吸血鬼な後輩
「先輩、ありがとうございます。先輩のおかげで、良い服を貰う事が出来ました」
と彼女、夜里弓葉は僕の貰った服を着てそう言う。
瞳は両方とも赤いが血のような真紅の色、腰まで伸びていた藍色の髪は奥に行くほど銀色に近い色になっていく。スラリとした体格の彼女を覆うのは、黒色の夜公会のような貴族めいた服装。そして頭にはシルクハットを小さくしたような物を髪の上に載せている。
「前のゴスロリドレスも捨てがたいですけど、先輩から貰ったこの服も良い物です。これからはあのゴスロリドレスと、この貰った服を使わせていただきますね」
ニコリ、と歯を見せる弓葉の前歯は牙のように尖っていた。
夜里弓葉。僕の後輩はどうやらあの時の種族設定の時に、吸血鬼を選んだらしい。
吸血鬼と言うと、人の生き血をすする有名な怪物。生と死を超えた者、または生と死の狭間に存在する者、不死者の王とされる。色々な説があるが、魔眼を持っていたり、魔法や魔術に長けていたり、色々な物に化ける事が出来るとされている。
「フフフ……。先輩、吸血鬼となった私はどうですか? 美しいですか? 可愛いですか?」
「それよりも吸血鬼には色々と制約が多いよな」
吸血鬼の制約。
鏡に映らない。十字架や銀に弱い。太陽の光を受けると灰になる。川などの流れる水を越える事が出来ない、などなど……。
吸血鬼の色々な制約、弱点は有名で、僕も一瞬選ぼうとはしたが、どうも弱点が多いから止めて置いた。
「色々と弱点があるから、無事に暮らしていけるのか心配なんだけど」
「むー……。まずは綺麗とか、可愛いとかを聞きたかったんですけど。まぁ、心配してくれたのは素直に嬉しいですが。私は幾つもそう言った吸血鬼の弱点を解消するためのスキルを取得していますので、大丈夫ですよ?」
と、そう言って携帯電話からスキルを見せてくれる夜里。
『吸血鬼;150pt
→魔族の一種。他者の血を吸う事によって能力が上昇します。吸血衝動にはご注意を。
乙女の嗜み;150pt
→自分用の化粧道具や鏡などを出す事が出来ます。
アンチクロス;50pt
→吸血鬼用スキル。十字架も平気になります。
アンチシルバー;50pt
→吸血鬼用スキル。銀も平気になります。
アンチサン;50pt
→吸血鬼用スキル。太陽も平気になります。
アンチウォーター;50pt
→吸血鬼用スキル。流水も平気になります』
見事なまでの、いっそ清々しくなるくらいの吸血鬼の弱点を解除したようなスキル選びだな。いっそ清々しい、とさえ言えるくらいに。
「これで吸血鬼のスキルの弱点のほとんどは解消出来ました。よって、これで先輩の心配する事はどこにもありませんよ? まぁ、流石に吸血に関してはメリットが多いので止めておきましたけど」
メリット?
吸血のメリット、か……。まぁ、眷族を増やせたりと色々とメリットがあったりするのだろう。
「まぁ、後500ptは先輩にもお見せできませんね。そこは私の私情なので」
プライベート、か。まぁ、僕も見せていないし、それはおあいこと言う事なのだろう。
「それよりも先輩は一体今は何をしているんですか?」
と、彼女は宙を浮かびながら僕の手元を見る夜里。宙を浮かぶって……やっぱり異世界に来て変わっているんだなと思った。異世界に来る前は宙を浮かぶ女性なんて、前の世界ではCGでしかないんだし。やっぱり異世界でのスキル選びで皆変わってるんだな……。
今か……。今はちょっと異世界に来てやってみたい事を1つばかりやっている最中である。
「今かい? 今はちょっと……新しい魔物作りかな? もう少ししたら、見せられるから待ってくれると嬉しい」
「魔物作り……。やっぱり先輩は他の先輩方と違ってすごーい事をしていますね! じゃあ、ちゃんと教えてくださいね?」
そう言って、夜里は部屋を出て帰って行った。
「龍斗様は女性におモテになるんですね」
と、夜里が出て行くと壁が動いてそれは人の形となって、最終的にサファイアの姿になった。どうやら壁に張り付いて壁に擬態していたらしい。まぁ、なんとなく……壁にハートマークが浮かび上がっていたから、なんとなくそうかなとは思っていたが、まさか本当にそこに居るとは。
「あいつはそう言うのじゃないよ……。そう言うのじゃ……」
「まぁ、龍斗様がそう言うのならば良いんですけど。龍斗様がそう思って居る内は、彼女に対する龍斗様の気持ちはそうなのですから」
なんか……意味深だな。おい。まぁ、今はやるべき事をやっておこう。
「そう言えば、龍斗様。次は魔物作りと言っていましたよね? 人造魔物、つまりは土人形でも作るんですか?」
ゴーレム、か……。まぁ、それに近い、かな?
「まぁ、見てれば分かるよ」
僕はそう言って、魔物作りを再開するのであった。