第四話 仮忍者、情報収集一日目
彩の情報収集一日目。
ここは山ではなく森だと判明。一番と高いであろう大樹の頂点から見渡したところ、高低のない平面とした緑が広がっていた。緑が途切れるところがあったことから、富士の樹海ほど広大ではないと予想。永遠と迷うことはないと思われる。
森の中には小川が枝分かれしたものがあり、植物は毒と薬となる種が生えている。しかし、人間の世界にない植物の種類が多くあり、そっくりとしたものが極わずかしかない。もう、謎としか言いようがなく、食べれるか不明。
これは魚や肉にも当てはまる。小川で魚を取ろうとしたら、見たことがない生き物が泳いでいた。目がなく触覚だけとか。鱗が一つもない草まみれの体とか。一見魚と思えないものだらけ。
これに、動物や鳥はいるかと探してみると、こちらも彩が記憶しているものとは似て異なっていた。草を食べる草食動物のヤギかと思えば、目は一つで針のような鋭い短毛と耳たぶがない生き物だった。他には兎に近いが、耳が左右二対の四つ耳で額に角がある小生物。牛のような大きさで、モップの毛と誤解しそうな長毛に大きな牙を伸ばして二足歩行する生物など。動物と言うよりエイリアンかゲームに出てくるモンスターに近しい生物だった。
調べまわっている中で見つけた安全圏内であろう大樹を休憩場所とし、そこで一度自分の荷物の中に何があるのか確認する。
彩は背負っていた荷物と衣服に隠して身につけてあるのを地面に広げて置く。
所持品は、忍刀と苦無と風魔手裏剣や棒手裏剣などの様々な種類の手裏剣といった刃物類。目くらまし用と目つぶし用の煙玉や催涙弾的な玉のようなものが数種。開器(もしくは壊器)の一つである携帯出来る鋸の道具小しころ。忍者が目的に応じて、どの状況でも使える六つの道具――忍び六具の内、連絡用に使用していた筆記具の石筆(現代でのチョーク)・マッチやライターの代わりとして、短い竹筒に火種を入れた打竹・剛三郎手作りの良く効く毒(痺れや眠りといった)と薬類・使い方によっては多様な長さ三尺(約91m)の木綿の手拭いである三尺手拭いの四つ道具。10mの長さがある縄。刃物を研ぐ際の砥石。携帯用の救急箱ならぬ医療ポーチ。改良された手製のホッチキス型火打ち石。竹で出来た水筒(昔にならって)。携帯の非常食袋。虫と獣除けのいくつかの香草。着替え用の忍び装束二枚。電源はまだあるが通信不可の携帯電話。
ほとんどが昔に倣っての忍者が持っていたであろう道具だった。あの忍者試験では実際に忍者としての体験もあって、なるべく忍者が使っていた道具でサバイバルするよう剛三郎から持たされたのだ(ただし、荷物は現代のスポーツバッグ(黒)だが)。古風すぎるが、今の状況に最適で必需品なのでなんとかなるだろう。
確認後にもう一度本日で見てきたものを思案する。特に森を徘徊している生物について。あれらも妖怪なのだろうか。それとも別種の存在か。正体はともかく他にも種類がいそうだった。
わずかな希望に人間世界に戻れる手がかりを探したが、まったくとなかった。大まかな全体把握と未知なる生き物に食欲が失せて、一日目を終了。