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仮忍者の異世界冒険記  作者: ちゃちゃもん吉
危険な本にご注意!?
22/24

第二十二話 仮忍者、帰る方法の有力な情報を手に入れる?

 二話目です。

「ふぅ…さすがに疲れたな…」


 サイは疲労で猫背になりながら、『赤鱗の尻尾』の自らの部屋に戻る。

 まだ、夕食を取るには早く、風呂も準備完了としていない時間だったので、それまで部屋で待つ。

 ごろんとベッドに横になり、息をついて体の力を抜く。そして、今日聞いて見たことを思い出す。あの『ロッカ・サン』で最も聞きたかった情報を――。


『持ち運ぶのも大変となると…そうでござります。なにか、こう安全な場所とか目的地に一瞬で送ったりする魔具なんてあれば楽になりそうでありまするな。そう空間転送的なものとか?』


『ははは!そうだね。そんな効率的で利便性のあるものがあれば、負担はかなり減るだろうね。けれど、そんな魔具はないよ。空間はともかく転移系統なんて魔法しかあり得ないよ』


『そうでありまするか…ん?魔法があるなら、魔具に取り入れられるのでござりませぬか?』


『確かにね。でも、その魔法はそんじょそこらの魔法より高度で複雑なレベルの類らしいのよ。聞いたところ使い手はこの大陸に二、三人もいるかどうかだったかしら?』


『そ、そんな極わずかな人数なのでござりますか!?』


『マナが並はずれるほどに大量に消費するらしいよ。それに複雑なコントロールをしなければ形にならないんだって。魔法使いでも操れない代物を魔具にするなんて夢のまた夢さね』


 からからと笑って告げられたことに、サイは残念だと冗談めかして、その話は終了した。

 あれからもいろいろ話を聞いたりしたが、今のサイにはそれほど必要ではなかった。けれど、もしものために頭の中に入れておく。

 魔具は一般でも使えて、気術使いでも使用可能だが、武器・防具類と言った装備品は魔力が持っていなくては、組み込まれた力は反応しない。魔力に呼応して発揮するようになっているらしい。もちろん、魔力に反応しなくても使える、装備類の魔具はあるが、効果は通常低くなる。

 この世界では、魔法と気術の力がある。どちらともマナが根本となっているが、魔法は魔力が源に、気術は気力を源として、性質が異なっている。『ジヴォートノエ』は生まれた時から、魔法か気術の力を宿している。さらに、各々が適する属性がある。属性は火・水・風・地・雷・木・光・闇の八つ。適した属性だと、その属性を司り操ることが出来る。だが、逆に適していない属性は操れず生み出すことが出来ない。例えるならば、水属性が適しているならば水の力を操れる。しかし、他の属性の力は操れない。通常は一つの属性だが、中には複数の属性持ちもある。さすがに全部の属性を持ったものはいないが、五つの属性と言う、今までいない最大の属性持ちが今の時代にいるとか。

 魔法に気術と地球では架空と扱われている力に憧れがないとは言えないが、異世界人であるサイにとっては縁のない代物であろうと、それ以上の気持ちはなかった。いくら、異世界でも、自身もそんな力を持つとは思えなかったからだ。

 とりあえず、魔具のことも含めて、今日聞き出した情報を自分なりにまとめる。

 

 その1。ラクジャ車を利用するなら、必要停留地ごとに転々と移動する。金銭の事を考えると、近辺の地域までしか行けないだろう。続けてラクジャ車に乗るなら、そこでお金を稼ぐ。ただ、『ブリアント』のような高給払いの店があるか不明だ。なんとなくだが、あそこほどに給料はない気がする。ないと考えると、ひと月だけの稼ぎで次のラクジャ車利用かつ懐の余裕がなさそうな気がする。それより、こんな包帯人間を雇ってくれる人がいるだろうか。マイナス面が多いため、ラクジャ車連続利用はなしで、途中までにしとく。

 その2。旅をするにあたって、賊や魔物以外にも警戒しなければいけない。当初より予定としていたので、ラクジャ車を利用するかしないにしても、徒歩での移動。これは一番と危険だろう。賊や魔物に狙われやすく、命を失いかねない。それに、ザルガディンと言う組織。悪徳商売だけでない、きな臭いところがありそうだった。関わらなければ良いだけだと思うのだが、カタッレの自分が獲物として目をつけられやすい的な言葉をこぼしていたのが頭に引っ掛かる。子供だからと言う理由だけでないような含んだ言い方。結局、聞けずに分からにままだが、警戒にしといた良いだろう。これも当初通りに、あやしいものに近づかないようにしよう。

 その3。これが最も重要である。先にも思い出していた、魔具による転移はないということだ。自分なりに内心ドキドキしながら話を聞き出したのだが、残念なことに嬉しいものではなかった。帰る手立てになる方法が潰れてしまったからだ。だが、それとは逆に別の帰る方法の可能性を見出せた。無論、サイの中では有力であった方法。

 魔法による異世界跳躍。ほんのわずかながら、転移系統の魔法を使える人がこの大陸にいる。カタッレからは、どれほどの使い手で、どんな魔法なのかは本人も詳しいことが知らないらしく分からない。けれど、希望はかなり大きい。魔法だけでなく、気術での可能性も視野に入れとくべきだろう。

 それなら、自分には縁のない力だが、魔法と気術についての情報も集めた方がいいだろう。帰る方法にしろ、旅をするなら、魔具同様に基本的なことでも知識を聞かなければいけない。


「そうなると、詳しい人に聞くことだね。だとすると…」


 サイが一番に思い当ったのは…今の雇い主の顔だった。思わず、頬が引きつり、歪な笑みを形作ってしまう。木工術師のレハン。術師の肩書きがあるなら、彼は魔法使いだろう。なら、その知識はあるはずだが…彼の性格を考えると、複雑な気持ちがわく。教えてくれなくはないだろう。質問はちゃんと返してくれる。忙しいと何も答えてくれないが。

 そこで、ふとサイは思った。魔法のことで聞ける時間はあるのだろうか。昼休みならば聞けなくはない。午前中が最も忙しく走り回らなければだが。あと、疲れで忘れてしまう懸念も。その日その日予定は決まっていないので、どんな仕事内容なのかは当日で教えられる。仕事量によりけりだが、それほどの疲労ではなければ、聞ける時に聞こう。


「まあ、駄目だった場合は別の人に聞けばいっか」


 サイは一人肯き、そろそろ風呂に入っても良い頃だと、一旦部屋を出る。






 風呂と夕食も終え、部屋に戻って来たサイはベッドの下に手を伸ばす、掴んで取りだしたのは三尺手ぬぐいに包まれたもの。それを解きほどけば、現れたのは忍刀。この町に来てから一度も抜いていない。雑用の仕事で必要なさそうだったため、なるべく身につけるのを軽くするため、ベッドの下に隠して仕舞いこんでいた。今は服に仕舞い込めるものを常備している。

 どこで手に入れたかは不明だが、師の剛三郎より試験時に借りたものである。普通の刀より短く、相反して鞘に通常より長い下げ緒がある。これは忍者が侍と違い、斬る・突くといった戦うためだけに作られたわけではない。隠密行動に適した刀となっているのだ。忍者にとって短い方が扱いやすく、また長い下げ緒で様々な方法を駆使していた。忍者の技の中にこの下げ緒を用いたのがある。『下げ緒七術』と呼ばれ、その名の通り、戦闘・逃亡などの七つの術が臨機応変に活用される技である。その中の一つをサイは使う。

 それは『下げ緒七術』の一つ『旅枕の法』である。これは寝る時に下げ緒を体の下にして忍刀を抱いているといった形で、武器を取られないようにするやり方だ。本来ならもう一つの刀が必要で、二つを下げ緒で結んで人間を間にして鎮座させる。下げ緒と人の下敷きになっているので奪われないだけでなく、片方に手をつければ引っ掛かったところ、残った刀で相手を組み敷くことが出来るのだが、忍刀は一つだけなので盗まれないためにも手首に下げ緒を繋げている。

 今のところ、手裏剣や苦無を使うようなことに遭遇していない。しかし、旅をするとなれば、そうそうに戦わずに回避する事は叶わなくなることもあるだろう。出来るだけ逃げに徹するが、絶対とは言い切れない。

 ここの宿は比較的安全だ。メイベッサが主人だからもあるが、一部屋一部屋に鍵が取り付けられており、出かける時は店に預けるようになっている。やはり、空き巣といった泥棒がいるらしく、地球でと同じく鍵での戸締りが出来るようになっている。この宿屋では起きないと思うが、朝・昼は大丈夫でも夜は危ない。人が眠り、気付かれにくくなり、侵入となると絶好の時間帯。忍者も夜こそ動き時と侵入や暗殺などを成していた。

 いくら、店主と従業員の目があっても、夜だと就寝となってしまう。そこを狙って寝ているところを部屋に入って盗むかもしれない。ここの錠前は普通の一般にあるもの。錠は単純で鍵以外でも簡単に開けられる。捕まった際の手錠や牢屋の鍵開けといった縄抜け術一つは覚えとくべきだと、剛三郎より本物を使って覚えさせられたことがある。さすがに現代のハイテクセキュリティーには無理だが、ここ異世界はそこまでセキュリティー面は最先端ではないので、廊下側まで覗ける鍵穴ならサイでも簡単に解錠できる。仮忍者ではあるが、鍵は閉めていようと、安全は薄いと一目で分かる。

 サイは剛三郎より、夜の防衛術として『旅枕の法』や他も習ったりしていた。その時は山籠りでの修行以外に使い道がないのではと呆れていたりしたのだが、まさかながらの異世界で活用出来るとは思わなかった。

 剛三郎から忍者は常に気を許していないが、特に油断してならないのが夜だと言われた。それにより、普通なら平和でぬくぬく育った日本人の子供だと警戒心や危機感はまったくとばかりになのだが、忍者となっているサイは無意識にも人の気配や危険察知を発揮するようになっている。どんな些細なことでも眠っていようと、瞬時に体が反応するほどに身につけられたのだ。

 今のところ、泥棒騒ぎなどの情報はないが、警戒に越したことがないと『赤鱗の尻尾』に泊まるようになって、毎晩自分の荷物をベッドに置き、忍刀を抱いて眠るようにしている。

 そろそろということで、サイは寝につく準備とちゃんと鍵を閉めたか確認して、就寝につく。

 明日から雑用仕事二週目の始まりである。早く寝て明日に備えようと目を閉じる。

 明日、また欲しい情報を探せばいい。こうして今日は終わる。


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