第七話 仮忍者、情報収集四日目
彩の情報収集四日目。
ぐわんぐわんとした頭を群青林檎とミントのようにすっきりする葉っぱを食べて抑える。食べても死なないと勘で傾いてしまったからか、人に毒素的な影響を与えるものに当たってしまったようだ。毒物じゃないことに助かったのを感謝し、ストレッチをする。
木の上で寝につくのが四日と続いていたので、凝り固まっている体を解している。その後、あちらでは日課だった軽いランニングをして、体が火照りリラックスする。
小川で汲んだ水を竹の水筒に入れ、さっそくと森を出た。
外は平原と開けていた。草の茂みと灌木と普通の木がぽつぽつとあるだけ。それと晴天という状況、紺色は目立つ。即席に『草葉隠れの術』を使う。
『草葉隠れの術』は葉っぱを纏った迷彩術の一つ。欠点は風がなければ不自然な動きとして見つかってしまうことだが、今日は爽やかな風が吹いているので、絶好の『草葉隠れの術』に適していた。
地面に残る足跡を頼りに隠れながら進む。気配を感知したら、灌木か叢に潜み、通り過ぎるのを見計らいながら移動する。
十分後、町を発見する。レンガを積み立てた外壁がぐるりと囲っている。高さは5mぐらいで、門となすところには門番が一人。中の様子は小高い丘がなく、見下ろせる木もないため、町になるべく近い灌木から遠見する。
妖怪だから和風の住処かと思っていたのだが、これまた気のせいか、なにかRPGゲームに登場する町みたいだった。
ここは妖怪の世界ではないのではと疑問を持ち始めたところ、門から武装した雀頭と栗鼠頭の妖怪が出てきた。潜んでいる灌木を通り過ぎたとなれば、あの森に行くようだ。だとすると、この町は妖怪の会話にあった『るーべるんすとの町』ということか。
それから観察し続けると武装した妖怪以外に馬車が一台と旅荷物を背負う武装したのが数人とまちまち入って行った。馬車と言ったが、引いているのは馬ではなく、馬の体形と姿に似ているも、緑色の鱗を持つ蜥蜴のような生物だった。森にいた生物と同類なのだろうか。狩りの対象だけではないのか。
そう疑問するも、町へ向かう人々の話を聞き逃さない。『ろぐおん村』と耳にかすめたので、森の横道を通る方角に別のコミューンがあるのだろう。
通る妖怪を眺めて、ふと小さい子供を見かけないことに気付く。森にあんな生物がいれば、平原にももしかしたらいるからか、妖怪でも町の外に出さないのだろうか。
それが当たっているならば自分も今危ないのではと、ぶるりと震えたが、あの異質な気配がないので恐怖を少々拭う。
門で行き来する妖怪は門番に一時止められるが、一言二言話すと通していた。武装した妖怪はなにかを見せて気軽に入っている。町に入るには門番と顔を合わせなくてはいけないようだ。勤務質問的なことを問われるのだろうか。旅人に声をかける際、門番の口唇が「どこの者でなにしに来たのか」と訊いていた。読唇術は忍者の必須技なので、読める技術は身についている。森の時は近くまで来て、木の影に隠れていたのと背を向いていることが多かったので使えなかったが、ちょうど門が見れる良い位置で草葉隠れの術で多少見つかる危険性は低く、町から少し遠くても門番の口の動きが簡単に読み取れる。
夜になるまで観察する。分かったことは門番が三回の交代制で、朝~昼と昼~夕方と夕方~深夜といったところだろう。日の昇りから夜までちょうど良い分割の時間制となっている。
次に町に入る入口は一つだけ。ガードはというと思ったより緩いかもしれない。顔を合わせ、目を逸らさず、はっきりと答えれば、入門許可が下りる。身体検査並びに荷物検査はしなく、フードや帽子を被ったままで取り外すこともしない。それほど厳しくないのでは考える。観察から、明日妖怪の町に入ることを決定する。
それでは明日の準備と木の葉を払い落とし、闇に紛れて森に戻る。
明日は妖怪との接触となる。気を引き締めて人間だとばれないようにしなければならない。その決意を胸に、三㎝ほど厚みのある清々しい黄緑色の野草を生で食し、眠りについた。ぴりぴりと舌先が痺れるが気にすることなく夜を過ごした。