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Alchemy:2039  作者: 果糖
5/11

本題、そして和解

なんかこう……お久しぶりです。はい




 


『パレード』とは何か?


 とある老人は『天災』と呼び、

 とある狂人が『無機質』と呼ぶその存在がOMNISの舞台に現れたのは今からおよそ一年前のことだ。


 当時緩衝地帯はアーティファクトの大量発生による地殻変動も安定期に入り、

 ディガー達の活動もより活発になっていた。



 そんな時、とある噂がディガー達の間で流れ始めた。

 何者かが地表に現出したアーティファクトを破壊しているというのだ。


 それもご丁寧に何かの境界線、一ミリの狂いもない真っ直ぐな直線――ラインを描くかのような跡を残して。


 当初、これはイーオンの人型兵器『ラインの乙女』ではないか?と囁かれていたが、

 あまりにも破壊痕の規模が小さすぎる為、直ぐにその可能性は無いと分かった。




 ――では、この跡は一体何なのか?

 原因が判明したのはそれから一週間後の早朝だった。


 朝早くからアーティファクトの発掘を開始していたディガーの一人が、偶然目撃したのだ。



 ――猛スピードで緩衝地帯を爆走する、黒ローブの姿を。



 例の噂を聞いていたこともあり、即座に噂の正体であることに気づいたとあるディガーは、

 護身用に装備していた小銃で黒ローブを狙うとともに、

 メッセージ機能を用いて付近の同類(ディガー)達を呼び、即席の包囲網を形成して迎え撃った。




 ――結果は惨敗。

 黒ローブはディガー達の弾幕など意に介さず、包囲網を一直線に食い破って直進していった。


 だが、この接触から謎の存在は機械的なデザインの大剣を攻撃手段としていること。

 実際の戦闘の様子から、身長,容姿共に人型であること。

 ステップ、フェイントなどを用いることは無く、あくまでも直進しかしていなかったこと。


 ……などなど、この戦闘で黒ローブに関する様々なことが判明した。




 ――その後、幾度も緩衝地帯に現れた黒ローブは、

 現れる度にディガーや情報を聞きつけた傭兵達に命を狙われるが、

 誰一人として仕留めることも、ましてや足を止めることすら敵わなかった。


 そしてイーオン・アエラ両世界でほぼ同時に賞金首として発表された後も状況は変わらず、

 何時しか、追っ手達を引き連れながら緩衝地帯を疾駆し続ける姿を見たプレイヤーが口々に呟く。




 ――――まるで『パレード』だ。




 言葉は何時しか黒ローブの名称として定着し、やがてその名と共に誰からも恐れられる存在となった。





 ……パレードのことを聞くと、

 一度でもパレードと正面から(・・・・)相対したプレイヤーは、揃ってこう返してくるだろう。



 《――アレをどうにかしようなんて、考えたくもない》



 紛れもない恐怖の感情を瞳に写しながら。



 《――アレは具現化した暴力だ。動く災厄だ》



 だが、妙な確信と共に。



 《――たかが(・・・)プレイヤーに、何ができるっていうんだ?》



 パレード。OMNISの中でも『動く天災』とまで呼ばれる程の存在。本物の例外(・・)







 ――――だが、同じ例外ならば、あるいは……?





 ◇◇◇◇





「――正直。予想外としか言いようがありません」


 苦虫を幾度も噛み殺した様な顔で呟くコンスル。

 よもや、よりによってこのタイミングにパレードが突っ込んでくるなど考えたことも無かったのだろう。

 その顔には焦りと困惑がはっきりと表れていた。


「今回皆様を招集致しましたのは、半ば希望的観測に従ったに過ぎません。



 ……何しろ、相手は規格外の災厄ですから」


 つまり、彼らは僅かな可能性に(すが)ってきたということだ。

 コンスルの言葉を聞いていたアルケミー達は、皆一様にそれを理解していた。


「――これなんて無理ゲー?」

「……言うな、お願いだから」


 心底嫌そうな顔で首を傾げる爆弾魔に、手で顔を覆い意気消沈した様子の農家王。

 彼らもまさか、歩く災害とも言えるパレードの相手をさせられるとは思っていなかったのだろう。


 広がるのは驚きと嫌悪、それを凌駕する困惑の表情。

 それは他の者達。神官や百薬長、指揮者や歌姫も同様であった。





 ――だが。





「《――面白い。その話、乗らせてもらおう》」





 ――この男、人形狂は別である。

 パレードの映像を見ていた時から、彼の表情は微塵も変わっていない。


 見せるのは口角を吊り上げ、生気に溢れた笑み。

 エルフの華奢で可憐な外見とは裏腹に、ギラギラとした目と共に放たれる満面の猟奇的な笑顔だった。


「え……?」

「……ほ、本当ですか!?」


 半ば諦めていたロクソニクスの二人。動きが止まるレージーナを置いて、

 コンスルはこの申し出に取り乱しながら、言質を取ろうと慌てた様子で聞き返す。


「《本当だ。パレードの進行阻止、喜んで引き受けようじゃないか》」

「あ、ありがとうございます!」


 少々呆れた様子で、再度人形狂は参加を表明する。

 当然じゃないか。と言わんばかりに返してきた彼に、コンスルは一瞬困惑するものの、

 機嫌を損ねることのない様に素早く頭を下げた。


 他の者達がその光景に唖然としている中。

 唯一最初から沈黙を保っていた教授が人形狂に対し、不思議そうに問う。



「……何故じゃ?」

「《何故……とは?》」

「何故わざわざ、パレードに挑む?

 お主の性格を考えても、このような面倒事には首を突っ込まん奴だと思っておったんじゃがな」



 アエラでも数少ないロールであるアルケミー。

 その中でも特に素性が知られていない人形狂だが、要因の一つとして彼の性格の問題があった。


 他のアルケミー……百薬長や神官、爆弾魔は特徴的な戦闘スタイルで有名であり、

 指揮者と歌姫はアルケミー以外のロールの関係上知る人は多く、

 農家王はその名の通り王である為、人前に出る機会も多い。


 教授は言わずとも分かる通り、有名だろう。




 ――だが、こと人形狂に至ってはその素性を知る者は殆どいない。


 OMNIS上での取引、素材入手、ダンジョンでの戦闘行為など……その全てを自らの娘達、

 自動人形に任せて本人は殆ど工房から出てくることが無い。


 言うならば、目立つのが嫌いな隠者という印象が一番強い。

 人形狂に対する一般的なイメージがそれである。


 しかし今、彼は積極的にパレードに立ち向かわんとしている。

 それは此処にいる者達からすれば確かに意外と言うしかないことであった。





 ……自分以外の面々が疑問の眼差しを向ける中、人形狂はゆっくりと口を開く。



「《――理由は二つ。一つはあの無機質な怪物の正体を探ること。

 そして二つ目……まあ正直、これが主な目的なのだが……》」

「……勿体ぶらずに話せ」

「《ククッ……い、いや分かった。直ぐに話そう》」



 ――早く言え。


 人形狂以外の者達が発する無言の圧力が会議室に満ちる。

 それを察したのか慌てて謝罪する人形狂。

 自己中心的思考の塊である人形狂でも、この圧には耐えきれなかったようだ。



「《……二つ目の理由。それは――――




 ――――パレードを私の人形制作に利用したい。からだ》」







 ◇◇◇◇







 人形製作の為に(・・・・・・・)パレードを(・・・・・)利用する(・・・・)

 人形狂の言葉を、他のアルケミー達はしばらく飲み込むことができなかった。


 同じく、同席していたロクスソルスの二人も、理解できないとばかりに呆然としている。

 それも当然と言えば当然。

 専門家であるアルケミーに理解できないことを、どうして理解できようか。


 周りの態度に「折角話してやったのに何も言わないのか?」とばかりに眉をひそめる人形狂。

 尤も、エルフの身体では不機嫌そうにしても只々可愛いだけだが。



「――利用したい。とはどういうことじゃ?」



 いち早く再起動した教授が訝し気に尋ねる。



「《どういうことも何も、言葉通りの意味だ。

 是非とも私は、あのパレードを捕獲して調べ上げたい。

 それは確実に、私が次の段階へと飛翔する為の足掛かりとなるだろうと思ったからだ》」



 言葉の意味は分かった。だが意図がつかめない。

 そんな顔をしながら教授は思考を重ねる為、一度黙ることにした。


 疑問を浮かべていたのは教授だけではない。



「……何故、パレードを捕獲する必要があるのですか?

 仮にパレードを捕獲することが出来たとしても、人形作成には役立つことは無いように思えるのですが……?」

「確かに。人形狂の旦那が興味を持ってることなんて人形の事くらいだ。

 パレードを捕まえられたとしても、何か収穫があるわけじゃあないだろうに」



 レージーナが小さな手を挙げて問いかけた、その言葉に重ねて農家王が疑問を投げかける。

 そしてその疑問は至極当然。

 人形狂が何故『人形狂』と呼ばれているか、など今更改めて口にする必要もないだろう。

 その人形狂が何故、パレードに興味を抱き、捕獲したいと言ってくるのか理解できない。



 ――――人形にしか興味のないヤツが、パレードに興味を持つ。



 頭の中で思考の整理を行っていた教授が、何気も無くその言葉を反芻して……





 ……唐突に、本当に突然湧いて出た答えが、思わず口に出てしまった。



「――まさか」

「どったの、教授?」

「小僧。一つ確認したいことがあるんじゃが……」

「《なんだ?》」



 本当に、本当に些細なことだ。軽はずみに思いついた下らない発想。

 普段なら一笑に付した後、思考の隅に追いやるほどのひらめき。それが今の教授を支配していた。


 そのまま自分でも馬鹿げていると思う予想を口に出す。



「パレードがNPC、それも人工的に創られた存在であるというのか……?」

「《――正解だ。教授》」



 パレードがNPCであるという予想は前々からされていた。

 というかそもそもがおかしいのだ。規格外のステータスに装備品はトッププレイヤーでも厳しい。

 どのような悪路でも一直線に進もうとするほど単純な行動しかしない癖に攻撃に対する反応速度は反則級だ。

 その出鱈目ぶりから一時はOMNISのシステム上位者が作成したNPCだ。などと言われる始末だった。



「《……そもそもの存在が歪すぎた。というのもあるのだがね。

 観察すればするほど機械的な動きしかしないアレをNPC以外の何と形容すればいいのか見当もつかんよ》」

「ひっく、あのこでたらめにつよいもんねー?」

「一時期やけになって追っていた時期がありましたが、歯牙にもかけられませんでしたよ」



 存在の歪さ。そしてどこまでも機械的な行動の数々、確かにキーとなる点はいくつもあった。

 だがそこで参加者たちの脳裏に疑問が残る。



「……じゃが、どうしてお前はそれを考えながら周りに知らせようとはしなかった?」

「パレードの情報は今まで一度も表に上がってきた試しはありません。あるとしてもディガー達の噂話程度です」

「もしそのような情報があるとすれば、情報料だけでも莫大なロスが手に入ったでしょう……」



 教授が疑問を投げかけ、コンスルとレージーナが補足する。

 その疑問と共に周りの視線を受けながら、人形狂はゆっくりと口を開く。



「《私がこの情報を知らせなかった理由は二つだ。

 一つ。この情報はあくまで私がパレードを観察していたときに思いつき、消去法を用いて行った予想だ。

 あくまで予想であり、確証はない。誰もパレードのフードを取ったわけでもないからな》」



 もう一つ。と華奢な指を折り曲げて。



「《もしこれが事実だったとしても、その上でパレードは規格外の化け物だ。

 おまけにこれは緩衝地帯での出来事。アエラの住人にとってはほぼ利益の無い情報だ。大した額にもならんよ》」



 お分かりかな?とばかりに顔を歪ませる姿に若干イラつきを覚えた参加者たち。

 ……しかし、それならば何故。彼はパレード撃退を引き受けたのだろうか。

 それをいち早く口にしたのは神官であった。



「では改めて、何故貴方は今回の依頼を引き受けようと考えたのですか?」

「ただ利用できるからっつっても、さっきの話からしてもリスクには見合わねぇよなぁ」

「……それどころか赤字じゃない?」



 人形狂いが己が作品に利用したいから撃退を手伝う。そういった彼の行動はリスクが非常に高い。

 各人が浮かべた疑問は正統であり、その問いに対して心なしか目を泳がせながら彼は口を開いた。



「《……まあ、その辺りは知的好奇心の発露とでも言うべきか》」



 その答えを聞いた全員はきょとんとした後に深く、深海の如き深さのため息を吐く。

 つまりだ。つまりこの馬鹿は――



「……小僧。もしかして」

「かんじぇんに……」

「……ええ、完全に」

「やっぱりかー」

「だろうと思いましたわ……」

「ある意味、彼らしいと言えばいいのか……」

「あー……」



 なんとなく納得した様子のアルケミー(同類)達。

 対してそこまで交流の無いレージーナ達は困惑しながら予想を吐くことにした。



「あの、人形狂殿。もしやですがひょっとして……」

「……完全に欲望のままってこと、ですよね?」



 その疑問に対し、エルフの姿を象った彼は首を傾げながら



「《――はて、それ以外に理由が必要かね?》」



 瞬間、会議室内で「当たり前だろうがァ!!」という怒号が鳴り響くこととなった……





 ◇◇◇◇





 ――なんかもうどうでもいいや。



 しばらく経って、全員のそんな感情が会議室内に充満していた。

 しかし問題は残っている。この中でも比較的常識人な二人……その中でも

 もう疲れたと言わんばかりに疲労困憊なコンスルは各自に再び疑問を投げかけた。



「――で、とりあえず人形狂殿は参加決定でよろしいんですよね?」

「《ああ》」

「了解致しました。では他の皆様は――」

「ああ、その件なんじゃがのう。宰相よ」



 教授がコンスルの話を遮り、割と投げやりな態度で告げる。



「その依頼。やっぱり儂も受けることにしたよ」

「――ッ!?ほ、本当ですか!?」

「本当じゃよ。そこの馬鹿が適当な理由で受けとるのを見て、考えるのが馬鹿馬鹿しくなってきたわ」

「《誰が馬鹿だ糞ジジイ》」



 それに応えるのは、はたして教授ではなく、複数の声で。



「おまえー!」

「貴方です」

「あははっ!おまえー!」

「酒飲みの真似するなよ……あ、因みに馬鹿はお前だ」

「ユニークであることは確かですわね?」

「それ馬鹿を緩く言い換えているだけじゃないかな……?」



 こいつら。消し飛ばしてやろうか。

 無駄な殺意が人形狂を襲った。

 正直己の行いの所為なのだが、この馬鹿は気づくことは無いだろう。メイビー。



「……多数決で決まりか。これで誰が馬鹿か証明されたのう」

「いや、それよりも……本当に受けて下さるのですか?」

「なんじゃ、受けて欲しくないかのように言いおってからに」

「いやいやいや!それは誤解です!」

「受けて下さり、誠にありがとうございます!」



 人形狂の時とは喜びの度合いがあからさまに違う二人。

 ……まあアエラでも最高戦力の一角に了承を貰うことが出来たのだから当然とも言えるが。



「――考えてみればパレードには儂らも苦い思い出しかないからのう。

 掘り返そうと何日も前から計画を練っていた戦艦を真っ二つにされるわ

 掘削作業中に突っ込んできてアーティファクトを壊されるわ……殺意しか湧かん」



 額に青筋を浮かべながら過去の出来事を思い出す教授に、

 元生徒の二人は懐かしそうに思い出す。

 そう考えると、この中でパレードの一番の被害者は教授なのかもしれない。



「この機会に叩き潰してやるわ。それで――」

「ん?」

「……嫌な予感が」



 教授は元生徒……爆弾魔と農家王の方へ振り向きながら

 にっこりと、不気味なほどにっこりと微笑んで再び口を開く。



「――お前らも、やるんじゃぞ?」

「なんで!?」

「やっぱりか……」



 心外だ。と言わんばかりに身を乗り出す爆弾魔と、

 なんとなく予想していたのか諦めて天を仰ぐ農家王。

 教授はにっこりとした表情を崩すことなく話を続ける。


 流石に冗談じゃない。そう思い団結して拒否しようと二人は力強く――



「――元とはいえ、弟子なら師を尊重するのは当然じゃよなぁ?」

「……ハイ」

「……ワカリマシタ」



 ……ぶつけることも無く撃沈した。

 あれは不味い。笑ってるけど笑ってない。目が。

 爆弾魔は想起した。あれは工房を間違って粉々にしてしまった時と同じだと。

 農家王は思い出した。あれ他の弟子達と誤って重巡ぶっ壊した時と同じだと。


 二人は理解した。これ、教授完全にぶちギレてると。

 だったらもうどうしようもない。そう覚悟を決めた二人はコンスルの方を向き。



「……おれたちもさんかしますね!」

「がんばりまーす!」

「ああ、うん……ありがとうございます」



 憐れだ。そう感じたコンスルとレージーナは出ないはずの涙を拭って再び前を向く。


 ――師匠のパワハラ受けてる哀れな弟子達はいなかったんや。うん


 そう自分を納得させて、次の勧誘を行うため神官長達に目を向ける。



「……で、神官殿と百薬長殿はどうでしょう。受けて下さいますか?」

「うーん……」

「と言われましてもねぇ……」



 微妙。といった表情を浮かべる二人。

 まあそれもそうだろう。この二人は緩衝地帯で物を掘り返すようなことは滅多にしない。

 PKジャンキーの節があるため定期的にプレイヤーをぶん殴り……もとい戦闘を行うことはあっても、特にパレードに痛い目にあわされたことも無い。

 ショウタイムにパレードが来るのは確かに脅威であろうが、言ってもたかが一年に四度のイベントだ。

 今回参加しようがしまいが特に支障はない。精々金子の調達ができるくらいだろう。



 そんな二人の反応を見たレージーナだが、

 とりあえず譲歩できることは出来る限りしようと提案を行う。



「勿論、私達も出来る限りのバックアップはさせていただきます」

「っていってもにゃあ~」

「――ミュージアム・ソリス」

「!?」

「?」



 その一言に百薬長のやる気のない表情が一変した。

 神官長には単語の意味が分からなかったのか、首を傾げるのみだが。



「我がロクスソルス王国において最高峰のオーセンティックバー。

 日曜(ソリス)の名の通り、普段は日曜にしか開いていない完全予約制ですが……」

「ですが……?」

「今回の報酬として特別に、百薬長様の為に店を開けます」

「おお!」

「しかも……代金は、いただきません」

「おおおおおお!!」

「どうでしょう?依頼を受けて下さいますか?」

「――受けます」

「それでいいんですか貴女……いいんでしょうね」



 当たり前だ何を言ってるんだこの貧乳はと言わんばかりに、

 百薬長はレージーナへ返事を返す。

 酒を飲んでべろんべろんになっていたにも関わらず、

 そんなことしてる場合じゃねぇとばかりに真剣な表情で了承した。



「しょうがありませんね……私も了承いたしましょう。

 ……どうせここで拒否しても教会に圧力かけて受けさせるつもりだったのでしょうし」

「……はてさて、なんのことやら」

「狸宰相が。

 個人的には気に食いませんが、これも神の試練なのかもしれませんね……」



 よし、コンスルは心の中でガッツポーズを決めた。

 素行はアレだがこの二人はアエラでも指折りの武闘派。

 剣聖とか姫騎士とか近接戦においては他にも当てはいるものの、規格外の戦力が増えることに越したことはない。

 これで最後に残るはあの音楽馬鹿二人組だが……



「良い旋律が浮かびそうだから受けよう」

「パレードの旋律も興味深いですわね」



 ――勝った。賭けに勝った。

 こういう珍しいことには首を突っ込みたがる二人だ。

 パレードを引き合いに出せば、おのずと了承する可能性は高いと踏んでいた……!



「ありがとうございます!」

「ではこれで全員、依頼を受けて下さるということでよろしいでしょうか?」



 コンスルの問いに、キ○ガイ……アルケミー達は首肯する。

 その了承を得て、二人は今にも疲れと達成感で椅子から転げ落ちそうだった。


 ――もういやだ。この問題児をまとめるの


 コンスルは悟った。やっぱ能力があっても問題児は問題児だということを。



(次になにか頼む時は、僕が宰相やめた後か……姫様に丸投げだな。うん)



 コンスルは学んだ。キチ○イの相手は疲れることを。

 そして、レージーナは薄っすらと感じ取っていた。コンスルがなにか嫌なことを考えていると。



 ――何はともあれお二人さん。お疲れ様。





[用語説明]

ミュージアム・ソリス

ロクスソルス王国中心部に存在する会員制オーセンティックバー。

別名「日曜館」と呼ばれており、その名の通り日曜にしか開店しないことで有名。

しかも一見お断りの上に予約制であるからか、店に足を踏み入れられるのは極少数のプレイヤーのみ。

その代わりマスターの腕は良く、アエラでも最高峰の酒を楽しめるバーである。

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