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短編の予定です。
私は小さな紙片に書かれた複雑な道順を頼りに、新宿駅の迷路のような構内をぐるぐると歩き回っている。
『大丈夫! 《七浜》さんなら、きっと佐藤さんをなんとかしてくれるから!』
私の担当マネージャーがそう言って、何人もの有名声優の名前を読み挙げていった時の事を思い出す。彼らを担当していた敏腕マネージャー。それがこの紙切れを渡してきた、七浜という怪しい男だというのだ。
『業界内じゃ本当に有名な人なんだ。佐藤さんみたいに、素質はあるけどパッとしない声優を何人も超人気声優にしてきたってね。その七浜さんが、佐藤さんの演技指導してくれるっていうんだから、これはもう勝ったも同然さ!』
大興奮していたな、私の担当マネ。
でも七浜って人には、この紙切れを渡されただけなんだけど……。
それにこのお店の名前! 本当はふざけてるんじゃないのかな。
もう何回、同じ道を通っただろうか。
このテナントはさっき見た、あれも隣を通ったはず。
本当にこんな道順に意味なんてあるのだろうか?
私、実はあの胡散臭い男に騙されているのでは無いだろうか?
そんな事を考えながらも、藁にもすがる思いで、ひたすらに複雑な道順を辿っていた。
そう、目的地の《異世界屋》を目指して。




