表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Alchemy:2039  作者: 果糖
6/11

終了、そして覚醒

お久しぶりです。第六話です。


 


 全会一致によりパレードに対抗することが決まったアルケミー達。

 その後コンスルとレージーナを交えてショウタイムにおける具体的な作戦を練ることとなった。


 ……二人はその度に出てくるトンデモ技術に幾度も白目になるのだが、それは割愛しよう。


 長い摺り合わせにより、途中戦闘を交えつつ何とか陣形が決まったところで、一先ずお開きとなった所である。



「――では、これで本決まりとさせていただきます。

 以降は個々人でメッセージによる摺り合わせを行っていただく、ということでよろしいでしょうか?」



 コンスルの疲労に満ち満ちた声が、会議室内に広がる。

 円卓に並ぶ面々も流石に疲労を覚えたようで、力なく頷く。

 唯一この場におらず、エルフを用いて通信を行っている人形狂ですら、疲労からか動作が何処かぎこちない。



「……おわったぁ」

「こんな疲れたのは昔のベンチャー時代以来だぞ……」

「普段の演奏をした後とはまた違う疲労感……キツイねこれは」

「私達はそこまでやる事も複雑ではありませんが、流石に疲れましたわね」

「こんな長くお酒を断たれるの初めて……」

「日頃の節制がしっかりしていないからこうなるんですよ?これを機にですね……」



 アルケミー達も並々ならぬ疲労に体が応えている様子を見せている。

 その中で、教授はけろっとした顔で作戦案と予算表を見比べながら算盤を弾いていた。

 横にはエルフの姿で細かくアイテムの種類や必要数をギルドの記入用紙に記入している人形狂の姿が見える。

 どうやら二人は作戦に使用するアイテムの発注書を整理しつつ、予算を纏めているようだ。

 レージーナも記入が終わった用紙の整理や分類分けを行っている。



「しかし、このままだと大赤字じゃのう」

「申し訳ございません……私共も最大限予算を引っ張ってきたのですが……」

「《ショウタイムで何かと入り用なのは百も承知だ。気に病むことは無い》」

「あ、ありがとうございます」

「貴様ァ!フォローを入れながらさりげなく人形用ドレスを発注書に書き込むんじゃあない!」

「《チッ……》」

「あはははは……」



 ……まあ、こちらはこちらで平常運転であった。

 また、規格外二人に振り回されて若干涙目のレージーナだが、そこは仮にも女王。

 今も頑なにこちらを見ようとしないコンスルが実務のほとんどを行っているが、

 このような事務的な書類仕事には一日の長がある。


 そんな彼女の尽力もありつつ、無事に書類作成も終了した。

 VRであるのに関わらず、腰を叩く教授の横で、

 仕事が終わったことを確認した人形狂は書類を纏めてレージーナに手渡しながら



「《――では、そろそろ私はお暇させてもらう》」

「は、はい。当日までに何かありましたら、後ほどご連絡をお願いいたします」

「なんじゃ。もう帰るのか」

「《そろそろ作業に集中したいのでね。この子(エルフ)にもやってもらうことが山ほどある》」



 ――ではな。と円卓の面々を一瞥した後、

 最初の焼き直しの如く、エルフは昏倒したかのように力なく椅子にもたれかかる。

 次の瞬間。起動したエルフが目を覚ます。



「――では。私もこれにて失礼させていただきます。

 皆々様。本日は誠にお疲れ様でございました」



 胸に手を当てて一礼すると、近場の窓枠に手をかけて躊躇なく飛び降りる。

 ゲームとはいえ躊躇なく三階の高さから飛び降りることに驚愕する面々(どこぞの巨乳と貧乳は別だが)。

 その数瞬後。巨大なワシのような魔物に乗って高く飛翔したエルフは、あっという間に見えなくなった。



「ふむ、では私達も失礼するとしよう」

「明日は忙しくなりそうですわね」

「調達する種に苗木に……」

「魔石の在庫足りるかなー」



 エルフが去ったのを皮切りに、各々も解散の流れとなった。



「ふわぁ、大変だねぇ。わたしも帰って寝てよっと」

「何言ってるんですか、貴女は今からレベリングに集中ですよ」

「ナンデェ!?」

「当たり前です。私達は前線要員なのだから限界までステータスを強化しないといけません」

「ええ~?」

「ええ~ではありません!早速今からラクシェ・ロスタム遺跡でレベリングです!」

「あそこ魔物多いから嫌いなんだよねぇ~」

「その分効率的にレベリングができるじゃないですか。さあ、だらけてないで行きますよ!」

「く、くびしまってる。絞まってるってぇ!」



 一部騒がしい者達もいるが、兎にも角にも、

 各人は自分達の予定とにらめっこしつつ、会議室を去っていく。



「では、また明日。よろしくお願いいたします」

「お主達もな。これでショウタイムに負けたら元も子もないわい」

「それはお任せを。新陣形もようやく馴染んできたところです。

 代替わりしたサマナー達のレベルも申し分ない状態ですし、勝ちますよ我々は」

「あの小僧共か……正直不安じゃが、なるようになるしかないのう」

「はい。こちらとしても対パレード作戦に集中できるよう尽力致します」

「頼むぞ。何だかんだ言いつつ、戦争は数で決まる」

「了解です」



 そして最後の教授とコンスル達も会議室を後にする。

 扉を閉めた後には、今までの喧噪とは打って変わって閑散とした室内が残るのみであった……。





 ■■■■





 彼らが会議室を後にした時と同じく、とある森の中。

 神秘的な空気が流れる森の最奥にこれまたひっそりと建つ一軒の家があった。



「――さて、これで大体は揃ったか」



 家の中、部屋の片隅。大量のアイテムが所狭しと並ぶ雑多な空間に、

 ランタンに照らされた黒ローブの男の声だけが響く。

 壁には至る所に吊るされた人形の手足が広がっている。

 この男こそ人形狂。



「しかし、このタイミングでパレードが出てくるとはな……」



 会議中、最もパレードに対して積極的だった人形狂だが、その実最も焦りを覚えていたのもまた、この男だ。

 如何に望んでいた展開だとしても、如何せん時間が無さ過ぎる。

 ショウタイムまでオムニス内時間で残り40時間を切り、これから全ての計画を準備しなければならない。

 作業は膨大。しかも肝心の計画は急ごしらえで練った計画故に成功率も低い。

 考えれば考えるだけドツボに嵌る幻覚が見えてくる気がする。と自嘲する人形狂。



(――兎にも角にも行動を。備えは幾らあっても足らんからな)



 気持ちを切り替えて現状の確認を。

 そう決意を新たにした人形狂は、早速行動に移ることにした。



「――ということで最後の準備を始める。後は任せた、シルキー(・・・・)

「――かしこまりました。御主人様」



 語りかける人形狂に対して返事を返したのは一人の女性であった。

 流れるような絹を使用した純白のメイド服。

 見るからに高級感漂うそれを身につけるのは、天使の如き容姿をした金髪の美女。

 街を歩けば誰もが振り返るだろう女性こそ、この拠点の管理を任せられた唯一の存在。

 人形狂が有する戦力「人形劇」の内の1体。


 ――妖精型自動人形「シルキー」である。



「詳細内容はお前の姉から既に通達済みだろうが……」

「承知しております。私は速やかに必要資材の確認、及び調達を致します。更に――」

「――『人形劇』総員に通達。今回は全戦力を投入する可能性もある。とな」



 (エルフ)からの意識伝達で既知ではあるが、その言葉に緊張を隠せないシルキー。

 主がここまで活発に行動するのは、あの忌々しい老いぼれとの抗争以来だ。

 それだけに責任は重い。早速、全人形へ意識伝達を行う。



 《――全姉妹へ通達》

 《こちら『人形劇』妖精部隊・副隊長。シルキー》

 《御主人様からの通達です。聞き逃すことは許されません》

 《総員。現在進行中の作業を一時中断。全部隊の最優先目標を本日のショウタイムへと移行します》

 《第三クローゼットの全面解放を許可。各自装備着用後、速やかに本拠点へ集合せよ》

 《繰り返します。総員。現在進行中の作業を――》



 人形狂が製作した自動人形は、全て意識伝達の機能を有している。

 その機能を使用し、シルキーはアウラ全土に広がる全人形へ通達を続けていく。

 淀みなく、ただ事務的に。

 それはある意味、最も人形であると自覚させる姿であった。







 ◇◇◇◇







「――ここで、使うとは思っていなかった」



 シルキーが通信を行っている最中。

 人形狂は一人離れ、自らの工房の奥の奥……倉庫へ足を踏み入れていた。

 倉庫の中には所狭しと様々な物品が敷き詰められている。

 人形の手足、胴体、伽藍洞の頭部を始めとする細々とした自動人形用のパーツ群。

 薬品や輝く宝石と思わしき物まで床に転がされている。


 その中で一際異質な空間が存在していた。

 乱雑に物が転がる空間に一か所。空白地帯があった。

 その空白へと足を踏み入れる人形狂。

 手には何らかの薬品。赤みがかった金色の輝きを放つ液体。



「本来ならテストをするべきなのだがな。事が事だ」



 独り言を止めることのない人形狂。

 まるで誰か傍にいるように語りつづける。


 そして、それは決して間違いではない。



「今日がお前のお披露目だ。バンシー(・・・・)



 バンシー。そう呼ばれた者は空白の中にポツンと立てかけられていた。

 美少女と呼ぶにふさわしき容姿と裏腹に、

 起きていないのにどこか表情に悲壮感を帯びた自動人形。

 その少女は今か今かと目覚めの時を待っていた。

 ……全ては、己が役目を果たすために。



「愛おしき我が最新の娘よ。

 願わくば、お前を使いたくはなかったが……やめておこう」

「……可能性の話は不毛だ。だが備えるに越したことはない」



 滔々と語りながらバンシーへと近づき、

 彼はその腕に手をかけた。黄金の液体を入れた注射器。それを人形の腕に突き刺す。

 針が違和感なく入りこみ、黄金が少女の身体に満ちていく。

 全ての黄金を注入し終わった瞬間。

 今まで閉ざされていた少女の瞳がゆっくりと開いていく。

 黒い、ひたすらに黒い瞳。

 光を帯びて輝く黒髪と合わさって不気味な雰囲気を醸し出す少女。



「――おとーさま?」

「おはよう」

「…むにゅ、おはようございます」

「身体に違和感はないか?」

「?……よくわかんないけど、だいじょぶ」

「よし、これで準備は概ね終わったか」

「なにが?」

「ふふふ、今回は早速バンシーに手伝ってほしいことがあってな」

「……わかんないけど、いいよ。おとーさま」

「良い子だ」



 幼子のような反応を見せるバンシーをほほえまし気に観察しながら、

 人形狂は親の様に語りかけ続ける。



「さて時間も無い。バンシー、早速外へ行くぞ」

「おそと?」

「ああ、人形劇を見せてやろう。お前の姉達も出る壮大な劇だ」

「げき!?げきだいすき!」

「良い子だ。後でお菓子をあげよう」

「ほんと!?おとーさまもだいすき!」



 戯れる二人は倉庫を出て玄関へと続く廊下を歩く。

 深夜の廊下にろうそくが等間隔で並ぶ薄暗さの中、

 正面に玄関が見えるか見えないかという所で二人に近づく一つの影が生まれる。



「――御主人様」

「シルキーか」

「しるきー?」

「そうだシルキーだ。お前の姉だよバンシー」

「……おねーさま?」

「なるほど、バンシーを目覚めさせたのですか。

 ……バンシー、私が貴女の姉のシルキーです。よろしくお願いしますね?」

「わーい!しるきーおねーさま!おねーさま!」



 シルキーを姉だと認識したのか、バンシーは笑顔でシルキーに纏わり付く。

 シルキーもまんざらでもないのか、気にした様子もなくじゃれつかれている。



「バンシーを起こしたということは、総力戦は伊達ではなかったのですね」

「当たり前だ。パレードなどという災害に挑むにはこれしかない」

「成程……ならば我々姉妹も、全身全霊で挑ませていただきます」

「その調子で頼む……さて、娘達は全員集まっているか?」

「はい。既に中庭に集合しております」

「そうかそうか。やることは山積みだ。早速行くとしよう」

「承知致しました」

「いくのー?」

「ああ、楽しくなるぞバンシー。お前の涙が乾いてしまうくらいにはな」



 顔に思わず笑みが浮かぶ。

 普段感情が希薄な彼にしては珍しいことだ。



「――久しぶりの人形劇だ。せいぜい派手にしようじゃないか」

「おー!」

「御主人様の御心のままに」



 三人は連れ立って外へ赴く。

 打倒パレード。

 その思いを抱えて、過去最大の人形劇は確かに動き始めていた。





読了ありがとうございます。

因みにシルキーは戦闘能力皆無な完全サポート要員です。

バンシーは……まあ奥の手の一つということでご容赦を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ