《吸血鬼の神式》
リンに探し当てて貰った夜里弓葉が居ると思われるその場所は、シナピアの森の中でも木々や草花などが一切ない不毛の大地であった。
広さも広く、木々も邪魔になりそうにないし、もし《吸血鬼の神式》を行うのだとしたらここが一番相応しいと言えるような場所だった。そして思った通り、
「……居た」
「……居ましたね」
「……居ましたわ」
「……居たなの」
予想通り、夜里弓葉の姿があった。弓葉は目の前に置いた紫色の鏡に一生懸命お祈りを始めている。そして頭上に真っ黒の大きな球を作り出していた。その球は物凄い質量エネルギーを纏っており、それだけで彼女の実力が如何様なのかが分かるだろう。その光景はどこか幻想的な雰囲気が漂っていて、どこか印象的な光景であった。
……どうやら前魔王のリーファとの戦いの時は実力を隔していたと言う事になるな。まぁ、最初から全力だったとは思っていないけれども。
「あの黒い球はなんだ。……辺りのエネルギーを吸い寄せているようだが」
「意図的に魔力のみを集めているようですね」
と、弓葉の真っ黒の大きな球についてそう評価する。実際、弓葉が作り出しているあの真っ黒い大きな球には、何かのエネルギーがあの黒い球へと集まっているのが感じられる。と言うか、全体的にこの辺りは息苦しさは感じている。それが魔力があの黒い球に集められていると言う事なのだろう。
「これで……」
そう言って、弓葉はその真っ黒の大きい球を急速にエネルギーを小さな球へと収束させていく。そしてその小さな球を、紫色の鏡へと――――
「……って、拙い! 止めるぞ!」
「「「はい!」」」
あまりに幻想的な光景で止めるのが遅れてしまった。僕達は慌てて止めようと、隠れていた場所から出て止めようと走る。
「えっ!? せ、先輩!?」
と、僕達が現れた事にびっくりしたのか、夜里弓葉がびっくりしたような声を出して、そしてそれによって制御を失ってしまった事による反動なのかどうか知らない。
夜里弓葉が放っていた黒い球が形を徐々に丸から姿が変わって行く。針のようになったり、なだらかになったり、何かの動物の形になったりと形が変化していき、そして徐々に光が漏れ始めて、
「ま、拙いです! 皆さん、伏せてください!」
と、弓葉のその鬼気迫るその言葉に、僕達は何も疑わずにしゃがみこむ。すると、小さくなっていたその球は光を放ちながら、鏡をぶち壊す勢いで破裂する。
ドッカーン!
大きな破裂音と、強い光。そして吹き飛ばされるかと思うほどの強烈な爆風。それが数秒ほど続いていたかと思うと、僕達はようやく爆発から立てるようになった。
……先程の爆発で、見るも無残に壊れた鏡。これはどう見ても、
「……失敗ですね」
と、弓葉が肩を落としてそう言うのであった。