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仮忍者の異世界冒険記  作者: ちゃちゃもん吉
危険な本にご注意!?
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第二話 仮忍者、今いる場に驚愕する

 一週間も遅くなりすみません。

 どんっと叩きつけられた衝撃が全身に襲う。次に背中に痛みが生じ、げほっと咳きこむ。

 意識が定まったのを感じれば、彩は一瞬で起き上がり周囲に警戒する。視界に入るのは夜と列なる木々。誘う風に葉が擦り、静寂さが広がる。その静寂からか肌寒さを全身に伝わらせる。なんら変わりのない景色。

 しかし、彩は警戒を緩ませるどころか強ませる。

 違う―――。周囲の景色を見渡してから、即思った。理屈的に説明は出来ないが、違うのだと勘が発している。彩が試験としていた山は長期の学校休みを利用して定期的に訪れているが、自分の庭と口にしても過言ではなかった。だいたいの地形や群生している植物、川の位置など地図を目にしなくても脳にインプットして感覚で把握していた。どの場にいても迷うことはなかった。また、山の気――マイナスイオンといった自然エネルギー――といったものが肌を通じて感じ取ったりしていた。

 それなのに、その感覚が感じ取れなかった。だから、違うと直感していた。感じた後に周辺を確認すれば、目視でも異なることを発見する。周りにある木々は山にある種類ではなった。登っていた頑丈そうな木もない。雑草や野草を絨毯としていた足元が、どういうことか土むき出しの地面。そして、まったくと知らない山の気だった。

 気は血液型みたいに類似しているのはあるが、一つ一つ異なっている。気は生命同様で中国での龍脈みたいにありとあらゆる自然から放出されている。それは生命ある生物に活気を溢れさせるが、全てはそうとは限らない。一つ簡単に例を出すと、パワースポットと心霊スポットの違いと言ったところである。現代では空気と同様に漂う気を感じ取れる人間が少なくなっていて、若い人らは愕然とばかりに極少数だろう。そのわずか少数の中に彩は入っている。

 彩は物心ついた時から人の気に敏感だった。それが忍者修行で感知能力として向上し、大げさに例えるなら一種のレーダー探知並みに気を捕捉する。

 その感知能力で修行場にしていた山の気は覚えていた。けれど、今は山の気がまったく違うものに変わっていた。それも近場や通りかかる山々のでもない、異質としか言いようがない気。


 なにより、腰に携えていた忍刀と手裏剣に手をつけていることが、己が感じた山の否定の最もな証しでもあった。


 反射的な直感は理性よりも本能寄りだが、危険性に対しては体がいち早く反応する。これは経験則で身につく察知能力であり、彩は未熟で仮ながら忍者であることもあって鋭い。

 あの山で狩る時以外使うことがなかった武器を引き抜かんとばかりしている。ここは知っている場所ではなく、迷いなく武器を使わなくては危険なのだと、勘が強く警告していた。


「あ!そういえば、あの人達は…!」


 彩は花火をしていた若者らの姿が見あたらないのに遅いながら気付く。もう少し遠くかと気を広げる。気を広げるといってもこれは比喩で、遠方への気配を読んで感知する行為である。よく漫画やアニメでの武道家の背後から襲うも殺気を感じて振り向かずに撃墜したり、2㎞離れた諜報している人間を道具なく見つけるとあるが、実はあれ空想ではない。

 とは言っても達人級の人間しか二つ目は出来ないが、彩はその部類に入る超人的な人間が身近にいたため、この気配読みは忍者修行だけにあらず護身用としても身につけさせてくれた。仮忍者で子供だから師匠である剛三郎には象と蟻といった差で及ばずも、彩はこの気配読みは得意分野となっている。そのおかげでかくれんぼは連勝と負けなしとなった。

 限界となるまで張りめぐらしていくが、人間の気配はなかった。

 だが、代わりに異様な気配を掴む。

 ぞわりと産毛が逆立つ感覚が駆けのぼる。これも直感に従い、その場から離れる。あれはやばい。山で遭遇した動物ではない。冬眠前や発情期での暴走や産気前の凶暴さといった動物に同等ぐらいに危険。夜行性なのか感知した“それ”は数匹なのか扇状に広がって駆けている。

 彩は捕まらないよう全速力で逃げる。途中水の匂いを嗅ぎ取り、進路変更して走った先にあった小川にて水を全身に浴びる。嗅覚が鋭いならば、水の匂いで自身の匂いを打ち消す。野生動物から逃走する基本だ。獣除けによく使用していた。軽く水気を拭った後、そこから100m地点にあたる木の上に隠れ潜む。

 彩は気配を絶って、あの異様な気を探る。すると、見失ったのか彩がいる場とは違う方向に変わっていた。逃げ切れたと安堵するも、ふと新たに感じた気配に背筋が伸びる。これはあの異様な気配とは違う、人間のような気配だ。

 もしかしたら、あの人達では、とすぐさま向かう。再び全速力と駆けるが、異様な気配と人間の気配が接触しようとしている。さっき見つけた感じではなく、初めから狙っていた動きだと気付き、もしや実はあちらの人間を狙っていたのかと頭がよぎる。しかし、今は追いつくのが先決だと考えを打ち消して、走るのに集中する。

 手裏剣を数枚指に挟み、いつでも抜けるよう忍刀の柄を握る。水を浴びたことで、いつもよりスピードは落ちていて、最悪な事にあちらが先に接触してしまった。間に合わなかったと苦悩が浮かぶ。


 その時、異様な気配が消えた。


 え、と呆けていたら、他も次々と消えていく。残されたのは、あの人間の気配だけだった。

 彩の足が止まる。驚きで思考まで止まりそうだった。

 あっという間に“あれ”らは消えた。人間と思っていた気配の持ち主がやったとしか考えられなかった。あの人間の気配は花火での若者らと思っていたのだが…改めて気配を感知して、違う気だった。

 若者らとは違う人間という意味ではない。集中して感じ取れば、人間の気配とはどこかズレた気配の違いを指している。それと気配は二つ。若者らは四人なので、それも含められている。

 あの異様な気配と異なるも、沈んでいた警戒をつのらせる。

 退くべきだと一部の思考が挙手している。でも万が一にも彼らの可能性が拭えないから確認するべきだという方が多数決に多い。それに知るべきだと意思が決定事項と判を押した。

 けれど、まず初めに接触せず、遠くから観察する。相手の正体を確認してから、次にどうするべきかもう一度考える。

 忍者は隠密と諜報―――情報収集が最大の仕事だが、ぎりぎりの立ち位置を保ち、深入りはしない。何故なら、ばれたら最後、生還は不可能と等しいからだ。そう、忍者の豆知識で教えられた。

 たしか、好奇心は猫をも殺すと同義語だとかも口にしていた。意味が分からず学校の先生に尋ねれば、海外の諺で生命力ある猫ですら好奇心で身を滅ぼすという意味らしい。

 つまりは、欲求に負けてはいけないってことだろう。それを注意して近づこう。危ないと思ったなら、迅速に逃亡すれば良い。

 彩は気配を消して、移動を再開する。相手に気付かれない、ぎりぎりに視界に入る条件にあった高い木を探す。その条件に見合った木に移り、木の葉で体を隠し、目を覗かせる。

 夜目に慣れてはいるも、遠目からか暗すぎて人影としか捉えられない。話し声も聞き取れない。もう少し近づいてみるかと腰を上げようとしたら、急に月明かり地上を照らし出した。強い月光に慌てて座りこむ。危ない危ない、姿をさらさせるところだった。

 しかし満月にしては光が強いような気がする疑問を片隅に置きながら、これのおかげで姿がはっきりと見える。そろっと木の葉の陰から改めて覗けば――。



「―――――……う、そ」



 強烈なパンチを食らったようなショックを受ける。目にしたものに視力が正常なのか疑った。月光の下で相手の姿を狂わせてしまったのではないか。

 あれはパーティの催しかと、そんな思考をぐるぐると回し、呼吸がままならない。

 彩は見てしまったものを否定したかった。しかし、彩の鋭敏な感知が皮肉にも現実だと告げられる。

 人間だと思っていた二人は…足二つ手二つの二足歩行。だが、二人の頭は人間ではなかった。



 猫と狐の頭だった―――。



 ガクンッと尻をつけ、呆然とあれから夜空へと目を移せば、保っていた理性が思考を凍結させる。青黒とした夜空。散りばめられた星々がクリスタルビーズのように煌めく。中でも女王如く崇拝せんばかりに美しく輝く月が魅了する。

 それも月は寄りそうに照らしていた。


 碧の月と藍の月が双子みたいに―――。


 彩は無意識ながらも、違和感としていた山の気の異なりに、答えが分かった。

 ここは自分の知る世界でないことを。


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