2話
遅れて申し訳ないです
もう少し進むつもりだったんですが、キリがいいので取り敢えず投稿します
感想とかあったらいいなぁ。
あれから歩いて十数分、ジジイの家で俺は軽い治療を受けた。
何かと言いながら助けてくれるジジイはこれだからみんなに好かれるんだ、イザという時にやっぱ頼りになるわ。
少女はいまだに眠っているが、内外ともに問題なしという判断が出た。
「もうしばらくすれば目が覚めるじゃろう。それまで待ってやるがええさ」
「そうですか、よかったです」
「しかしなんでこの子は空から降ってきたんだ?」
この世界では魔法で海を渡ることや、陸を素早く移動する方法はあっても空を飛ぶ方法はいまだ存在しない。
ゆえに、フレンの疑問はもっともだった。
「ンなもんこいつが起きてから聞いたら分かるんだし、今考えても仕方ねえだろ」
「まぁ、そうですね」
そう言って少女の顔を三人で覗き込む。
こうじっくり見ると幼さがしっかり見て取れる。
あどけない寝顔に自然とほほが緩むノアは世話好きの血が騒いでるのかもしれないな。
こいつは、暇な時間があれば小さなガキどもの面倒を率先して見たりする。
将来はいい母親になるだろう、男だが。
「カイト、今不快な気分になりました。何か失礼なことを考えたでしょう?」
「い、いいや、俺は何も考えてない」
「そうだぞ!将来ノアはいいお嫁さんになるだろうなんて、これっぽっちも思ってないさ!!」
フレンは同じことを考えていたらしい。
しかも聞かれてもいないのに口に全部出すなんて本当に馬鹿な奴だ。
それよりなぜこいつは人の心に反応できるのだろう?まさか未知の魔法か?
「ふふふ、どうやらフレンには少しお話が必要みたいですねぇ。全く仕方ないんですから」
コワッ!?笑顔なのに目が笑ってねェよ!これはフレン・・・死んだな。
フレンは必死に抵抗するも空しく、ノアに物陰へと引きずられていく。
俺はその姿に傍観を決めて、哀れなフレンを見送る。
やがて、野太い悲鳴が聞こえた気がするがそれは空耳だろう、うん。
「相変わらずお前らはバカばっかりしておるのう。あまりノアールを困らせるなよ。お前らと違ってあの子はまともな常識人じゃからな」
「失礼な、一番の常識人はだれがどう見ても俺だろ」
「どの口が言うんじゃバカモン!常識人が必死に仕事をサボろうとするか!」
そう言ってジジイに頭をはたかれた。
医者が患者を傷つけるなんて聞いたことがねえ。
一人とボロ布みたいなものが帰ってくる。
「んっ・・・」
そこでまるで見計らったかのように少女が目を覚ました。
ぱちぱちと瞼を動かし、吸い込まれそうなくらい深い黒の瞳が辺りを見回す。
・・・・・・瞳まで黒とはかなり珍しい。本当に何者なんだ?
「き、きゃぁ!!」
少女はかけていた布団を引き寄せて壁に下がりつつ悲鳴を上げた。
不審者に見えたのか、そりゃ見知らぬ男たちがじろじろ見ていたら警戒するわな。
「あなたたち、なんなんですか!?」
状況を確認しようとしているのか、怯えつつも俺たちに質問を投げかける。
言葉が通じるのなら意思の疎通ができる、一安心だ。
「落ち着いてください。別に私たちは君に何かするつもりなんてありませんよ」
ここで一番人を宥めることにになれているノアが、黒さ無しの優しい笑顔と屈んで目線を合わせ話しかける。
大体これで子供は落ち着くし、落ち着かなくとも話をできるくらいの冷静さを取り戻すだろう。
その間俺はこれから聞き取る情報から色々と思考することにした。
「私はノアールといいます。こっちのボロボロになっているのがフレン、生気のない顔をしているのがカイト。そして椅子に座っている方がここの医者のハンクさんです」
紹介が酷い、まだ怒っているんだなノアの奴。
「よければあなたのお名前を聞いてもよろしいですか?」
「・・・柊高校二年の浅海奈々です」
「ナナさんですか、素敵なお名前ですね」
俯きつつもこたえるナナという少女にノアは優しく声をかける。
「ではナナさん。何か聞きたいことがあれば、私の答えれる範囲で何でもお答えしますよ?」
「じゃあここはどこなんですか!?私は何でここにいるんですか!!?それから、それから・・・」
その必死な姿は小さな子供のようでノアは優しく頭を撫でて安心させようとする。
少し乱れた呼吸はやがて元に戻り、ナナに再び考えるだけに余裕を作る。
「ふふ、落ち着いて下さい。では順番に話しましょうか、まずここはソルニア王国の王都シェノラの下街、その下街に唯一いる医者のハンクさんの自宅ですね。君は空から降ってきてそこのカイトに助けられたのです」
「空から!?・・・あっ、でもそういえばそんな気がする。私、気付いたら空から地面に落ちていってて、このままだったら死ぬと思ったら怖くなって・・・・・・そこでたぶん気絶したんだ」
ナナもなぜそうなったのかわからないのだろうか。
記憶障害?でも自分が誰かは分かってるから違うか。
「カイトさん・・・でしたっけ?助けてくれてありがとうございます」
「気にすんな、この街で人死が出たら寝覚めが悪いからな」
クスッと二人に笑われた。
何かおかしなことでも言っただろうか?
「話を続けますね。そして外傷はなかったものの、万が一何かあってはいけないのでハンクさんの家で検査をしていました。ここまでが今現在までの流れです」
ナナは頷いて返事をする。
どうやら順応理解力が高いらしい。
話の意味を考えているのか、何かを考えるそぶりをした。
「じゃああの、日本という国に聞き覚えはありますか?」
「日本ですか?聞いたことがありませんね。他の人はどうですか」
「知らん!」
「何で自慢げなんだよ。あー、俺も知らないな」
「ワシも耳にしたことないのぅ」
「ではアメリカ、ロシア、オーストラリア、イギリス、中国等に聞き覚えは?」
「何かの呪文か?」
「そう、ですか・・・」
俺たちの答えに何か駄目だったのだろうか、落ち込まれた。少しショックだ。
「あの、えっと、ここは何ていう・・・大陸・・・ですか?」
「えっとな、ここソルニア王国があるのは大陸で一番大きいステラ大陸っつうところで、ソルニア王国はその中で三大国家のひとつ。であってるよな?」
「バッチリですよフレン。勉強の成果がしっかりと出ているようで何よりです」
「まぁ、下町のガキどもでも知ってることを知らん脳筋のお前にしてはだがな」
「よしカイト喧嘩売ってんだな?いくらでも買ってやるぞ」
俺の言葉に反応したフレンは袖を捲り威嚇して来た。
もちろん俺は無視して話を続ける。
「お前はそのガキでも知っていることを知らない。とする何らかの記憶障害じゃないのか?」
「 なるほど、あのような恐怖を体験したのですから、そうであってもおかしくはない」
「ふむ、可能性としては一番妥当・・・じゃな」
「あのー」
「ん?どうかしたか嬢ちゃん」
俺たちはナナの話に耳を貸す、本人置いて話を進めるのもあれだしな。
「たぶん信じてもらえないでしょうが、私は恐らくここではない世界ーーーつまり異世界からきたんだと思います」
「どう言うことだ?」
意味がわからない俺は彼女に聞き返した。
「私の世界、というか私の国ではよく物語としてあるのですが、自分たちが住んでいる世界とは異なる世界があって、何か出来事があって迷い込むという物です。現実に自分が体験するとは思っていませんでした」
「へぇ、そいつらは元のナントカって世界に帰れたのか?」
フレンは目を輝かせてナナに聞いている。
もしかしたらその帰り方があるのなら自分も行けるのではと思っているのかもしれない。
それは俺も興味があるな。異世界か・・・、一体どんなところなんだろうな。
ナナは記憶を思い出すように指を頭に当てて難しい顔をした。
「たしか、帰る人もいればそこに残る人、帰れない人もいたような・・・」
「なんだそれ?曖昧なんだな」
「その方法は分からないのですか?できることなら私達でお手伝いしますよ」
「そうだな、こんな子供を放ってここで『ハイさよなら』なんてあんま気分良くないし」
俺たちはそう言ってナナを見る。
ナナは申し訳なさそうにするが、そんなことは気にしない。
子供は大人に甘えるもんだ。
結局、わからないみたいなので、ここで生活しつつ帰る方法を探すということにした。いや納得させた。
こいつはどうも人に迷惑をかけないように、みたいな遠慮することが染みついていてお人よしで騙されやすそうな気がする。
そんなことではこの世界で生きていくのも難しい。
むろん今回のように俺らのような下町の人間なら大丈夫かもしれないが、全員が全員そうであるとは限らない。
捕まって売られて性奴隷にされて・・・なんて可能性もある。
なら俺ら大人は係わった分この子供を守る必要がある。
面倒くさくてもがそれで終わらせてはいけないだろ?
「で住む所をどうするか、だが」
「カイトの家はどうでしょうか」
「ノアの傍にいた方がいいんじゃないのか?」
「私は店の手伝いでほとんど傍にいてあげれませんし」
「傍にずっといられないっていう意味なら俺も同じだな!」
「ま、それが妥当か」
俺たちがナナのことで話していると本人は顔を真っ赤にして俺たちに言ってきた。
「ええっ!お、おおお男の人と一緒の家に住むんですか!?」
「駄目なのか?面倒見るって言ったんだし、普通だと思うんだが?」
「だ、だって未婚の男女ですよ!?」
「大丈夫、カイトは十二やそこらの子供に手は出さねえよ。こいつ年上の肉づきの良い人がタイプだし」
「おい、サラッと人の性癖バラすな。・・・まあそういうわけだ。気にすんな」
「私は今年で十七です!!」
一瞬で場の空気が固まった。
「「はぁ(えぇ)!?」」
「マジかよ!そんなちっこいなりですでに成人か」
「これでも一応平均なんですけど」
「チキューは子供の世界なのか」
「違いますから!」
「ナナさんごめんなさい。私もカイトたちと同じく十二、三歳だと思ってました」
「ノアールさんまで・・・」
「世の中には不思議なことがまだまだあるみたいじゃのう」
「「あ、ジジイ(じいさん)いたのか」」
「ここはワシの家じゃ!」
こんなやり取りをしつつ、話を進めていった。
一時間後、結局俺の家に住むことになったナナを連れて俺は家に帰ることになった。
しばらくのんびりはできそうにないな。はぁ・・・。
―◇―◆―◇―◆―
「あの、カイト・・・さん」
「カイトでいいぞ、近所のガキ共もそう呼ぶしな。あと敬語禁止」
俺の隣を歩く少女は遠慮がちに話しかけてきた。
「え?あ、うん。じゃあカイト」
「なんだ?腹減ったのか」
「まあ少しはお腹空いてるんだけど・・・ってじゃなくて!」
おお、こいつ良いつっこみするじゃないか、・・・デキるな。
そんなどうでもいいことを考えていることを知らずにナナは話を続ける。
「カイトって何の仕事してるの?」
「俺か?俺は道具屋だな。あと魔導具の修理とか」
「魔導具?」
「お前の世界には魔導具もないのか?なら魔法は」
「魔法があるの!?」
凄い食いついてきた。
なんか期待してるっぽいが魔法はなぁ、あーなんか夢壊すようで申し訳ないなコレ。
「あ、ああ。あるっちゃあるが俺たちは使えねえぞ」
「えっ、何で?」
「俺は貴族じゃないから魔法回路が弱いんだ。まあ貴族じゃないなんてここに住んでるの見たら一発だろうがな」
魔法回路は人間が普通では存在しない現象、魔法を起こすのに使うものだ。
これが一定以上強いと魔法を使うのに必要なエネルギーである魔素を集めて体外に流し、この世界に魔法という現象を起こす。
大体平民はその必要な回路が弱すぎて、魔素を十分に扱えないため魔法が使えない。
だがそれを助けるのが魔導具と呼ばれるものだ。
料理に使う火をおこす、物を浮かせる、水を出す、夜を照らす明りを作るなど、使える魔法はその道具によって決まっているが今ではすべての国が使っている。
魔導具はそれ自身にある発明家が作った擬似魔法回路という人間の回路を魔石と機械の回路で真似たものを組み込み、現象を起こす術式を刻んだ物で、起動すると魔石から自動的に魔素を集めて魔法を発動させる。
但し、擬似魔法回路には複数の属性に対応できない事や、道具そのものに術式を刻んでしまっているため一つの魔法しか使用できないという制限がある。
そんな魔導具を使うことにより本来なら使用できない俺たちにも機器の耐えうる生活レベルの小さな魔法程度なら使えるという訳だ。
ついでに魔石とは魔素を多量に含んでいる不思議な石である以上説明終了。
「魔導具は回路に齟齬が生まれたり、魔石が切れたり、術式に綻びが出来ればただのモノになるんだ。俺はこの回路を修復したり、術式を組み直してまた使えるようにするっていう仕事もしている」
「へえ、カイトってすごいね」
「まあ昔取った杵柄ってやつさ」
「カイトって今何歳なの・・・」
俺は笑って誤魔化す。
別にとしはおせえて問題ないんだがな。
そうこう話している我が家に着いた。
ナナはレンガ造りの小さな家を見て、苦そうな顔をする。
「なんて言うか・・・独特な家だね」
「素直に不気味でショボイって言っていいんだぞ」
「いやいや、小さいのは可愛いしちょっと怪しげな感じが逆に神秘的だよ!それに私こういう家に住んだことないから新鮮だし!」
フォローしてくれるが、顔は分かり易いほどがっかりしてる。
夢をことごとくぶち壊して、そして貧乏でスマンと言いたくなった。
取り敢えず中に入って家具や道具、部屋の説明をしていく。
「ナナの部屋は二階の手前にするつもりだが、今はいろいろ置いてるしそれを片付けてから家具を揃える。まぁ見た目はアレだが、防犯や設備は結構充実してるからおいおい慣れてくれ。住めば何とかって言うし」
「うん。じゃあこれからよろしくねカイト」
「ああ、よろしく」
こうして我が家に新しい住人を迎え、二人の生活が始まった。
2014年3月19日一部修正しました