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ハードボイルド赤ずきんちゃん

作者: 猫面人

 僅かに木漏れ日が差し込む林道。時折生暖かいそよ風が光を揺らしている。蝉がうるさく叫びまわり、湿気が肌にまとわりつく。そんな状況に悪態を付きながら、赤ずきんちゃんは歩いていた。母に頼まれ、祖母にりんごを届ける為に。

 「あぁうぜぇ……なんだってこんな暑いんだちきしょー」

 バスケットからぬるくなった水を取り出し、胃に流し込む。

 赤ずきんちゃんの機嫌がひどく悪くなっていた。

 そんな赤ずきんちゃんを茂みの中から狼が覗いていた。

 

 赤ずきんちゃんがしばらく歩くと、狼が現れた。赤ずきんちゃんが身構える。

「やあやあお嬢さん、俺と遊ばないか?」

「ダメよ。今からおばあちゃんの家にお使いに行くの」

 すると狼は毛むくじゃらの手を赤ずきんちゃんの胸へと滑り込ませた。だが赤ずきんちゃんは素早く腰のホルスターから拳銃を取り出し狼の顎に突きつける。

「おい犬っころ。あたしゃ娼婦じゃないんだよ」

 狼は驚き、飛び退いた。銃口は狼から片時も離れなかった。

「ぴ、ピースメーカー?」

 動揺のあまり銃の名を口にする。

「ピースメーカー?あたしゃその呼び方は嫌いでね」

 銃声が一発。狼は倒れ込んだ。銃口から白煙が立ち上る。

「銃が作るのはいつだって『血』と『硝煙の臭い』。死体だけよ。こいつぁシングルアクションアーミーだぜ?だからよう、薄汚ねぇ“シックスガン”で充分なのさ」

 赤ずきんちゃんは銃をホルスターに戻し、すでに動かなくなった狼を蹴飛ばした。

「あばよ犬っころ!あの世で娼婦と遊んでな!」

 そう言い残し、再びおばあちゃんの家へと向かった。

 その光景を見ていた者がいた。狼の父である。

「なんという事を……!よくも俺の息子に……!」

 狼の父親は今すぐ飛び出そうとしたが、赤ずきんちゃんがおばあちゃんの家に行くと言っていたのを思い出し、復讐の方法を思案した。

 

 林道を抜けるとレンガ調の赤い屋根の家が見えた。おばあちゃんの家だ。赤ずきんちゃんは扉の前に立ち、呼び鈴を鳴らす。

「おやおや、赤ずきんかい?入っておいで」

 扉を開けるとベッドに寝たままのおばあちゃんが見えた。

「おばあちゃん!りんごを持ってきたよ!」

 赤ずきんちゃんは扉を開けたまま駆け寄った。そしてとある異変に気づく。

「あれ?おばあちゃんタバコやめたの?」

「そうよ、もう二週間目だよ」

 近くの棚にアメリカンスピリットが置いてあったのを赤ずきんちゃんは確認した。

「へぇ、体に悪いものね」

 赤ずきんちゃんがりんごの皮を剥こうと掴んだそのとき、突然猟銃を持った男が入ってきた。

「誰!?」

 赤ずきんちゃんは咄嗟に腰のホルスターから銃を取り出し構えた。

「ちょ、ちょっと待て!」

 しかし赤ずきんちゃんは構えを解かない。そんな赤ずきんちゃんをおばあちゃんがたしなめる。

「これ赤ずきんや、誰にでも構わず銃を向けるもんじゃないよ」

 そう言われ赤ずきんちゃんは渋々銃を収めたが、猟師から目を離す事は無かった。

「ごめんなさいおばあちゃん」

「良いのよ。若いんだから。おばあちゃんも昔言われたわ」

 赤ずきんちゃんはゆっくりとした口調で猟師に問いかける。

「あなたは誰?」

 だが猟師はその問いに応える事は無く、ただ銃を構えた。しかしそれよりも速く、赤ずきんちゃんはリボルバーを抜き撃った。銃声は二発。一発目で猟銃を弾き飛ばし、二発目で左足の太腿を撃ち抜いた。猟師は悲鳴を上げ、膝をついた。

 赤ずきんちゃんは猟師を蹴り飛ばし、右足で銃創を踏みつけながらもう一度問いかける。

「雇い主は誰だ?言え!」

「ぎゃああぁ……!後ろ……!後ろにいる!」

 そのときもう一つ銃声が響いた。猟師の眉間に穴が空く。

 赤ずきんちゃんが驚き振り向くと、おばあちゃんのコルトパイソンから白煙が上がっていた。

「雇い主を教えるなんて、殺し屋としては三流以下ね」

 冷徹におばあちゃんが言い放つ。

「おばあ……ちゃん?」

 おばあちゃんは赤ずきんちゃんに銃口を向ける。

「おばあちゃん……どうして私に標準を合わせているの?」

「決まってるじゃないか。お前を撃つ為だよ」

 おばあちゃんがトリガーに指をかけたそのとき、完全に気配を消していた狼が、おばあちゃんの首に噛みつこうとする。猟師は狼を狙っていたのだ。

 赤ずきんちゃんはそれを見て二発撃った。一発目は狼を。二発目はおばあちゃんのコルトパイソンを。見事に全て命中させ、狼はうつ伏せに倒れ、コルトパイソンは吹き飛んだ。

 息も絶え絶えに狼は言う。

「赤ずきん……お前の一番大切な者を奪えば……俺の復讐は達成される……!お前が殺した狼は……俺の……息子だ!」

 おばあちゃんは素早く太腿のベルトに差したナイフを抜き狼に突き刺した。

「あらそう……災難だったわね」

 そう言いながらおばあちゃんはナイフを引き抜いた。

「さ、続きを始めようじゃないかい」

「おばあちゃん!どうして戦わなきゃいけないの!」

「それはね、赤ずきん。私たちの一族の掟だからだよ。私も赤ずきんくらいの時におばあちゃんを殺したの。古い者はより新しき者によって打ち倒されなくてはならないのよ。私は長生きしすぎたわ。さ、殺しなさい」

 赤ずきんの右手に持つシックスガンには残り一発しか入っていない。赤ずきんは覚悟を決めなくてはならなかった。

 おばあちゃんはナイフを投げた。赤ずきんは銃を盾にしてナイフを弾き飛ばす。その刹那におばあちゃんが懐に入り込み、赤ずきんを投げた。仰向けに赤ずきんは倒れる。そこにおばあちゃんはもう一本ナイフを取り出し振り下ろした。赤ずきんは転がって回避する。

 赤ずきんはそのまま立ち上がり、ドアの向こう、外へと逃げ出した。赤ずきんはもうおばあちゃんは銃を持っていないと思い、部屋を覗き込んだ。そこへ銃声が一発。

「赤ずきんや、銃は最低でも二丁携帯しなさいって教えたわよね?」

「ごめんなさいおばあちゃん。次は気をつけるわ」

「次だって?勝てなきゃ次なんて無いのよ!」

 おばあちゃんはドアへと接近し、外へと躍り出た。そのとき、赤ずきんの後ろ姿が林道へと入っていくのを確認した。

「どこへ行ったの赤ずきんや。まさかこのまま逃げるつもりじゃ無いだろうね?」

 おばあちゃんも林道へと走り、赤ずきんを探し回った。しばらくすると、足跡を発見した。おばあちゃんの家へと続いている。

 おばあちゃんは罠である可能性も考えたが、それに乗ってみる事にした。

 おばあちゃんが家の前に到着する。足跡は家の中にまで続いていた。

「赤ずきんや、出ておいで」

 おばあちゃんは慎重にドアを開け、部屋の中を覗き見る。赤ずきんは発見できなかった。索敵の為に家の中へ進入する。そのとき、足元にある針金に足を引っ掛けた。その針金の先には手榴弾のピンが付いていた。

 おばあちゃんは咄嗟に手榴弾を蹴った。手榴弾が数メートル先へ転がって爆発する。その一瞬前、赤ずきんの姿が見えた。ハッとして銃を構えるも、既に爆煙によって姿は見えない。

 銃声は七発。おばあちゃんは赤ずきんの居た方向へ向かって六発全てを撃ち込んだ。しかし全く別の方向から赤ずきんが撃った。その弾丸はおばあちゃんの右胸を撃ち抜いた。おばあちゃんが倒れ込む。

「おばあちゃん!」

 赤ずきんはおばあちゃんを抱きかかえた。そのときおばあちゃんが見たものは、赤ずきんの服を着せたマットと、裸の赤ずきんだった。

 おばあちゃんは笑う。

「赤ずきんや、タバコ、吸わせてくれんかの……」

 赤ずきんは震える手でおばあちゃんの口にアメリカンスピリットを咥えさせ、マッチで火を付けた。

「うふふ……禁煙、破っちゃったわね……」

 一息吸った後、おばあちゃんは絶命した。まだ長いタバコが落ちる。

 赤ずきんはタバコを拾い上げ、慣れない手つきで口に咥えた。また新しく火を付ける。そして思い切り吸い込んで、むせた。

Q.童話には教訓とかが盛り込まれてる物が多いけど、これにはどんな教訓が含まれてるの?

A.武器を持ち命を奪う選択をしたら、闘争からは免れることはできないってこと

Q.それっぽいこと言ってるけど今何時?

A.11時


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