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仮忍者の異世界冒険記  作者: ちゃちゃもん吉
危険な本にご注意!?
2/24

第一話 仮忍者試験中に…

 そこは清涼あふれる自然エネルギーが放出される山。一般からしたら田舎に行けばどこにでもありそうな山だが、ここは人が伐採としていない地。人間が通る歩道も車道も一切にかけていない、太古よりありのままとなっている山。

 前人未踏寄りの山に一つの影が通る。それは猿の如く身軽に木から木へと飛び移り、せせらぐ川辺に出ると狙いを定めて投擲する。小さく水しぶきを上げ、投げた水面に仰向けとなった小魚三匹が浮上する。小魚の腹には細長い刃が貫かれており、それにより仕留められていた。

 影は川原に降り立ち、仕留めた小魚を拾いあげる。影は全身漆黒に近い紺色を身に纏っていた。頭を覆う頭巾と鼻まで被さる覆面。胴体はぴったりと体に合わさった着物と袴。

 


 その姿は誰もが一目でわかる様相――忍者であった。



 忍者の起源は飛鳥時代からと言われ、日向に出ず陰の中で動きまわり、君主のためにと隠れながら情報収集としていた。情報を得て有利にするために、時に変装をし、時に欺き、敵に見つかれば逃走し、振り切れぬならば刃を持って切り伏せたりと忍術・忍器を活用する。忍者は表にて知られるようになったのは1487年「鈎の陣」の戦いからと云われている。そして戦国時代にて歴史に書される忍者の一族――甲賀忍者・風魔忍者・伊賀忍者・戸隠忍者などといった忍が明かされる。江戸時代では戦国時代とは違い泰平を維持するために活動する御庭番などが生まれる。

 唐突に忍者雑学を紹介したが、件の忍者が戦国時代を闊歩する者だというわけではない。まして、安泰を治世していた江戸時代でもない。

 今代、忍者は絶滅危惧種扱いされているのだ。

 今は日の本の島国に留まらず、世界へと渡る戦争なき時代――平成。証拠に忍者の足履きは草履ではなく、昭和時代に誕生した地下足袋である。

 その平成時代では、侍や武者は時代につれ徐々に激減とし、明治・大正と入れば志を残し自然と消滅としていった。しかし、忍者は戦もなく平和な時代だろうと形を変えて今を生きていた……と言い切れることではない。


 忍者は削り切った小枝を小魚に突き刺し、用意しておいた薪を前に懐からある物を取り出す。ホッチキス型の挟み金具の先端に石が取り付けられており、それを細かく引き裂いた乾いた枝木を挟むように石と石をぶつける。バチンッと火花が飛ぶと枝木に火がつく。火が枝木を燃え消される前に薪に落とし、焚火と大きくさせる。その周りに小魚を立てて焼けるまで待つ。

 ふう、と息を吐く忍者は頭巾を外し、覆面を下ろす。表れた顔は黒髪黒眼で目鼻立ちが平面としたいかにも日本人特有の顔。容姿は中性的ながら平凡としたもので、特徴的なところは大きな瞳。


 忍者の名は天川あまかわ いろ。155ありそうな身長で高校生と思われるのだが、実は齢は11歳の女の子。身長が高いことで実年齢より5歳ぐらい上に見られ、ボーイッシュな格好をよくしていることからか男の子と間違えられる。春になれば中学生になる子供であった。


 そんな子供が何故忍者姿で山に籠っているかと言うと、彼女の祖父の弟にあたる人物が原因である。

まず始めに、彩の家系に関係としていることから説明しなくてはいけない。

 単刀直入に言うと、天川家は忍者の末裔と云われている話から始まる。なんでも鎌倉時代より活躍していた忍者だが、上記に挙げた忍一族ほど名が知られていない。戦国の半ばのところ天川忍者は力及ばず滅んでしまい、生き残った人間は農民に紛れ、平々凡々と生活していって血筋絶やさずに今現代に続いたらしい。

 珍しきルーツだ……と単純に終わらない。何故なら、現代天川家はそんな先祖説は眉唾だと信じていないのだ。天川は先祖代々百姓の家だと言われ、証拠に残留していた200年前の先祖日記らしき書物に「天川家は元は農民の出であったが今は―――」と綴られていたのを発見したことから、忍者が先祖説はばっさりと切っているのだ。

 その書物があるのに、どうして忍者説が出てきたのか。それが彩の伯叔祖父――天川あまかわ 剛三郎ごうざぶろうが起因としている。

 剛三郎は名前の通りの剛健っぷりで破天荒にして豪放磊落。御歳70を迎えたというのに杖要らずの高身長で筋骨隆々。現役の武闘家に負けじであるスーパー老人。

 そんな彼が成人となって若い頃、どこから見つけて入手したのか、兄弟や兄の子供らといった家族に忍一族帳とやらを見せて訴えたのだ。だが、中身は昔の達筆とした繋げ文章ならともかく、子供の落書きとばかりの意味不明で汚く書物に書かれていたのだ。そのため、兄弟・子供らから忍一族帳をただの落書きだとあしらわれる。けれど、剛三郎は忍一族帳は本物だと頑なに信じ、嫁を貰う歳だというのに忍者修行に明け暮れてしまった。元来身体能力と武人のセンスもあってか、修行したことで超人的人間となったとか。

 そんな剛三郎を天川家は変わり者のレッテルを貼ったが、豪放磊落で大らかな性格さがあり、嫌う人格者とはならなかった。ただ「こんな大人になってはいけないよ」的な反面教師扱いされたが。

 そんな子供らが大人になり、新たな家族が出来る。それが孫達だ。彩はその孫の一人で、剛三郎の二番目の兄である祖父の息子夫婦から誕生した一子。父親似の平凡とした容姿と母親譲りのぱっちりとした大きな瞳の女の子。当初はおどおどしていて人見知りの性格で、そこらの子どもと変わりない極一般な子だった。このまま成長していけば、内気でおとなしめな少女といった将来が垣間見えたりした。

 ところが、そんな彼女が剛三郎と出会ったことで変わってしまう。

 その出会いは一年に一度の親類が集まる新年会。当時、5歳であった彩は人見知りながら、従兄弟達と和気あいあいと遊んでいるところ、剛三郎がやって来たのだ。剛三郎は老人の年齢に入ったのにも関わらず、山籠りをしており、なかなかと家族集会に出なく、久しぶりの再会であった。しかし、孫達には初めて3番目の祖父との対面だった。初対面もあって、山のように厚い筋肉をむき出しで強面から、幼子達は恐怖しないわけがなかった。まるで絵本での悪い鬼がそのまま飛び出してきたかのようで、孫はわんわんと大泣きして、両親のもとへ逃げ出した。

 けれど、その中でただ一人泣かずに逃げなかった子がいた。それが彩である。恐くなかったわけではないが、逃げるタイミングを失い、そのまま向き合うように立ちつくしてしまった。ガクガクと震えながらも、彩は涙目で剛三郎と目を合わせていた。剛三郎が眉をひそめ一歩近づくと、びくっと肩を揺らして彩は大股に一歩下がる。また一歩近づけば一歩下がり、二歩なら二歩とじりじりと接近と後退を続いた。いつのまにか母のもとにたどり着き、彩は従兄弟達と同じく縋るかと思ったが、恐怖全開ながら振り返らずに前を見据えて立ったのだ。それはまるで母を守るような姿で、幼児ながら恐怖の相手から目をそらさぬ様子に、剛三郎はニヤッと笑った。これを目にして彩は耐え切れずに泣きだしたが…。

 そんな出会いから、剛三郎は彩を見込みありとばかりに気に入り、長期休みになれば今も忍者をしている剛三郎の忍者修行に強引に連れ込まれてしまった。両親には初め反対されたが、彩が半分恐々としていながら嫌がっている素振りはなかった。むしろ、やってみたい気持ちとなっていた。鍛えられたことで現代の子供らに比べ、たくましくなった子を見て、母親は背を押して父親は渋々と引いてくれた。代わりに心配防止とGPS付きの携帯を持たされたが。

 そして、小学六年生となった彩は止めることなく忍者の技を持つ人間として育った。しかし、正確には忍者ではなく、仮忍者である。

 剛三郎は先祖が忍者だと豪語してはいるが、復興といったことをしたいために忍者をしていない。先祖が忍者だから自分もなろうといった挑戦意識によるもの。アマチュア的だがアマチュアを超える信念で好きにやっているのだ。つまり、代々と続くといった正式的な忍者じゃないながらの忍者である。これも含め、忍者だけでなく職人もしかりだが、師から一人前と送られていないと弟子はずっと半人前。だから、忍者と名乗らず、半人前を捻って仮忍者という立場となっている。

 そんなこんなで小学六年生となって夏休みと入ると、またも剛三郎に連れられてしまった。この日も修行をするのかと思えば、唐突にとんでもないことを告げられる。


『忍者の一員となるための試験を行う』


 そんな宣言後、質問なしに試験内容とルールを説明し、お馴染みの忍者装束・忍器一式とその他もろもろ渡され、人間が入りそうにない山の中に放り込まれてしまった。試験内容は……二週間以上のサバイバルをすることだった。


 そして現在に至るというわけである。

 彩は焼き上がった小魚を頬張り、塩が欲しいなと思いながら茜色の空を見上げると、憂いを帯びた顔つきになる。


「もうすぐ夜かぁ…う~」


 眉尻を垂れ下げ小声で呻きを漏らす。その顔色には寂寥と恐れが浮かんでいた。彩が山に入って五日が経っている。夜が近づいてくる時間が過ぎていくうちにつれ、そわそわと脅えた感が如実に体に表れてきた。

 サバイバルは初めてではない。前にも自給自足で山籠りをしたことがある。明かりが一つもない暗夜を過ごしたことで、常人より夜目が利くようになり暗闇に対する耐性は出来ている。出来ているのだが…。

 彩は懐から携帯電話を取り出して、カチッと開く。


「……うぅ~…やっぱり電波がないや」


 画面表示されているアンテナが圏外と映されていた。彩は一人での山籠りサバイバルは三日までしか体験していなかった。一週間体験したこともあるが、その時は剛三郎が一緒だった。初めは慣れた山だから二週間はへっちゃらだと軽い気持ちだった。けれど、五日目となった今日、心の奥に燻っていた感情が湧きあがってしまった。

 彩は一人のサバイバルに寂しい思いを駆られてしまっていた。忍者していても、やはり現代の子供。安心を求めたく家族の声を聞きたがっていた。電波があるところに移動すればアンテナが立ち電話は出来る。しかし、家族に連絡したら試験は失格というルールでかけるにかけれなかった。

 忍たるもの、陰に属し、山や野を昼夜駆けて行くことで、独り強くあれと言われ、人無き自然の中を一人で生きぬき恐れを制す課題とされていた。

 突然と強引に忍者に入らされたが、彩は流されながらも好きにやり続けていた。趣味と等しいかもしれないが、仮ではなく正式に忍者なれる喜びがあったから受けたのだ。

 二週間一人で頑張って、剛三郎によくやったと褒めてもらいたい。その心意気を無くさずにいこうという強気な思いであるが、それは今回で四回と繰り返したていたりしていた。今日の弱気はこれで終わりと彩は携帯を懐に仕舞い、残りの小魚を食べ終えて夜に備える。

 満月である夜。彩は丈夫で幹が高く枝が太く長い木に登り、寝につこうとしていた。夜行性の動物に襲われないよう、地面ではなく高い所で休むのだ。野生の動物は人間を目にしても敵か食い物としか見ない。人間よりも嗅覚と聴覚が何倍以上にも優れ、夜は独壇場としている彼らに、仮でも忍者をしている彩でも立ち向おうとせず、守りと逃げに徹している。野生動物以外にも毒を持つ爬虫類や昆虫も少ないながら生息しているため、苦手とする香草を纏わせて近づけないよう対策もしている。だが、これで完璧安全というわけではない。睡眠しつつ、危険が迫れば瞬時に意識が覚醒するよう気を張りめぐらせている。

 寝る準備が整って15分ほど時間が経過した時、パンッと破裂する音が鳴り響いた。パチッと眼を開き、もたれていた体を起こせば、また破裂音。音がする方へ視線を向けると、遠くで一部光っているのを捉える。

 誰だろう。こんな夜遅くにしかも山の中で何をしているのだろう。

この山は6㎞で下山すれば人里がある。だが、夜の山は身も承知とばかりに、なにかないかぎり入ってこないはずだ。しかし、周囲の気は疎らながらざわついていない。となると、都会方面の人間が誰か来て何かをしているのだろうか。

 彩は立ち上がり、不規則に輝く光を見据える。本当は満月がある夜に移動したくない。月の明かりが強ければ見つかってしまう危険性があると聞かされていたからだ。人間しかり動物しかりと満月の夜は潜むのが通常。けれど、破裂音と点滅する光に野生動物が狙いをつけていくかもしれない。

 もし、なにかあってしまってはいけない、と彩は足に力を入れ、木々に飛び移った。

 もうすぐ着くというところ、人の声が耳に入る。光にあたる人影の数も見えてきた。人数は四人。二人は背が高く、もう二人はそれの頭一つ分低い身長。声からして男女二人ずつで若者だと推測。五日ぶりの人間の声にホッと安堵を漏らすが、いかんいかんとすぐさま気を引き締める。

 試験のルールの一つ、人に姿を見られてはならず、話しかけることも禁じるとあった。それも破れば失格となってしまう。いつもなら、ここらへんは動物はそう近寄らないと安心と確かめてから立ち去るのだが、時間と場所なだけに気になっていた。

 彩は一時足を止めて、若者らが囲う木々を一つずつ見回す。それから、若者らの変わらぬ様子から、よし、と拳を作る。

 彩の中で、気付かれずに見れば良い、と好奇心が勝ったようだ。

 気付かれないよう足音を殺して、彼らを見下ろせる木に静かに接近する。


「お、おい。さすがにやばくねぇか?」


「そ、そうだよ。着けたらいかにもやばそうだよ…あれなのかもよ」


「なに言ってんだよ。問題になっているのは全部新しいやつばっかだろ。それにこれを着けないでどうするんだよ」


「そ~そ~!早く着けましょ~。その花火~」


 どうやら彼らは花火をしていたようだ。あの破裂音は打ち上げ式の花火でもしていたのだろう。

 夏の風物詩か、と羨む気持ちとなっていた彩はそこでふと思い出す。たしか、最近の花火暴発事件で花火をしないようTVからも忠告されていなかったか。

 話からして知らないはずがないのに何故かやろうとしている若者らにどうしようとかと困惑しながら登り終えれば、「はい着火~」という声が上がる。

 先程とは違う意味で気になった彩は、つい下に顔を覗かせた。



 その時――――目の前が真っ白に彩られた。

 これが、“こちら”での最後の記憶だった。


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