弓葉の想い
「……まさか龍斗先輩のために、神と戦いたいと思っていたのに、その龍斗先輩に止められるとは思っても見ませんでした」
夜里弓葉の神との対決をするための儀式を止めた後、リンとヒルデガルドさんの2人に儀式を出来ないようにして貰って、サファイアは僕と一緒にこれ以上弓葉が余計な事をしないために見張っていた。この対応に関しては弓葉も何もする気がないみたいである。
「でも、先輩。これはあなたのために……」
「はいはい。そう言うのは本当に良いから、さ」
別に僕自体は魔王になれなくて良かったと思っている。そもそも僕には向かないと思っていたし、他に適任者で、希望者がいるのならばそいつにやったというのが良いに決まっている。東堂健二ならばあいつは向いていない面も多いが、番勝田ならば許容範囲である。僕が彼よりも魔王に向いているとは思っていない。
「……僕は気にしてないから良いんだよ。魔王は本当に向いてないって思ってるんだから」
「私としては……先輩よりも良いと思う人は居ないんですが」
「からかってるのか?」
「いえ、本気で」
本気でと言われても、対応に困るだけだから止めて欲しい物である。
「……あの時」
「ん?」
と、弓葉がそう小さな声で言い始める。
「……魔王に転生すると神様に言われた時、私は怖かったですが、その時に視界の隅に龍斗先輩が居まして。そして堂々としている姿を見て……それに転生する前でも先輩に私は憧れを」
「憧れるのは結構だが、それは断じて僕に希望を託すのとは違うからな」
彼女の今の姿は、宗教に没頭する熱烈な信者と相違ない。
思考を、考える事を放棄して自分が信仰するものが一番輝けると信じている。他の素晴らしい事に関して、なにも目が行っていない。考える範囲が狭くなってしまっている。
「折角、異世界に来たんだ。楽しもうぜ」
「……先輩は最初からそうでしたものね」
「最初からそうでした」、って言われても「そうでした」としか言いようがないんだけれども。最初から魔物を集めたり、書物を読んだりしたりしている。もう元の世界に帰れないと言われたような物だから、それだったらこの世界で楽しめるだけ楽しめばそれで良い。
「先輩みたいに割り切ると簡単なのですが……。それでもどうしても、私は先輩を魔王に、私の王様にしたいんです」
「なりたくない奴に無理矢理言ったって、やらないに決まっているんですけれども。むしろそんなに魔王、魔王と言いまくっている弓葉が魔王になれば解決なんじゃないか?」
「えっ?」
予想外の反応を見せる弓葉であるが、この案は意外とありなんじゃないか? 別に番勝田だけに任せる必要はない訳だし……。そんなに魔王になりたかったのならば、彼女が魔王になればそれで解決である。
「いえ、それはちょっと違いますけど……」
本人はちょっぴり残念そうにそう言う。
良い話題のすり替……いや、良いアイデアだと思ったのだが。