線が僕らの元へ集まってくる。


「あれ、アイツ確かギルドで……」

「何を町中で見せつけてきやがるんだクソ、くたばれ」

「オイ馬鹿聞こえるぞ」


 道を行く冒険者であろう人達がそんな話を小声で繰り広げるも、残念ながらすべて聞こえている。


 裾を引かれていた母親は「見ちゃダメよリュート」とか言いながら子供の腕を引き、僕らから離れていく。その間にも、いろんな人が視線を寄越しては直ぐに逸らして離れていく。興味本位でニヤニヤ顔を向けてくる人もいれば、舌打ちをする人もいて、完全に晒し者となっていた。


 流石の僕も我慢が効かなくなり、思っていた以上に低くなった声でシアに呼びかける。


「いい加減にしろ」


 言いながら、彼女の頭頂部に拳骨を落とした。


「いぎッ!?」


 女性らしからぬ声を上げたシアは抱擁を解き、頭を押さえてしゃがみ込んだ。

 プルプルと震える彼女を見下ろしてから、周囲を見渡す。

 完全に一連のやり取りは目撃されていた。

 ならば僕が取り得る選択肢はただ一つ。


「さて、さっさとギルドに向かうとしようか」


 何事も無かったかのように、シアを置いて歩き出すだけ。

 ギルドの方へ歩を進めた僕に対し、人だかりは道を譲るように左右に割れる。

 何も言えなかった。




 置いていかれたシアが涙目で「待ってくださいよぉ~」と駆け寄ってくるのを横目に、僕は歩き続けた。縋り付くように右腕に絡んでくるシアを、鬱陶しいと引き離してから告げる。


「二度目はないぞ?」


「うぅ……でも」


「でもじゃない」


「……はーい」


 はいは伸ばさない、と言いそうになりながら、僕はシアから視線を切る。

 今の目的はギルドで討伐依頼の達成報告と、手に入れた魔結晶(マナスフィア)の売却、そして。

 コートのポケットに入っている、誰のものかも分からない髪紐を届ける事だ。


「交番とかがあるならそこに届けるんだけど、そもそも落し物を管理する組織なんてないからなぁ」


「そうなんですか?」


 疑問符を浮かべるシアに、適当な調子で説明する。


「基本、価値のある落し物はそれを拾った奴が勝手に自分のモノにするし。その上で売り払われたりする訳だが」


「なるほど。それが普通、というのも微妙に何とも言えませんが、そんなものなんですね」


「ああ、そんなもんなんだよ」


 そんなもんとしか言いようがない。


 僕の場合、髪紐に必要性を感じない上、この世界の人々と倫理観が違っている。流石に、落し物を勝手に売り払うなんて行為は出来なかった。そこまで金に困っている訳でもないし、正直これを売ったところで大した金になるとも思えない。


 でも、綺麗な事は綺麗な髪紐だった。

 汚れもあまりなく、最近落としたものだと推測できる。


 町の外に落ちてたし、そもそも僕が現状所属する組織系統が冒険者ギルドしかないので、そこに届ける事にしたのだ。

 まあ知らんぷりをかますという手もあったけれど、それもあまり後味が良くないからね。

 

「もうここも完全に直ってますね」


 シアが眺めているのは、以前ドラゴニュートとの戦闘で半壊した噴水広場だった。石造りの道路は完全に整えられ、噴水もその機能を復活している。この時間でもまだ小さな子供が何人か遊んでいて、親らしき人達がその様子をベンチで見守っていた。


 あの戦いで子供に被害が出なかったのは僥倖というやつだろう。


「まあ建築技術も魔術によって底上げされているからな。主に効率方面で」


「魔術って本当に便利ですよね。どうして私は使えないのでしょう……心の底から悔やまれます」


「シアが魔術まで使えたら反則が過ぎるんだって」


 似たような問答を以前もしたなぁと思いながら、僕らは町中を歩んでいく。


「そういえば、フェンリットが攻撃魔術……特に風と雷以外が全然使えないのは元からなんですか? なんというか、才能的な」


 今日の昼間に少しだけ触れた話題を思い出したシアが尋ねてくる。


 彼女の言う通り僕は、こと魔術においては良い腕を持っていると自負しているが、それは『攻撃系統』に限る。まあその魔術の腕も、今やシアの協力が無ければ良くて"上の下"レベルだけれど。


 戦闘能力を攻撃力と等式で結んでいいのなら、僕は生半可な相手に負けるつもりはない。

 それほどまでには、客観的に見て攻撃系の術式威力は高いだろう。


 この場合で言う攻撃魔術は、単純に『火の玉を撃つ』『風の刃を放つ』『雷撃を落とす』等と言ったものだ。

 だが、魔術はそれだけではない。

 その二文字にあらゆる可能性を秘めている。


「考えた事も無いなぁ。そもそも僕が魔術の腕を磨いたのだって、全ては勇者達の補佐をする為だし。となれば、敵は魔物やら魔王やらに限られてくる訳で」


 魔物相手に搦め手や裏をかいた攻撃はあまり必要ない。

 求められるのは、その防御を打ち破る圧倒的な火力。最終的に、そこへと回帰する。


「つまり、元より"単純な攻撃魔術"以外は眼中になかった、という事ですか」


「それは少し言いすぎだけど、大体そんな感じ。とはいえそれだけじゃ固定砲台と変わらないから、他にも色々学んだけどね」


 魔術を使わない単純な運動能力の底上げや、"魔術的な身体能力の補助"等も鍛えてきた。


「でもたぶん、僕は他の魔術は使えない」


「どうしてですか?」


「実は子供の頃に少しだけ試してみたんだけど、あまり上手くいかなかったんだよね。だから僕に適性があるのは純粋な攻撃系統の魔術だけなんだと思う」


 それでも今まではあまり苦労したことがなかった。魔物とは攻撃魔術さえ使えれば渡り合えるし、魔王についてもそれが下位魔王なら、先日の事件の時のように相手取る事が出来る。

 向上心がないわけではないけれど、魔術に関しては現状、これよりも先に進めるビジョンは見えなかった。


 その後、ギルドに到着した僕らは、目的を果たす。依頼を完了して金を貰い、魔結晶(マナスフィア)を売り払って金を貰い、例の髪紐を受付嬢さんに預けた。


 落とし主が気付いてギルドに問い合わせてくれるいいのだが。折角届けたのだから、無事に持ち主の下へと帰ってほしいとは思う。


 まあ正直、髪紐なんかを町の外で落としてしまったら、僕なら一瞬で諦めてしまうだろうけれど。


「さて、帰るか」


 近いうちにこの町ともおさらばする。

 願わくばそれまでに持ち主が見つかって、後味良く旅立てることを。



 

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