第二十一話 仮忍者、魔具店に行く
またも二ヶ月以上投稿ですみません!仕事の疲れでまったく進まなく……今回は空きすぎていたので、少し反省を踏まえての二話投稿です。では一話目です。
『ラクジャ車案内所』を後にしたサイはため息をこぼしながらも、次の予定とした場所へ向かう。魅力的な移動予定候補であったが、現実にもお金にも厳しかった。これは、徒歩で王都に行くしかない。ラクジャ車より危険はとてつもなくあるが、ちょっとした小金持ちではあるが、あっという間に一文無しになりえそうな未来に鬱になりかける。
とりあえず、当初通りに自分の足で探しまわることになるだろう。ならば、旅に必需品になるものも尋ねるのも必要となる。
サイは『ラクジャ車案内所』からさほど遠くないところに建つ店の前で足を止める。
店の名前は『ロッカ・サン』。この町にある魔具を取り扱う店の一つ。ここで知りたい情報を求めようと来たのだ。初めはレハンの店に行こうとしたが、彼の性格を考えると仕事に関係ないとなれば相手してもらえないだろうと諦めた。
レハンの店の『ブリアント』と前にある『ロッカ・サン』の他に後もう一店の魔具の店がある。そちらにも時間があれば寄ろうと思っている。『ラクジャ車案内所』から近かったので、まずこの店からと訪れたのだ。
『ロッカ・サン』は日常生活に取り入れる魔具を販売している。オープンと看板が吊り下がっているのを目にして、サイは扉を開く。
店の中は半分は六段以上ある棚に手で持てるほどの大きさの魔具が並び、もう半分は広い空間に大きな魔具が置かれている。
様々な魔具に感嘆を零しつつ、サイは見て回っていると、奥からいらっしゃいませ、と呼び声がある。
店員ないしは店主かと、サイは商品から近づく人に視線を移す。
その人は青緑の体色で目と口は大きく、手に水かきをつけた人――サイの胸ほどしかない身長の蟲人族の蛙人だった。反射的に仰け反りそうになるが、堪えつつサイは蛙人と向き合い挨拶をする。
「どうもでござりまする」
「はい、こんにちは。何をお求めに、て…あら、あなた、レハンちゃんのとこで働いている子じゃない」
ハスキーな声音(女性であろう)の蛙人の言ったことに、サイは一瞬耳を疑った。あのレハンに“ちゃん”付け。確かに女性と見間違うほどの容姿ではあるが、大の大人で男に対して“ちゃん”付けは…と考えた後、そう言えば叔母や祖母が父や叔父や従兄弟達によく“ちゃん”付けして呼んでいたことを思い出す。親しい仲で長く付き合っているなら、別におかしくないのかもしれないと考えを改めつつ、気にしないことにしたサイは、ずれていた思考を戻す。
「そのとおりでござりますが…何故ご存知で?」
と質問しつつ、もしやとサイはその理由がなんとなく予想がつく。
「そりゃあ、有名だからよ。あのレハンちゃんの店を一週間も続いているってね。噂の的よ」今、ルーベルンストの町で知らない人なんていないんじゃないのかしら」
「……そう、でありまするか」
やっぱり、とサイはなんとも言えない気持ちで肩を落とす。マッドに噂になっているのを聞いていたので予想はしていたが、町の住民に全員知っているとは。別にえらいことをしたつもりはないが、レハンのところで働いている時点で注目されていたのだろう。後は、この自分の姿も噂の中心になるのを加担したのかもしれない。
サイは包帯巻きでフードを深く被っている姿は怪しいことこの上ない。それは皆が目を丸くしてはいるも驚きは少ない。怪しむ素振りを見せていなく、気味悪がる様子もなかった。こんな姿は珍しくないのかと考えたこともあるが…町中で自分のような全身包帯巻きの人は目にしていない。
今更ながら、周囲の反応に疑問を抱き、後にその理由も探して行こうと、サイは蛙人に意識を戻す。
「それで、坊やは何をお求めで?」
「その…失礼ながら買いに来たのではなく、どのような魔具があるのか拝見しに来たのでござります。魔具についてあまり詳しくないので、今後のためにも知ろうと思いまして」
「あら、そうなの。勤勉さんなのね」
正直に冷やかしだと言えば、蛙人は気を悪くせず、えらいわと褒める。
「知識を深めることは悪くないわ、知っていることで物事が分かるし、対処と対応が出来るんですもの。ブック・シーの件で魔具を知ろうと考えたのかしら?」
「そ、その事もご存知だったのでござりますか!」
「少し小耳にはさんでね。ブック・シーで大変な目にあったんだって?体に異常はないかい?」
体のあちこちを触り、心配げに見上げる蛙人に、サイは頭痛だけで済んだと答える。
あの時の件はどうも当事者たちと門番と言った警羅だけでなく、他にも見られていたようだ。もしかしたら、町中の人が知っているのでは……。
もしそうなら妙に恥ずかしくて気まずい思いを内に、サイは店頭に並んだ商品を見て回った。
「ここは日常に使われる魔具と聞き申しましたが、何があるのでござりますか?」
「この店には冒険者や旅人に必須の財貨の袋や火種がなくとも火を点ける魔具といった小物から、冷風・暖風を送る魔具と食料を冷たく保存する魔具に、食器を洗う魔具と言った大きい物が置いているよ。一般人でも扱える魔具を商品としている店さね」
「一般人でも?」
その言葉にサイは疑問を抱いて呟けば、蛙人は知らないのかと驚いた表情を見せる。
「レハンちゃんから聞いていないのかい?」
「え、えっと、仕事に専念していたゆえ、聞く暇がなかったので…その…」
子供で初心者だろうと馬車馬の如く雑用させられ、あまりの疲労に情報収集もままならなかった。店のこともヌメルヤの紹介を通してで、後は仕事の合間に店内を拝見と客との話を聞き耳していた。しかし、拾ったとしても聞きかじり程度と変わらず、それもレハンから一切教えられなかったこともあり、無知と等しかった。
働いて一週間近くだと言うのに何も知らない状態で雑用仕事をしていたのかと、サイは自身に呆れて頭を抱える。
レハンの厳しすぎる働かせ方が有名の為か、蛙人は訊かずとも察した。
「そうね。あそこはそこまで余裕がなさそうだし、レハンちゃんのことだから知らなくても仕事が出来ていればかまわないと考えてそうね。教えるなんてしそうにないし…ねぇ、坊やって出身は田舎のほう?」
「は、はい!そ、その、と、とっても遠くで!か、隔離したようなほどの田舎からで!ま、魔具なんて便利な物は、ほ、ほとんどなくてでござりまして…!」
唐突な質問に、サイはしどろもどろで嘘(一部はある意味嘘ではない)の答えを言う。
これに訝しむことはせず、蛙人はやはりと納得した様子だった。
田舎方面だと魔具は一つか二つぐらいしかなく、使い方が分かれば良いだけで、魔具についての知識はまったくないのがほとんどだそうだ。ただ、すごく便利で高価な道具と言う大雑把ながらも、そんな認識だけらしい。
これ幸いとばかりに、サイはかなりの田舎者と嘘自己設定が増えたのである。
蛙人は親切に魔具について教えてくれた。
「魔具は生活用以外に武器や防具、補助的な物があることは知っているかい?」
「はい。普通の物よりも性能は高く且つ高額商品までしか分かりませぬが…」
「そのとおり。魔具は魔法の力で作られた道具だけど、元々は魔法使いにしか使えない道具だったのさ」
「魔法使いにしか使えなかったのでござりますか?」
「そうだよ。魔具は魔力容量保持する特殊な石を核としていてね。魔力にしか反応しないんだ。昔は戦争や魔物の天災とかで兵器類、武器、防具しか魔具はなかったし、当時の魔法使いは軟弱な体つきなのが大半だったから、戦えるために魔法使い専用の道具として作られたのが魔具の始まりとされているよ。それからいざこざが無くなって、魔具は戦う道具だけでなく、人々を支える道具も作り、魔法使い以外にも使用できるよう改良して、長い年月を得て今の生活用の魔具が一般化されるまでになったのさ。武器や防具も同様になったけどね。特殊な魔具だと魔法使い専用となっているよ。でも、これは全般だけど、全部が全部安全と言うわけではないけどね」
完成したとしても問題点があれば欠陥品となる。それが不良品だけならまだしも、人に被害となすと危険物となる。
ブック・シーもその例に入っている。
「けど、ルーベルンストの町にある魔具は問題品となるものはないよ。レハンちゃんのところの自らの手で製作した品物ではないけれど、ちゃんと信用できる魔具工房製作所から発注してあるから大丈夫」
蛙人はだから安心と朗らかにサイに微笑む。
サイはホッと安心しつつ、あのブック・シーのように問題品は密かにあるのだと認識する。元の世界に帰る方法を探すため、魔具に関わらないなんてことはなく、旅をするのだから注意すべきだろう。
あの時は運が良く助かった。だが、また幸運が来るとは限らない。今度は命を危うくしかねない。
「そうでござりますか。では、ブック・シーと言った他に問題且つ危険性のある魔具は何でござりましょう?あと、なにか注意すべき事とかありませぬか?」
「う~ん…申し訳ないけど正直全て把握してるわけじゃないのよ。ブック・シーのように公に事件性に発生した物ならだいたい知っているわ。でも、情報が回っていない魔具の方が残念なことに多いのよね。処分したつもりで他に回したとか、製作者でも把握しない予想外なことが発生して問題になったりとか、勝手に魔改造をしてしまうとかあるのよね」
これは地球でも似た事件とかあった。夏休み前にあった花火事件も含め、メーカーの工場や機械製作やシステム関係がニュースでちらほらと目に入った。
また、魔具は勝手に変えられることが出来るらしい。ヤンキーがバイクや車の外装とエンジンといったのを弄るみたい感じだろうか。
サイは少し変な方向に行きそうだったが、突如蛙人が低い声音を出したのを耳にして意識を戻す。
「でもね。一番に手をつけちゃいけないのがあるわ。ザルガディンの魔具よ」
蛙人はエプロンのポケットから折りたたんでいた紙を取り出す。それを広げてサイに見せる。
サイはそれを受け取って読むと、『オベロンの町にてザルガディンの魔具二点を発見。魔具による被害は軽度。売り込んでいた人物・人数は不明。厳重に注意されたし』、とあった。報告書のようだが、記されているのは簡潔なものだった。その下にはCの形にギザギザの線をなぞり、牙のような絵が描かれていた。
「ザルガディンっていう悪徳な輩がいてね。そいつらは後遺症や呪いやらの身体に影響をおよぼす魔具を平気で売り飛ばすのさ。それも、かつての失敗作どころか危険性のある魔具を製造しているらしいの。注意報告に書いてあるとおり、残念ながらザルガディンがどんな連中か分からないんだよ。分かっているのは、とある魔具にザルガディンの製造マークが刻まれていること。魔具のどこかにそのマークが刻まれているから、それをちゃんと見つけることだね。でないと…五体満足無事では済まなくなるよ」
「ご…ご忠告感謝いたしまする」
蛙人の丸まるとしていた目がきりっと真剣みある目つきに変わり、脅しつける低い声音に加えての言葉を送られ、サイは少々吃驚しつつ、気をつけると返す。
あの言い方と目つきから、ザルガディンは相当危険な存在らしい。報告書から複数で示されていることから組織的なものではないだろうか。とりあえず、怪しいと直感が反応したら関わらないようにしよう。
下にある絵がザルガディンのマークなのだと記憶して、報告書を蛙人に返す。
「特にあんたみたいな子は、ね…」
「え?」
蛙人が受け取ったのを折りたたんでポケットに仕舞いこんで、心配げに小声で零す。
サイの耳に捉えた言ったことはなにか含むような感じがした。単純に子供だからとか、そんな意味が込められているようには思えなかった。
「だいたい知っておいて損はないのはこれぐらいかしら。他に聞きたいことはあるかしら?」
サイはどういうことか尋ねようとしたところ、蛙人が被せるように質問が来た。
これに、サイは慌てて答えようとする。
「ほ、他は~…あ!申し訳ありませぬ!名前をお尋ねしておりませんでした。拙者はサイと申しまする。店主殿のお名前は?」
そういえば蛙人の名前を聞いていなかったのを思い出し、サイは申し訳ない気持ちで名前を訊く。
これに蛙人もそうだったと口に手をあてる。
「あら、そうだったわ。ごめんなさいね。私はカタッレよ」
「こちらこそ遅くなり申し訳ありませぬ。それで、聞きたいことでござりますが、旅をするにあたって必需品になる魔具とか教えてくれませぬか?」
「サイちゃんは旅人だったね。それなら現物を見て説明しようか」
こっちよ、と隣の棚が配列しているところへ移動する。並ぶ棚を通り過ぎ、壁に張り付くように配置されている台の前まで来る。台の上には棚と同様に小物が陳列されている。
「ここは最も人気のある、携帯出来る魔具が置いてあるの。旅をするにも便利な物よ。この中で一番の必需品は、この四つね」
カレッタが示したのは一番左端の台に置かれた魔具四点。
一つは財貨の袋。次にはチョークのような赤い棒の先端にリングが取り付けられた魔具。なんの変哲もない布としか見えない魔具。透明なガラス玉の中に宝石みたいに綺麗な青い石が付いている魔具があった。
財貨の袋以外は目にしたことがない魔具だった。見ただけでどのような効果のある魔具なのか分からない。
カサッレはそれぞれの魔具を手にとって、サイに見やすいように掲げる。
「これは財貨の袋。お金が嵩張らず重量を伝わらない空間収納型の魔具だよ。でも収納するのは無限ではないよ。種類によっては上限が異なっていてね。これは金貨100枚分までは収納できるようになっているよ。これは火を点ける魔具で着火棒。ここの金属を擦ると着火出来るのよ。次にこれは隠れ身の布。魔物に気付かれないよう、隠密魔法が組み込まれた特殊な布でね。自分の身を包むのもそうだけど、テント式に立てれるように大きく作られてるわ。そして最後は水を蓄えることが出来る貯水石。たくさん貯水して保存する魔具よ。水を蓄える特殊な石が埋め込まれていてね。これも財貨の袋と同じ上限はあるわ。これだと20リットル分も貯水出来るわよ。この四つはどれも半永久的に使える代物よ」
分かりやすく簡潔にしてくれた魔具の説明に、サイも理解して、脳内で四次元ポケットの財布版とライターとカモフラージュする布と小型の水タンクと当てはめる。
こちらの世界には銀行やATMなんて便利なものはない。まして、硬貨だけなら荷物が嵩張って重量も増す。ただでさえ、懐にある給料が入った袋で肩が重くなってきているのだ。旅をするのにまさに必需品。
それは他の三つも同様。火種なく焚火を起こし、危険に冒されないよう身を隠し、こちらも嵩張らずに水を多く保持するとなれば、どれも必要な物だ。それも携帯出来る大きさで、短い時間で切れる消耗品ではないとなると、まさに旅のお供として便利で貴重な品物だ。
魅力的な魔具の四点に目が魅かれ、サイは欲しい気持ちいっぱいでカレッタにそれぞれの値段を尋ねる。
「財貨の袋は8S40C。着火棒は9S 。隠れ身の布は単品だと15Sで、テント組み立て式具セットなら20S。貯水石は28S で売ってるわ」
思わず頭を壁に打ち付けそうになった。財貨の袋と着火棒はともかく、残り二つは高額だった。今のところは所持金で買えないが、一ヶ月で換算すれば手に入れなくはない。だが、もろもろ準備をしての予想する残額のお金では心配で手が出せなかった。
さらにカレッタから大きさ・形状・機能によって各々値段は異なるが、どの店でも挙げられた値段が最低ラインであるなど、サイに追い打ちをかけた。
落胆な心情でサイは早々に泣く泣く隠れ身の布と貯水石を諦める。着火棒も必需品だが、一応師匠手製の簡単火打ち石があるので、今はいらないと省く。だとすると、購入するなら、以前から目につけていた財貨の袋だろう。
今すぐ欲しいが、今の目的はそれではないため、財貨の袋は後回しにする。
目を細め、腕を組んで呻るサイを見て、カレッタは困ったように頬に手をあてる。
「まぁ、子供には高すぎるだろうね。冒険者ならなんとかなるかもしれないけど…」
「その…まだ規定年齢に入っておりませぬので…」
「そうだよね。そうじゃなかったら、レハンちゃんのとこで働いてないか」
項垂れるサイにカレッタはぽんぽんと背中を優しく叩く。慰めている行為だが、サイはむなしく感じた。
サイは自分の憂鬱になりかけそうな気持ちを切り替えるべく、一つごほんと咳をする。
ここで、ようやく本題へと入る。
「あのカレッタ殿。財貨の袋のことを聞いて気になったことがありまする。この魔具は膨らむことなく、この状態のままでお金を保管するのでござりますよね?お金以外は入らないのでござりますか?」
「そうね。財貨の袋はお金しか収納出来ない仕様になっているけど、一応道具を仕舞う魔具もあるわね。アイテムポーチやアイテムボックスが有名ね。これも上限はあるわ」
「道具とは回復薬や食料や武器防具などといったものを収納できるのでありまするか?」
「いや、挙げた魔具はね。財貨の袋と違って多く保管できないのよ。なにせ、口に入れる大きさでなくてはいけないし、容量はそうだね…一般のアイテムボックスだとフルプレートの鎧一式が20個限度ってところだね。まあ、特注品なら保管容量は拡大しているけど、それでも最大で50までだって話だよ」
「ほお~、持ち運び時とか便利そうでござりますな」
「いや、それがそうでもないのよ」
サイがアイテムボックスのことを聞き、効用に感心するが、カタッレは苦笑交じりに手を振る。
聞けば、アイテムボックスや財貨の袋などの空間型の魔具は、先に言った特殊な石に複雑な魔法の術式を組み込ませて、それを加工したもの。財貨の袋は繊維状にして硬貨にしか反応しないように作られている。これはアイテムポーチも同じ。しかし、アイテムボックスは大きな物も収納するためにと全て特殊な石で箱型に作られている。これが、とんでもなく重く、背負って持っていける代物ではない。馬車で運ぶのが妥当なほどの重量なのだ。それも大きければ大きいほど重量もさらに重いらしい。
そのため、アイテムボックスは金庫的な扱いとされており、倉庫といったところに鎮座されているのがほとんどだとか。
アイテムポーチの場合は逆に携帯出来る。しかし、これは小ぶりの大きさで保管容量は最大で20あるかどうかで、種類が別々だと10と下がる。特定の物が対象としての最大20と魔具が設定されているらしい。だから、財貨の袋はお金を特定ないしは限定としているため、容量はアイテムボックスよりも多いのだ。
そして、アイテムポーチとアイテムボックスはかなりの高額魔具であり、安く見積もっても80Sはかかるとのこと。
ただの旅人どころか、一介の冒険者も手に入らない金額さとデメリットが目立つ要素に、サイは再び項垂れる。
「…なんとも、拙者では使いづらいどころか手に入るのに一生縁がない代物でござりますな」
「まあ、アイテムポーチはともかく、アイテムボックスを所持しているのはギルドか大手の商人か貴族か王族ぐらいしかいないみたいだしね。中には有力な個人ギルドも持っているなんて話もあるけど…たいていの人様では本当に縁もない魔具であるわね」
大手と話が出るとなると、全ての商人が持っているわけではなさそうだ。『ブリアント』でも、そんな魔具らしきものは置いていなかったのを思い出す。
けど、アイテムボックスの効用を聞いて、利便性が薄いのだから、あえて所持しないのかもしれない。
『ブリアント』での倉庫と工房内部を脳裏に浮かばせて、逆にアイテムボックスが邪魔になるなと苦笑を漏らす。あの店主の事だから、すっぱり必要ないと置くなんてしなさそうだ。
サイはすごい機能でも不便が大きいのもあるのだなと、頭に収めつつ、“ずっと仕舞いこんでいた疑問”をようやく質問に交えて言葉に出す。
「持ち運ぶのも大変となると…そうでござります。なにか、こう安全な場所とか目的地に一瞬で送ったりする魔具なんてあれば楽になりそうでありまするな」
そう、空間転送的なものとか―――と、サイは真剣な光を宿して、カタッレに訊いた。