初めての捕獲とその使い道
捕獲と言うのは、スキルを使ったその人に隷属したいと思った魔物を捕獲して使い魔にすると言う、まぁ、そう言ったこの世界でいう魔物使いなんかが手に入れているスキルらしい。どうもこの『その人に隷属したい』と言うのが曲者だと僕は思っていた。
例えば僕のレベルを10として、捕獲したい敵のレベルを2としよう。するとその捕獲した魔物は僕のレベルを見て強者だから付いて行こうと思って捕獲される。けれども中には同じレベル2の魔物でも気の強い魔物とかだったら僕に従わないし、逆に僕よりもレベルが20も30も上の魔物であろうとも僕に従いたいと思えば捕獲出来るのだろう。
「要するに、捕獲出来る出来ないは龍斗様のオーラ次第って事ですよね」
「だろう、な」
と、サファイアにそう締めくくられた言葉に僕はそう思った。
捕獲はやはり、体力を減らした方が上手く行くらしい。何故かと言うと、体力を減らせば減らすほど、魔物達も気力を失って「あぁ、この人だったら捕まっても良いかも……」と思うようになるから捕獲しやすくなるのだと言う。
とは言っても、それは僕が魔界城にあった本にあった言葉を全てそのまま引用しているだけに過ぎない。分かりやすくまとめれば、
『○僕のオーラ次第で捕獲難易度が変わる。
○体力が減っている方が捕まえやすい。
○気に入って貰えればOK』
と言う事だ。
まぁ、何はともあれやってみない事にはどのような感じなのか掴めないと思った僕はとりあえず1匹の魔物でデモンストレーションを試みた。
その魔物の名前は、ワイトワーム。
ワイトワームとは、魔王城の北にある、うっそうと茂る大樹林、【悪魔の森】の中で最も低レベルで最も捕獲されやすいとされている魔物である。
姿形はアゲハチョウの幼虫である芋虫を少しばかり大きくしたような感じで、色は真っ赤。基本的に草食性でどんな葉っぱであろうとも食べる性質を持つ。動きは遅いけれども糸を吐いて敵を絡み取って他の魔物達に食べて貰って、自身を守って貰おうとする陰湿な三流雑魚的な一面を持つ魔物、と本には書かれていた。
僕は虫は大丈夫だし、初めはこれくらいが良いかなと思って見た訳だ。もしこれが思いのほか上手く行ったら犬の頭も持つ小人、コボルトや繁殖性に優れた醜悪な戦闘狂の小人、ゴブリンなんかも捕獲していこうとは思っている。まぁ、勿論、可愛い魔物娘も居れば捕獲はしたいとは思っている。男の夢、だしね。けれどもまずは一歩一歩着実に冷静にやっていこう。
「……居ましたよ。龍斗様。あれがワイトワームです」
「そうか、あれか」
サファイアが指差す方向に……居た。
大きさとしては地球の子犬くらいある、ちょっと大きめの赤い芋虫。……なんかグロイな。大きさからしたらチワワなんかと大きさは変わらないと言うのにどうしてここまでグロイと思ってしまうのだろうか。
……いや、そんな事を思ってはいけない。あれはほら、ポ○モンのキャ○ピーみたいなものと思おう。そう見れば行ける! ちなみに僕は虫タイプならばドラ○オンが強いと思っている……いや、これは言いすぎか。
「よし、まずは捕獲しやすくするために……サファイア、攻撃してくれ」
「……? あのくらいの魔物ならば、普通に龍斗様の捕獲で仲間になってくれると思いますが?」
「お前の戦いも見たいしな。色々と後の事も考えて、だ」
「分かりました。どうぞご覧ください」
そう言って、サファイアは頭をぺこりと下げたかと思うとワイトワームの前に飛び出す。驚くワイトワーム。しかし、やはりそこは魔物。すぐさま糸を吐いて攻撃に移る。
「――――――――変装偽装、灼熱の腕」
途端、サファイアの姿がずれた。視界が可笑しくなったかと疑いたくなった。いきなりサファイアの姿がぼんやりとしたのだ。
(もしかしてあれが……サファイアの……いや、ドッペルゲンガーの能力なのか?)
驚きはそこで終わらない。
認識がずれたサファイアと世界が再びピントを合わせたら、そこには赤い燃えたぎるような炎の腕を持ったサファイアが立っていたからだ。
……なんだ、あれは?
「ちょっと痛いですよ?」
そう言って、サファイアはワイトワームが放った糸を文字どおりの意味で燃やして、そのままワイトワームをその燃えたぎる腕で殴り飛ばす。ワイトワームは炎を纏いながら転がり、転がった先で気絶していた。そこを僕が出て来て、お目当ての事を行う。
「――――――捕獲」
するとワイトワームの頭の上に白いリングが現れて、そのリングが青くなったかと思うとクイズ番組とかで良く耳にする正解音が頭の中で鳴り響いた。
『メールだよ! メールだよ!』
「ん……?」
いきなり服の中からそんな着信音が鳴り響き、慌てて服を探るとそこにはスキルなどを決める際に用いた携帯電話が出て来た。そう言えばこれって返してなかったな……。
その携帯電話の電波本数が3本なのと、バッテリーゲージが何故か満タンなのに僕は突っ込まないぞ。これは触れてはいけない所だ。異世界だから、そう片付けて置こう。
「とりあえずメールを見るか……」
メールの着信音が先程聞こえたので、メールの欄を見て見る。するとそこには新着メールが1件届いていた。
『《ワイトワーム(♀)の捕獲に成功しました》』
「いや、こういう風に捕獲ってされるの?」
捕獲されたら捕獲出来たよと言うメッセージが流れるなんて……。本当に異世界じゃなくてゲームかと思って来るじゃないか。
「それにしても……サファイア、凄い強いな」
「えへへ////// ちょっと知っている火炎系の魔物の腕を局所コピーさせていただきました」
局所コピー、つまり彼女は知っている魔物の部位に変身する事が可能と言う事か。これは戦闘方法が広がる。
例えば足の速い魔物の足をコピーさせて、力の強い魔物の腕をコピー。そして最高の魔法力を持つ魔物の部位をコピーすれば……いや、最強じゃね? ドッペルゲンガー最強説、只今参上いたしました。いや、これは5ptにしては良い買い物をしたんじゃないんだろうか、僕?
「……とは言っても、1回に付き10分が限界ですし、コピー出来る魔物も最大2体までですけど」
……Ok、僕は分かっていたさ。そう簡単な話で終わらないって事にはさ。まぁ、最初から強いと言うのも男らしくて良いとは思うが、自分の手で軍勢を強くしていくと言うのにもワクワクする。これからが楽しみだ。
そして今日、捕まえたワイトワームはと言うと。
「な、なんですか。これは……♡」
「ワイトワームの糸で作ったエプロンドレスです。なんか給仕さん達のエプロンが汚れていたので、新しく作ってみました」
なんとあのワイトワームが吐く糸、確かな頑丈性と柔らかさを持っており、服の素材として利用できたのだ。それで元居た世界で言う所の蚕の糸みたいなものとして、ものは試しにとエプロンを作ってみました。この魔王城に居る給仕さん達、誰もがぼろぼろのエプロンを着ていてどうも作業効率が落ちているみたいだったから。
新しい服ならば新鮮な気持ちで作業効率も上がるのではないかと思って、作ってみたのである。
「わー! 凄い可愛い! これならきっと皆、喜んでこれからの給仕の作業に望んでくれるかと思います!」
「それは何よりです。良ければ他の人達の分も作りましょうか?」
「良いんですか? 皆、喜びますよ。じゃあ、龍斗魔王様、よろしくお願いします」
そう言って彼女は嬉しそうに作業に向かって行った。いやー、喜んでもらえて何よりである。
……ちなみに先程まで話していた給仕さんを何故メイドさんと言わないかと言うとそれは男の意地である。だってさ、どう見ても人間要素0の3m近い巨体の二足歩行ブラックドラゴンさんをメイドさんと呼べますか?