第六話 仮忍者、情報収集三日目
彩の情報収集三日目。
群青林檎の酢っぱさで頭と口の中をすっきりさせ、探索を始める。残り半分を把握するため、今度は北から南へぐるっと回る。左半分は森の領域外に近いらしく、あの妖怪の気配が少ないながら感じ取れた。正体を確認と木や灯篭の陰に隠れる忍術『木の葉隠れの術』を使用して観察。
現れたのは犬頭と鳩頭と熊頭の三人組。どれも二足歩行で、服装の種類はばらばらだが防具を身に着けていた。変わったところは剣や槍といった武器を含めて、革鎧といった装備品の他、体毛色が紹介した順に青・赤・灰色だった。灰色熊はともかく、青犬と赤鳩なんて人間の世界にいなかった。これは妖怪だから変ではないかもしれない。
三人組はモップ毛の牛生物を見つけると、躊躇いなく攻撃をしかける。見た目で鈍い印象が強いモップ毛の牛生物がその考えとは裏腹に機敏に立ち向かっていた。しかも、ボクシング風の構え。
しかし、三人組の方が上だった。相手の動きを熟知しているのか、あっけなく命を奪う。死体は放置せず、その場で解体して次へと移動した。
殺して解体をしているのを目にして、悲鳴と気分の悪さを堪える。ぶわっと血の臭いが鼻の奥に刺激し、覆面していなかったら卒倒していただろう。自身も狩りをした経験があったことから、なんとか理性を戻して、別の妖怪に観察を移す。
次は兎と鼠の二人組だった。彼らは森に生えている野草や木の実といった植物を採取している。他の妖怪も先の二組同様のことをして森を徘徊していた。
この森を通り道にしているようではなかった。また妖怪は森に住み着いているわけでもない。妖怪らは森を出入りしている。旅する荷物にしては少なすぎるのに疑問し、森の生物をただ殺すのではなく狩りをしている形から、もしや近くに人里があるのではと推測する。
このよく分からない状況を理解出来る可能性があるかもしれない。さっそく人里に向かおうとするが、剛三郎の忍者豆知識一つが頭をよぎらせる。
忍者は侵入する時は集団組織の形態(いわゆる自治体)といかなる住人がいるか最低限知り、最も怪しまれない格好で入り込む。それに倣うべきかもしれないと足を踏みとどめ、情報収集を継続する。
とりあえず、森にいる妖怪から世間話的な会話に聞き耳を立てる。
『るーべるんすとのまち』・『くえすと』・『ぎるど』・『ぎんか』・『まものそうどうなし』・『そるきゅーれ』・『るらくじん』・『ばくすたーもくげきなし』
かろうじて聞き取れた中のよく口にしてたワードをピックアップする。二つくらい漢字変換して意味が分かった。『るーべるんすとの町』と『銀貨』だ。
『るーべるんすとの町』は町の名前。森から近いコミューン。なにかカタカナ表記で示すような西洋風な名前な調子に戸惑う。それと『銀貨』は外国の昔の硬貨名称の一つとして使われていた記憶がある。
妖怪は日本だけでなく、外国にも流通しているということだろうか。妖怪の世界でもお金はいるのか。だが、森の生物を狩るのとお金の繋がりが見えない。採取している妖怪から盗み聞きしたら、「~とれて、やっと銅貨50枚」とか「~の牙が20で銀貨15枚」とかこぼしていた。売れるものがあるってことだろうか。
お金が必要なのだとつかみ、植物で匂いと勘からマシであろう野草を十数枚束にして持っていくことにする。三束用意しとこう。
左側領域外間近まで探索する。把握するだけでなく、もしかしたら、あの若者ら四人もこちらに来てしまっているのでは心配して回っていたりもした。姿はなく気配もないため杞憂だったようだ。
明日は「るーべるんすとの町」を探そう。身を隠せる場所があるのを望み、ぼこぼこ突起が付いたキノコ焼きを食べて就寝。この世とは思えない花畑をハイテンションで駆けまわる夢を見た。