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Alchemy:2039  作者: 果糖
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疑問、そして出現

二週間以上お待たせしてしまい本当に申し訳ない……


 


 特別会議室の空気は混沌としていた。

 先程まで醜い争いを展開していた四人は素知らぬ顔で椅子に座り、

 それを新参の二人――レージーナとコンスルがジト目で睨みつけている。


 だが時間は有限。睨んでいたコンスルも貴重な時間を無駄に使いたくないのか、

 一度咳払いをした後、真面目な顔で会議の開始を宣言する。


「……では、これよりショウタイムにおける臨時会議を開始致します。

 今回はお忙しい中お集まり頂きましたこと、誠にありがとうございました」


 形式染みた挨拶に一分の興味もないのか、アルケミー共は視線すら合わせようとしない。

 早く。早く目的を話せとでも言うかのような雰囲気の中、執政官らしく動揺した様子も見せずにコンスルは話し続ける。


「今回、著名な皆様方にお集まり頂きましたが、これにはとある訳がありまして……レージーナ様」


 ――と、コンスルは横を向き、自らの女王に話の続きを任せた。

 未熟な彼女にとっては責任重大な案件ではあるものの、

 何時までもただお飾りの女王ではいけないと考えたのか、単なる生贄かどうかは分からないが、



 ……何故か頑なにレージーナと目を合わせない様子から考えると後者の線が濃いが。



 兎も角として、変人共の前で緊張した様子のレージーナが説明を引き継ぐ。


「……今回。

 ロクソニクス王国女王としてどうしてもアルケミーの皆様にどうしても受けて頂きたい依頼がございまして……」

「《……依頼?》」

「…それはそれは」

「また奇妙じゃのう」

「…え?ん……何が?」


 レージーナの発言に皆が興味を示す中、

 こういったことに鈍い爆弾魔は一人、頭の上に疑問符を咲かせていた。

 その姿に、元師匠である教授が言葉を付け足す。


爆弾魔(カヤ)。お主は普段依頼を受けるときはどうする?」

「へ?そりゃあ……役所に行って掲示板見てくる、かな?」

「…普通はそうだろう。だが今回依頼してきたのは国じゃ。


 ――それもアエラ最大の王国が、ここに来る旨を伝える格式ばった招待状まで送ってきた」


 そう言うと教授は懐から一枚の封筒を取り出す。

 中に入っている手紙にはアルケミー達に特別会議室まで来てほしいなどということが書かれており、

 裏にはロクソニクス王国が公文書に捺す、専用の玉璽による捺印まで施されている。

 この招待状に導かれ、アルケミー達はこの部屋に集まっていた。


 それこそ普段なかなか外に顔を出さない人形狂も、

 この招待状に興味を示したからこそ、間接的とはいえこの会合に現れたのだ。

 それだけでも、この招待には疑問を持つに十分すぎたと言えよう。


 ふむふむと頷く爆弾魔――カヤはここで疑問の声を上げる。


「…あれ?そういえばおかしいなぁ。

 普段こういう大口の依頼は大抵メールを送ってくるのに」 

「まあ、特定の国から依頼なんてそうそう無いが…大抵の内容はメールで送られるわな」


 カヤの疑問に乗るように、農家の男性は呟く。


 OMNIS内には各自のウインドウにアドレスを使って直接メールを送受信できる『メッセージ機能』が付属している。

 初めにアドレスを作成して、互いに口頭で伝えるor見せる必要こそあれど、

『フレンド機能』との提携によってフレンドならばアドレスも必要ないこの機能。

 何を伝えるにもメールの方が早いし確実であるこのOMNISにおいては、

 依頼等を受ける際、特に重要性の高い緊急の依頼などはメールで依頼するのが一般的だ。


「でも~。今回はわざわざ招待状?」

「…しかも緊急の依頼で時間もないだろうに、だな」

「ふぇ?」


 何故そんなことが分かるの?とばかりに首を傾げるカヤ。

 見るだけで庇護欲をそそられる格好だが、そんなことを気にしない音楽馬鹿が農家の補足をする。


「――ショウタイム前日。計画を組むならとっくに後詰の段階でなければおかしい時期。

 なのに我々をあのような招待状でここまで招いた。まるで予想外なことが起きた、とばかりに」

「…ああ、それがこの二人の遅れた原因ですか?」

「にゃるほどにゃ~!」


 合点がいったのか、相槌を打つ神官と酒飲み。

 二人は先程までの乱闘が無かったかのように話に参加している。

 酒飲みに至っては、ウインドウから新たにエールの子樽を取り出して要所要所でちびちびと呷っていた。


「……何事もなかったかのように参加するのか。本当に撲殺神官と百薬長(ひゃくやくちょう)は質が悪いな」

「心外です!」

「ぶ~ぶ~!」

「良い音色だ……」

「…ええ、本当に」

「そこの音楽馬鹿共も……もういいや。どうにでもな~れ!」

「お願いだから投げないで下さいませんか“農家王”殿……!」


 ……変態達の中でも中途半端に常識人であることが原因で、

 いろいろと苦労性な男性――“農家王”はいつもこうして貧乏くじを引く役割になる。

 それを知っているからか、コンスルも突然の放棄を責めることができず、

 レージーナもおろおろとしている。


 そのまま場が再び混沌に戻ろうかと思われたその時。見かねた二人がほぼ同時に声を上げた。





「――それで?わざわざ執政官筆頭と、

 お飾りとはいえ女王を寄越してまで一体全体何の用事じゃ?」

「《どうせ明日のショウタイムに関わることなのだろう?早く詳細を話せ》」


 教授と人形狂。先程まで反目していた者達が、そんなもの始めから無かったかのように言い放つ。

 互いに鋭い目(と言っても人形狂の方はエルフの身体を使っている為、可愛らしさの方が目立つが)で、

 呼び出した張本人達を睨んでいる。

 その視線に押されてか、それとも場の空気を換える好機だと感じたのか、

 レージーナは咳払いを何度か行った後、静かに話し始めた。


「……今回皆様に集まっていただいたのは、先程お二人に言われた通りです」

「てことは~。やっぱりショウタイム関係?」

「はい。実は……




 ――今回のショウタイムにおいて、アルケミーの皆様には前線へと出て頂きたいのです」




 ――レージーナの発言に、酒飲みと神官以外のアルケミー達は皆一様に顔を顰める。


 それも当然。そもそもアルケミーは生産職(・・・)

 個々の特異な能力や、生産物は確かに大きな戦力になるかもしれないが、

 どこぞの酒飲みや撲殺神官が例外なだけで、個人の戦闘力はそれ程ではない。


 ……寧ろ、普段からまともに戦闘を行っていないので、最悪一対一の対人戦なら新人にも負けるレベルだ。

 前線でヒーローの様に活躍するなど夢のまた夢、絵物語にもならない話である。


 それを知っているアルケミー達は何故そんなことを言うのか。という表情でレージーナ…ではなく、

 隣で彼女の補助を行っているコンスルに非難の目を向けている。


 コンスルは視線から逃れるように、

 何やら部屋の機能を動かしており、頑なに此方を見ようとしない。


「……まあ、ひとまず理由聞いておくか?」


 これでは話が始まらないと感じたのか、比較的常識人の農家王が進行を進めさせる。

 彼の言葉にこれ幸いとレージーナが話を続ける。


「…今回行われるショウタイムにおいて、とある重大な問題が発生したのです」

「重大な問題…ですか?」

「ふぇ?」


 神官と酒飲みが揃って首を傾げる。

 それを少し呆れた目で見ながら、教授が二人の疑問を引き継ぎ、レージーナに問う。


「――イーオンの連中が何かしようとしている…わけではないんじゃな?」

「ええ。彼らは個人主義の傾向が強い。その傾向は過去のショウタイムでも分かる通りです。

 今回についても、同様かと」

「《……ではアエラ内部に問題があるというのか?》」

「いいえ。今回のショウタイムについても、内応や裏切りなどといった行為は見受けられませんでした」


 教授の問いだけでなく、横から入ってきた人形狂の問いにも忌憚ない答えを提示するレージーナ。

 だが、質問をしていた彼らの顔は、余計分からない。という表情だった。



 イーオンの計略でも、身内の内応でもない。

 じゃあ何が『重大』なんだ。と考えていた二人は、ほぼ同時にとある場所の名を思い出した。

 其処はイーオンとアエラの間にある、広大かつ混沌としたフィールド。

 OMNISにおいて最も自由で、最も危険な領域。


 ――そして、今回の戦場となる、ある意味最も重要だと言える場所。




「《――ハァ。……やはり》」

「――緩衝地帯であったか。これは面倒じゃのう」


 ショウタイムにおいて主戦場となる空間。緩衝地帯。

 アルケミーたる二人も、話を聞いているだけの者達もその存在をそこらのプレイヤー達よりずっとよく知っている為、其処の面倒臭さを嫌でも知っていた。


「――ふむ、私は緩衝地帯にはめったに行かないので良く分からんな……」

(わたくし)もです。正直、皆さんなんでそんなお顔をしていらっしゃるのかすら分かりませんわ」


 …面倒そうにため息をつく二人とは対照的に、音楽馬鹿二人は特に表情を変えることはない。


 元々この二人は音楽関係を目的に今までOMNISにいた存在だ。

 ある意味この中では一番真っ当な生産職らしい二人は、緩衝地帯に足を踏み入れる機会さえ殆ど存在しなかった。

 そのことは此処にいる誰しもが知っている為、様子の違う二人に絡む者は特にいない。


「――緩衝地帯は兎に角混沌としておる。それは知っているな?」

「ああ。アーティファクトや、その残骸で塗れた空間だというのは知っているよ」

「それだけではない。あそこは絶えず変化を続けている特異な空間じゃ」

「特異な……?」

「《……アーティファクトは大小様々だ。性能、大きさ、形状、素材と違う部分は山ほど見つかる。

 問題はそれじゃない。そのアーティファクトが何処から(・・・・)形成されるか(・・・・・・)が問題なんだ》」

「何処って…地下じゃありませんの?」

「そう、地下じゃ。じゃが、何時までも地下に籠っておる訳ではない」

「……というと?」

「《一般的にアーティファクトは生成された後、

 自動的に地下、若しくは地表付近に出現する。突然、手品のようにな》」

「質量が小さい物ならそれでも構わん。じゃが――」


 当然ながら緩衝地帯に存在するアーティファクトはそれだけではない。

 質量の小さい刀剣、銃器などの武器類や家具などのアーティファクトならば問題は無いだろう。




 ――問題は質量が大きいアーティファクト。飛行戦艦や各種車両、戦車や戦闘機などの兵器群に、建築物の類である。



「――質量の大きなアーティファクトは生成されるだけで地形を歪める。

 それが幾度も重なり、結果として緩衝地帯は常にその地形を変えておる、ということじゃ」

「そういうことですか……」

「《現に黎明期の緩衝地帯は一面草原が広がっていた。……後の地殻変動で、今はもう見る影もないがな》」


 そう言ってどこか懐かしそうに眼を閉じる人形狂。

 なんだかんだ古参である彼にも、色々と思う所があるのだろう。


 それを汲み取ったのかそうでないのか分からないが、同じく古参である教授が話を繋ぐ。


「……まあ、そんなこともあって緩衝地帯は非常に不安定な状態になっておる。ということじゃ」


 これで問題の起こる場所は分かった。次は何が起きるかである。


「…でも、緩衝地帯でそこまで気にするようなことって何かありましたっけ?」

「ディガーの連中は…違うか。数は多いがアエラを潰せる原因には成り得ねぇしな」

「あそこにちらばってりゅにょわ、ざこばっかりだかりゃねぇ!にゃははは!!」

「いい加減酒を置きなよ百薬長(ひゃくやくちょう)君……」

「《となると、それ以外の要因か……》」


 うーん。とアルケミー達が唸る中、空気を変える為か、コンスルが短く咳払いをする。

 変人共と女王の注目を集めたことを確認した後、口を開いた。


「――皆さんが(おっしゃ)られた通り、脅威は緩衝地帯に存在します」

「ではなんなのだ?その要因とは…」

「…今から、この映写機でその映像をお見せします。

 そのほうが私の口から語るよりも、ずっと分かりやすいでしょうし」


 そう言って、コンスルは傍らに置かれた映写機に目を向ける。

 話を聞いた者達は、コンスルの言葉に従い、映写機とその延長線上にあるスクリーンへと視線を移す。


 コンスルは部屋の明かりを落とし、映写機を起動した。

 部屋が暗闇に包まれ、映写機からスクリーンへと映像が映し出される。


「《――緩衝地帯。それも中心部に近い映像だな》」

「ほうほう。また掘りがいのありそうな物が転がっておるのう」


 人形狂が言う通り、初めに映されたのは緩衝地帯の風景だった。

 アーティファクトと思わしき物体と、その残骸が散らばる雑多な空間。

 今もそこかしこに建造物が乱立し、混沌の様相を呈していた。


 画面の端、少し離れた場所には飛行戦艦の頭と見られる部分が大きく突き出ていて、教授がそれを見て若干興奮している。

 地上には幾つか人の影があり、それぞれ服装はバラバラなのに揃って採掘用と思われる器具を持っている為、

 あれがアーティファクトの採掘を主に活動している“ディガー”であることを示していた。


「……一見。普通の緩衝地帯だよなぁ」

「いつもどおりだね~?」

「へぇ、じっくり見るのは初めてだねぇ?」

「ええ、そうですわね」

「にゃはは!ひとがごみのようだぁ~!」

「…ストレス解消に良いかもしれませんね。ゴミ掃除」


 地味に怖いことを呟く神官は兎も角、他のアルケミー達も映像を見ながら各々の感想を述べているが、

 総じて「こんなものなのか?」という表情を浮かべている。


 その気持ちを理解しているのか、コンスルは映像について補足する。


「――これは昨日の一〇時にアエラの偵察艇が上空から撮った映像です。

 今の所、特に変わった部分はありませんが……っと。此処からです」


 変わらない風景を早送りしていたコンスルは、目的の物を見つけて早送りを止めた。


 動画を再生すると、画面端から何かが集団で移動しているのが見えた。

 アエラ・イーオン関係なく、武装したプレイヤー達が何かを追いかけている。

 それ(・・)は凄まじい速さで移動しているのか、後方に砂埃を撒き散らしながら走り続けていた。


 空撮していた飛行艇は速度を上昇させながらその集団に追従する。カメラは集団の目の前に移動。

 注視しているのは、砂埃の中心にいる黒ローブの姿だ。よく見れば両手で機械的な大剣を振り回している。


「――チッ」


 ――目の前に出てきたモノを見ながら、教授が周囲に聞こえない程に小さく舌打ちした。


 映像の中ではそれ(・・)に気づいたのか、

 地面を熱心に掘り続けていたディガー達が皆一様に焦りながらその場から一目散に離れていく。

 瓦礫に躓いて転んだり、躓いたりしながらも四つん這いになって必死に逃げる姿は滑稽に映ったが、

 その数瞬後に現れるモノを見れば、それも当然と言えるだろう。


 ――映像を見ているアルケミー達は、その姿に思わず呻き声を上げてしまう。







「うわ、さいあくぅ~!」



 ――その存在は進んでいる。ただ真っ直ぐに。



「……これは骨が折れそうだ」



 ――まるで決められた線路を走るかのように、砂埃の中心で、ただ愚直に進み続ける。



「血が滾りますね……!」



 ――その手に持った大剣を振り回して、目に写る障害を切り開きながら進む。



「ありゃりゃぁ……」



 ――その歩みは止まることを知らず。ハリケーンの如く、暴虐を撒き散らしながら進んでいく。



「……これはまた、興味深い音色だ」



 ――その姿は、まさに暴力。



「……無機質な歌。でも、激しい旋律を感じさせますわね」



 ――絶対的な暴威の概念を宿した、人型の天災。



「《――ハハッ。最高じゃないか……!》」



 ――千里を駆ける暴風。その姿だった。





 ◇◇◇◇





 ――集団は凄まじい速度を維持したまま、緩衝地帯を走り続けている。

 逃げ遅れたらしきプレイヤーを大剣で跳ね飛ばしながら、微塵も速度を緩める様子の無い黒ローブ。




 その大量のプレイヤーを背に走り続ける姿を見ながら、コンスルはそれ(・・)に付けられた数多の異名を呟く。


「――第四のラインの乙女、道を造りし者、歩く天災……そして“パレード”。

 この件を踏まえまして、今回皆様にお願いしたい依頼は唯一つです。」


 緊張で口の中が乾き、息が詰まる。

 だがこれだけは言わなければならない。ショウタイムの為にも、アエラの為にも。


 ……息を深く吸い、此処にいる全ての異端者達を目の前にしながら、堂々と告げる。



「――ショウタイム中、アエラに向かってくる“パレード”の進行を、阻止(・・)して頂きたい……!」





 ――そして此処に、異端者(アルケミー)達と規格外(パレード)の闘争が始まろうとしていた。



読了ありがとうございました。

あと二話辺りで説明回終了→戦闘に入る予定です。

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