第五話 仮忍者、情報収集二日目
彩の情報収集二日目。
もしものためにと持たされた飢渇丸(きかつがん。食事の代用品。一日に必要な栄養が入っている、一種の非常食。熟されていないバナナのような味)と水渇丸(こちらも食事の代用品。飲み水のない苦しい際に、舐めることで水分代わりとした。酸味のきいた漢方薬の味)を食し、森内部の詳細の把握に入る。寝泊まりしている高い大樹を中心に南から測る。
一日目で目にした種類の他にも奇妙な生き物が徘徊していた。首長の鴨みたいな羽の小さい生物。口が見あたらない短い尻尾の猿みたいな生物。猫ほどの大きさがある多足付き芋虫系の生物。面妖な翅に綿毛を核とした蝶と思わしき生物。のそのそと頭と尻尾は甲羅の中に引っ込んで触手らしきもので移動する生物。
植物もカラフルかつ毒々しいものが生えたりしている。しかし、そんな植物を森にいる生物は平気な顔で食べていた。草や葉っぱや花以外に木の実も発見した。林檎の形なのに群青色。ミカンの形なのに赤と白のドット模様。桃っぽいがどピンクに渦巻き模様があったりと口にするのを躊躇われる色模様だった。けれど、万が一に森を拠点とする可能性は否めないので、避けられない道だと木の実を手にする。
無難と思わしき林檎のような木の実をかじる。柑橘系の味だった。酸っぱかったが食べれなくなかった。
なら、桃の形をした木の実はどうかと一口。その瞬間、顔を歪ませるほど苦味がじゅわっと広がった。なにか裏切られた気持ちで涙ながら完食。一度口にしたものは残すなという家訓のもと、吐くのを堪えて、苦味が消えない口内を洗いたく小川に急行。
口の中がすっきりしたところ油断を招いたのか、奇妙な生物に襲われる。狼の体をした三つ目で体毛が緑、サーベルタイガーのような鋭く大きな牙を伸ばした生物。目に引く牙だけでなく、凶器な爪を振るう生物に、この場に留まってはいけないと危険センサーが発し、忍者が使用していたとされる目つぶしの一種『天狗櫟の法』(塩硝・生麦・塩・鳥梅・酢・胡椒・唐辛子・山椒などを混ぜて卵の殻に入れて紙で巻かれている。水軍が用いたとされる武器)を使い、逃走。異形な姿でも生物なのか目つぶしは効いたらしく、咳き込みながら苦しく鳴く声を背にして逃げ切った。
後から気付いたが、あれの他にも森の中に仲間が潜んでいて、囲うように立ち回り、機を見て襲う算段をしていたらしい。一匹に意識が向いているところ背後を襲うとは……野生に属しているだけあって狩りに慣れている。
初めの夜で感じた気配と酷似していたことから、見た目通り人間世界の凶暴な肉食動物と同類の危険な存在と判断。
虫系・魚系・鳥系・獣系・爬虫類系といった生物がいたが、食物連鎖があることから、頂点に位置する生物がいる可能性が強い。なんとなくだが、森の奥に肌がびりびりする感覚が伝わったりする。あの狼みたいな生物以上の脅威な生物がいそうだ。あれも含めて、それ以上の存在に気付かれずに近づかないよう気をつけなければならない。
二日目でそのことが早く分かって良好。見た目で捉われず、気と直感でも注意しなければならない。それはそうと、初めの夜で妖怪が森の生物を殺していたが、あれらは仲間ではないのだろうか。同類は殺さないわけではないから否定は出来ない。
深入りせずに森の奥には行かず、中心から約5㎞を円に右半分を探索して、夕方までに野宿している場所に戻った。
夕食と採取しておいた野草と木の実を置く。群青林檎の実は念のためようで、他は食用可能か調べるために持ってきた。飢渇丸と水渇丸は数に限りがあるため非常食として残しておくために、この世界の食べ物に受けつけるよう食事を試みる。一応、水洗いをしておいた野草を生で一口。
結果、採取した中でカラフルな野草以外はまんま草味だった。カラフルな野草(形はほうれん草みたいな赤・緑・黄色・青といった配色)はキャベツに近い甘さだ。問題はないが、調味料が好ましくなった。
それを補おうと、赤白のドットのミカンの木の実を皮ごとかじる。実の方は激甘で皮は渋味と、絶妙にマッチしていた。皮と実が別々の味とは……試しに分けて食してみたら、悶絶した。
見た目と反する味を印象に残し、探索は終了。口の中がワンダーランド状態のまま一夜を過ごす。