1話
最初なので、もう一話投稿しときます
昨日の事件が起きた日から日をまたいだ朝である。
二日酔いもなく、空気は旨い。
昨日のようなおかしな騒動のない、いつも道理の町にそこで働く人々。
それは俺が一番求めていたものだ。
「そんな中、俺はのんびり過ごすわけだがな」
朝飯の安くて硬いパンをモソモソと食いながら、俺はその光景を眺めていた。
机の上にあるコーヒーを取って喉に通して眠気をしっかりと吹き飛ばす。
いやー、本当に平和って素敵だな。
「では、そんなあなたにお仕置きするのが私の今の仕事ですかね」
その瞬間俺のささやかな幸せが崩れ落ちる音がした気がした。
今ここにあるはずのない声に恐怖を感じ、素早く声の方へ振り向くと、そこには笑顔で青筋を立てた鬼がいた。
「ノ・・・・・・ノアール・・・・・・さん?」
「ハイ、なんでしょう?」
何でオマエが俺の家に?家の仕事は?というよりどうやって家に入ってきたんだ?
他にも聞きたいことが頭を巡り、上手くまとめれずに頭を流れていく。
つか今の話絶対に聞かれた。相変わらずメチャクチャ怒ってやがる。
今すぐ逃げなくてはと、窓に手をかけ脱走を計ろうとしたが、先に襟首を捕まえられた。
「昨日言いましたよね、しっかりと仕事をしましょうって。あんなに話したのに、分かってもらえなかったのでしょうか?そんなことないですよね。さっきの言葉は空耳・・・ですよね?」
「は、ははは。もももちろんだろ。俺がそ、そんなサボろうなんて思うはずがねぇさ!」
「ですよね、いやー良かったです。またお仕置きをしなくてはならないのかと思いましたよ」
顔が引きつり、声が震えた。少しでも抵抗などしようものなら確実に殺される・・・。
俺は急いで服を着替えて、開店の準備に取り掛かる。
「働きによって人は神から糧を与えられるのです。疎かにするなんて駄目ですよ?」
つまり、金を稼げってことだな。神様は見てるだけで何もくれないがな。
さぁて、今日も最高にクソッタレな一日を過ごそうじゃないか。
―◇―◆―◇―◆―
「もうこんな時間か、そろそろ昼飯にすっか」
そこから数時間、客が減ってきた昼を過ぎた時間、俺はいったん店を閉めて遅めの食事をとるために外に出た。
金にそれほどは余裕はないが、自分で作るのは無理なのでノアの家の店に行く。
中に入ると、俺と同じような野郎どもがたくさんいたので、昼時が過ぎたのに席がほとんど埋まっており、騒がしく食事をしていたのだった。
その中で、ノアとノアのお袋さんが両手や腕に料理を載せて慌しく動いている。
相変わらずスゲー繁盛しているな。
空いてる席を探しているとノアが俺に気づき、声をかけてきた。
「カイト、向こうがあいてます。少し待っててください」
「あいよー」
俺は言われた場所に腰を下ろし、今日は何を頼むかとメニューに目を通す。
少ししてノアがやってきた。
「お待たせしました、今日はどうしますか?」
「んー、んじゃ鶏の香草炙り焼きと麦酒で」
「まったく、昼からお酒ですか?あと野菜も食べないと体を壊しますよ」
「大丈夫だって、そこまで身体は弱くねーよ。それに”香草”って野菜があるだろ?」
「屁理屈を言わない!香草は味付けですよ!まったくもう」
ノアはそういいながらも、注文をおっちゃんに通しに行く。
少しして馬鹿が店に入ってきた。俺はいつも通りに奴を呼んだ。
「おーい、こっちだ。フレン」
「おっ、カイトじゃん。ラッキー!」
俺の向かいにドカッと座り、なにを食べようかと笑うフレンに昨日のことを話す。
「あの後大変だったんだぜ?お前が帰ったからノアの怒りがこっちに向いたし、今朝も家で散々説教だよ」
「ハッ、それは日頃のお前の態度が悪いからじゃねえのか?」
反省する気ゼロか。
「何だお前、死にたかったんならそう言えよ。今からノアに『フレンが俺の駄目なところ指導して欲しいって言ってたぞ』と言ってやる」
「スマンかった、ここは奢ってやるからそれだけは言うな・・・」
そう言うと思ったぜと俺は笑い、また仕事や街の話で盛り上がる。
酒と料理、さらにノアが休憩にきて、俺たちはいつもと変わらない今日を過ごす。
飯が終わったらまた仕事して、夜になったら店を閉めて飯食って寝る。
特別なんていらない。
普通と平穏が一番なんだよ・・・・・・。
―◇―◆―◇―◆―
昼食が終わり、家に帰る道でなんとなく空を見た。
太陽が輝き、雲が流れ、風で髪が揺蕩う。
「こんないい天気だ、屋根に寝転がって昼寝をすればさぞかし気持ちがいいだろうな」
まぁもしそんなことを休息日以外でしたら、どうなるか目に見えているのでできないのだが。
そう自虐的に苦笑し、まぶしい光に目を逸らす。
―――――――ァァァ
空から何かが聞こえてきた。
何事かと上を向けば空から何かが落ちてきている。
視力の悪い俺はそれが何なのか分からなかったが、誰かがとっさに言った言葉に耳を疑った。
「人だ!人が空から落ちてるぞ」
やがて、その音は悲鳴だということに気づく、少女が空から降ってきた。
このままでは、あの少女は潰れたトマトのように悲惨なことになる。長閑な雰囲気が一瞬で恐怖の場に、なんていう最悪の状況だ。
―――関係ない、俺は面倒事にはかかわらない。ほかの誰かが何とかするさ。
しかし誰もがその奇怪な状況に目を見張り動こうとしなかった。否、誰も動けなかった。
―――大丈夫、きっと騎士団が何とかするさ。それか冒険者の誰かが助ける。
自分が何とかするなんて、ありえない。
俺は”今は”ただの道具屋なんだ。
そう思っていた、しかし心の引っ掛かりが体を勝手に動き出させていた。
「クソッタレ!」
特特殊加工された魔石を腰に付けたポーチから取り出し、空から降ってくる少女に向かって一心不乱に走る。
「ッ!、働け精霊!!」
懐から一部ヘコんだ杖を出し、手に持つ小さな魔石ををはめる。おれの命令が精霊を使役し、緑色の光を放って風を生み出す。
その風が、少女の落下速度を和らげる。
しかし、威力を完全に殺すことはできずに落下していることに変わりはない。
やがて杖と魔石が砕け、力を失って再び落下の速度は増していく。
「間に・・・合えッ!!」
寸前のところで少女を掴むが、勢いを逃がせずにそのままゴロゴロと地面を転がった。
目が回り、視界はグチャグチャとガキの落書きのようになる中、胸に抱きしめた少女には怪我させまいと自分の体で必死に守る。道に積み上げられた木箱に派手に突っ込み、やっと止まることが出来た。
体中が痛みで俺を襲う。痛すぎて泣きそうだよ。
体の上に乗っかっていた木の破片や、中に入っていたであろう果実をどけて少女を確認する。
目を閉じてピクリともしなかったのでまさかと思ったが、よく見たら胸が小さく上下している。・・・気絶しているのか。
果実や土、その他いろんなもので俺たちは汚れていた。
顔の汚れだけでもと服で拭ってやる。
よく見るとここらでは見かけない混じり気なしの綺麗な黒い髪に陶器ような白い肌。仕事をしたことがないのか、マメや荒れのない綺麗な指に幼い顔立ちがそこにあった。
おそらく十二やそこらだろう。こんな小さな子供がどうして空から・・・。
だがひとまず危機は去った。体の力が抜け、久しぶりに全力疾走したからか、足が怪我とは違う痛みと熱を帯びている。
周りが騒がしく、俺たちを囲み色々叫んでいる。
ここは情にあふれた街だから、おそらく誰かがここでで下街のリーダーのジジイを呼んでくれているのだろう。
ジジイは下街唯一の医者だからな。
物をどけ、俺に手を貸してくれるおっさんたちはよくやったとバシバシ背中を叩く。
イテェっつうの。
少女はおばちゃんら女性陣が担当ということか、手を貸している。もちろん少女は気絶したままだ。
「「無事か(ですか)、カイト!?」」
やがて、人込みをかき分けてフレンとノアが現れた。
「おう、と言いたいけどちょっと無理。痛くて死ぬ・・・」
マジ辛すぎる、痛み止めくれ。薬代払う金はないけど。
「そんなことを言える余裕があれば問題ねえな」
「ですね」
その言葉を完全に流した奴らは俺の姿を見て笑う。
全く失礼極まりない奴らだな。
お互い軽口を叩きながら少しの言い合い、そのままジジイが来たので俺の怪我を見てもらった。
「馬鹿の傷は大したことない、唾でもつけときゃ直るわい。じゃが嬢ちゃんが心配じゃ、外傷はないが何があるかかわからんし、いったんウチに連れて行って詳しく見なくてはならんな」
「セクハラする気かジジイ」
「・・・そのまま永眠させたろか糞ガキ」
俺の言葉に青筋を立てるジジイ、ジョーダンだよ。
「まぁまぁハンクさん。カイトはただ素直になれないんですよ。女の子が心配で自分も見に行きたいそうです」
「言ってねぇ」
「ふん、まあええわい。ならカイトもついてこい。他は運ぶの手伝うモン以外各々の仕事に戻るんじゃ!」
ジジイの声に従い人垣はやがて減っていき、数人だけでジジイの家に向かった。
午後の仕事は無理だな、合法的にサボれて嬉しい限りだ、ハッハッハッ。
頭の中でそう結論をだし、こんな事件が起きて、ボロボロになっても仕事をサボることを考える俺はある意味逞しいのかもしれない。
2013年10月31日一部修正しました