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Alchemy:2039  作者: 果糖
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集結、そして混沌

ということで始めさせていただきます。尚、六~七話を予定しております。

 


 世界初にして最大のVRMMORPG。“OMNIS”。二つの世界が広がる電脳空間でプレイヤー達は日々の生活を営んでいた。


 その二つの世界の内、ファンタジー要素を基調とした世界であるアエラ唯一の首都“テラ”。

 アエラに置いて最初の都市であり最端の都市でもあるその首都の中心部に存在する役所、三階の廊下を二人のプレイヤーが並んで歩いている。

 白髪をオールバックにして中世の貴族風スーツを着た温和そうな男性――コンスル――は深いため息をつきながら呟く。


「ハァ……しかし、まさかあの変人共を頼ることになるとはな」

「?…コンスルさん、何か言いましたか?」


 コンスルの独り言に反応したのはコンスルより背の低い中世風のドレスを着こなした少女――レージーナ――であった。

 少女の純粋そうな視線と疑念を受けてコンスルは少々慌てた様子を見せる。


「い、いや!ただの独り言です。お気になさらずに、レージーナ様」

「そうですか?それならいいんですが…」


 きょとんとした顔で頭の上に疑問符を浮かべるレージーナ。

 如何にも純真無垢であると言えるだろう彼女だが、ただの少女ではない。


 アエラの地において、現在最も栄えている国“ロクスソルス王国”。

 その象徴的存在であり、女王としてロクスソルスの御旗を掲げるのがこの少女。


 名をレージーナ・ロクスソルス。

 因みに実務等はロクスソルス王国の執政官であり、実質的な宰相であるコンスルが行っている。


 そんな二人は当然アエラでも指折りの有名人で、事実その権力はこのテラにおいても通じるものがあるのか、今も廊下を歩いている最中、通りがかる人々が慌てた様子で道を開けている。



 ……元来生粋の小市民であるレージーナはあまりこの扱いを良く思っていないようだが。


「はぁ…この扱いには何時になっても慣れませんね」

「…レージーナ様はロクスソルスの国主であらせられます。仕方がないことかと」

「分かってはいるのですけどね…」


 コンスルは息苦しいであろうレージーナの心中を察していた。

 ロクスソルスに君臨する女王として、普段は威風堂々としている彼女だが、現実ではまだ幼い少女である。

 幸いアエラ内には友人も多いが、やはり大きなイベントの際には出張らなくてはならないことが多い。

 小市民であった自分が女王だなんて…という気持ちもあるのだろう。


「ですが、これから会う者達のことを考えると、否が応にも気を引き締めなくてはなりません」

「“アルケミー”。生産職の頂点に君臨する存在、ですか……」


 レージーナの発した言葉にコンスルは思わずため息をつく。

 ロクスソルス王国の建国から三年。

 ロスを使った農畜産物の販売を考案したのがもう遥か昔に思える現在、このOMNISで自身も多くの経験を積んできたが、


(未だにあの(・・)“アルケミー”達を相手にするのは慣れないな…)


 こと“アルケミー”に関しては、執政官として手腕を発揮しているコンスルも極力相手にしたくない部類の相手であった。





 そもそも二人が話題にしている“アルケミー”とは何か?

 元々“アルケミー”は役所で発行できる生産職ロールの一種で、その名の通り“錬金術”を扱うロールである。

 錬金術による恩恵は主に二つ。

『“ゴーレム”の作成,使役』と『“アーティファクト”の修理,改造』である。

 前者は文字通り土塊(つちくれ)や鉱物からゴーレムを作成し、術者の思うがままに動かせる能力。

 後者は“緩衝地帯”というフィールドに自然発生する特殊なアイテム、“アーティファクト”を修理、改造できる能力である。


 特に後者の能力は脅威の一言に尽きる。

 基本的にアーティファクトはディガー達が緩衝地帯を歩き回って、見つけたら掘り返して競売にかけるルートが一般的だ。

 勿論そう易々と上手くいく訳も無く、手に入れても故障、あるいはハズレを掴まされたりすることがしょっちゅう起こる。

 良いアーティファクトは高額で取引されることもあり、所謂一攫千金を目指してディガー達は日々緩衝地帯に通い詰めている。



 ―――だがアルケミー達はわざわざ掘り当てる(・・・・・)必要はない。



 ……と言っても簡単な話だ。緩衝地帯に行って、その辺に転がっているアーティファクトを“修理”してしまえばいい。

 そうすればあっと言う間に完成品のアーティファクトが手に入る。付加効果の良し悪しはあるものの、ディガーなどよりもずっと効率的にアーティファクトを入手できるという訳だ。

 しかも手に入れた後は自身の工房で改造することも可能である。

 最もシステム上可能な改造に限るが、それでも他のプレイヤー達からすれば十分なインパクトだろう。


 前者にしたって作業全般において、かなりのアドバンテージになる。

 戦闘に使用すれば優秀な盾になるし、生産なら簡単に製作する手が増える。

 馬などのゴーレムを作成すれば移動にかかる時間はグッと短縮されるし、貨物の運搬なども容易になるだろう。

 使役に関してはアルケミーの技量に左右されるが、それでもメリットは非常に多い。


 これほどの価値があるならば皆が皆(こぞ)ってアルケミーのロールを欲するのでは?と考えるだろう。

 確かにアルケミーを目指して日々の修業に励んでいる者は多い。

 アエラ全体の知名度的にも高く、一種の憧れになっている者達も多いだろう。だが……



 ……アルケミーのロールを有しているプレイヤーは非常に少ない。

 具体的に言えば、アルケミーのロールを取得しているプレイヤーは二〇三九年現在千人(・・)もいないと言われている。

 これは数だけ見れば多く感じるだろう。だがこのOMNISは史上初にして最大のVRMMORPGである。

 更に三六年から始まった仮想通貨の台頭の影響でプレイ人口は爆発的に増加した現在。

 推定でもアエラとイーオン合わせて一億人いるとも言われているのだ。仮にアエラの人口が半分だとしても五〇〇〇万人。

 割合で言えば五〇〇〇〇分の一だ。圧倒的に少ない。


 では何故そこまで少ないのか、それは取得条件の難しさにある。


 アルケミーのロールを取得するには、まずスミスとメディスという二つのロールを取得し、

 更にこの二つのレベルを六〇以上にすることが必要である。

 その後条件を満たしたプレイヤーは、役所からロール取得に関する依頼を受け取ることが出来る。

 この時初めて“アルケミー見習い”のロールを取得できるのだが……この依頼が曲者なのだ。


 なにしろアエラにおいて錬金術師とは古代に(・・・)存在していた(・・・・・・)者達であり、当然NPCのアルケミーも存在しない。

 ついでに言えばアルケミーに関する資料もNPCの間で伝わる伝承や、遺跡などに残る僅かな文献しか存在しない。

 依頼は当然アルケミーに関するものなので…プレイヤー達はその僅かな情報をカギに依頼をクリアしなければならない。

 しかもその依頼は一つではなく……最終的には数十個の依頼をクリアする必要がある。


 以上の点から、アルケミーのロールを取得するにはかなりの労力と根気が必要となり、

 実際に取得依頼はサモナーと同等の最高難易度と位置付けられている。


 ただ、既にアルケミーのロールを取得しているプレイヤーに師事すれば、この取得依頼も比較的楽なのだが……



 ……その手段が難しい理由は後で説明しよう。





 再び場面に戻って、レージーナは渋面を隠せない様子のコンスルに疑問を投げかけていた。


「しかしコンスルさん。何故そこまでアルケミーに対して嫌悪を露わにしているんですか?

 アルケミーといえば生産職の頂点と言ってもおかしくない存在。益はあっても損は無いように思えるんですが……」


 コンスルは渋面を更に深くして、自身の思いを告げる。


「……確かに彼らはアエラに対して様々な恩恵を与えてきました。

 その点に関しては特に異論はありませんし、実感してもいます。ですが……」

「ですが?」

「あまりにも彼らの影響が強すぎるのですよ。しかもかなり深刻なレベルで」


 例を挙げるならば、現在のロクスソルス王国がそれにあたるだろう。

 ロクスソルス王国は軍事力として飛空艇の艦隊を所有しているが、これらは全てアルケミー達による制作物である。

 特に艦隊旗艦である飛空艇“サピエンティア”においては、もう戦艦と言えるほどのサイズ、火力を有しており、

 イーオン最新の飛行戦艦にも勝るとも劣らぬ戦力となっていた。

 こうして見ると確かに益ではあったが、ただ一つの問題があった。


 ……アルケミー達に対して莫大な借りが出来てしまったのである。


 現在飛空艇を建造できるのはアルケミー達のみであり、それは整備においても同じだ。

 ロクスソルス王国は飛空艇の整備に関しては、飛空艇を建造したアルケミー達に整備を依頼している。

 もし、何らかの理由で彼らの機嫌を損ねることがあるならば、どうなるかなどは想像に難くない。


 現在のアエラにおいて航空戦力の観点から見れば、何も戦力は飛空艇だけではない。

 それこそ戦闘機の役割を示す竜騎士隊や、イーオンの“ラインの乙女”に対抗するウンディーネ,シルフといった精霊達もいる。

 精霊のサマナー達は去年ごっそり代替わりしたが、それでも戦力的には十分だ。


 ならば何故、と思うだろうが……先程提示した戦力を差し引いても、飛空艦隊は戦力の割合の大半を占めているのだ。

 強力かつ長射程の主砲。イーオンの戦闘機をも撃ち落とす防空能力。大量の物資、人員を運ぶ輸送能力などなど。

 そして未だアルケミーは建造、改良を止めない。イーオンの戦闘機が性能を上げればそれに負けじと改良を繰り返す。

 イーオンが戦艦の数を増やせば、それに比例する様に建造を行う。

 結果、思想的には時代遅れとも言える飛空艇が主力として残り続けるのだ。


 ……これを執念と言うか、ただの馬鹿と言うかは各々の想像に任せる。というか、任せるしかない。


「…こうして言うのもアレだが、ロクスソルス王国はアエラで最も栄える国だろう。

 財力も、戦力も、我々に叶う国は存在しないとも言える。だが―――




 ―――ことアルケミーには逆らえない。というより、逆らい難いと言った方が良い」

「……そこまで、なんですか?」


 普段人前で心がけている敬語も外れ、普段なかなか見ることのない嫌悪に溢れた表情に、

 若干恐怖しながらもレージーナは話を促す。


「…唯一、表舞台に出て来ないのが幸いといったところだろうな。奴らは権力に興味がないようだし」

「そうなんですか?少し意外ですね」

「元々研究職気質な連中が多いこともあってか、日々の作業や研究に追われてそれ処ではないのだろう―――




 ―――っと。着いたか」


 二人が話しながら歩いていると、いつの間にか廊下の終着点――特別会議室に着いていた。


 この会議室は例のイベント、イーオンとアエラの世界間戦争――“ショウタイム”の為に存在する部屋である。

 普段は開くことは無いこの部屋は、ショウタイム期間の前日にのみプレイヤーに解放される。


 通常であれば各国の代表たちが一堂に会し、議論を重ねる場になるはずだったが……


「…なんか、騒がしいですね。コンスルさん」

「……言わないでくれ」


 ……何故か会議室からは確実に話し合っている時には出ないような騒音が聞こえてきた。


 椅子や机が倒れる音、何かを殴る音に破壊音。それに比例する様に悲鳴や嬌声が聞こえてくる。

 話し声も僅かに聞こえるが、声の質からして口喧嘩の様相を呈しているに違いない。

 両方男性の様だが、止める気配は全く見当たらない。

 極めつけに何故かリュートに似た楽器の音と、それに付随する様に歌声も聞こえてきた。

 それはとても美しく、一種の芸術とも言えるような曲を奏でていたが、周りの騒音にかき消されて感じ入るものが皆無だ。


 部屋の前に立つ二人は、この部屋が兎に角混沌の一言に尽きる状況であろうことを一瞬の内に把握した。

 そして酷く疲れた様子のコンスルが深いため息と共に言葉を吐く。


「もう、帰ろうかなぁ……」

「気持ちは分かりますけど…ああ、私も帰りたくなってしまいました」

「……帰りましょうか?」

「駄目です。というか、無理です」

「デスヨネー……ハハハ」


 意気消沈する二人。それを尻目に会議室の騒ぎは続いている……。





 ―――アルケミーに対する師事が難しい理由。それは簡単である。





 彼らアルケミーは基本的に……自己中心的な問題児ばかりなのだ。


読了ありがとうございました。

アルケミーに関しては後程活動報告などに設定を載せようかと思っていますので、よければご覧ください。

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