【破片;その3】強制的のある記憶
小説を執筆しようとしたその日に台風でネットが繋がらなくなる。
……私の家では良くある事です。
【私には夢があった】
それはいつもの、あの感覚だった。
自分の身体の中から感じられる、その不思議な、見た事のない記憶。
《どうやら意識ははっきりしているようですね》
と、僕にそう言って話しかけて来たのは、あの泉の上に現れていた全てが黒一色であると同時にどこか影の感じる魅力的な、黒い6枚の羽の精霊であった。そう、あの闇精霊の上級精霊、シェイドなのであった。
『ここは……?』
きょろきょろと首を回して辺りを確認しようとするが、首が動かずに辺りが見渡せない。だから見渡せないから見える範囲で情報を得ようとするのだけれども、とにかく色素が薄いと言う事くらいしか分からない。現実のようで現実ではない、薄い色素のような、そんな場所であった。
『ここはなんなんだ?』
《……ここはあなたの持つスキル、【過去からの継承】を使って生み出した空間ですよ》
『【過去からの継承】……』
そう言えば、僕はスキル選択の際に【過去からの継承】と言うスキルを選んで持っていた。そしてこれに良く似た、純白色の、まるで夢のような空間は何度か見た事がある。
『でも、どうして今回は意識がはっきりしているんだろうか?』
《それは私、シェイドの力によってスキルをアクティブにしたからですよ》
『アクティブ?』
《闇の上級精霊ともなると相手のスキルのアクティブにしたり、パッシブにする事が出来るんですよ。いつもは強制的にアクティブになっているから記憶が微妙みたいですが、今回は私によってアクティブににしたから記憶があるんですよ。――――ここは弓葉さんの記憶の中ですよ》
『弓葉の……?』
と僕はそう言いながら、歩いているその少女を見る。その少女は確かに、夜里弓葉の姿であった。
【それは尊敬している龍斗先輩をどうにかして魔王にする事だった。彼自身は別に魔王になりたいみたいな感情は無いみたいですけれども、私にはどうしても彼を魔王にしたいと言う気持ちがありました。
魔王には番勝田さんがなりましたけれども、私には納得が出来ませんでした。でも龍斗先輩は魔王を奪って成るような行動は推奨されないでしょう。でしたら他に方法をもたらした方が良いでしょう。
私が望んでいるのは、魔王・石動龍斗先輩を主軸とした、番勝田と同程度以上の帝国です。そのために私は龍斗先輩が支配する場所を作り上げて見せます】
僕の目の前で、弓葉のそんな声と共に弓葉が何かをしている。
《愛されていますね、人の子》
『弓葉がそこまで……』
僕が魔王に相応しいから、魔王にするために新しい帝国を作る? 言っている事が滅茶苦茶だ。
……滅茶苦茶ではあるが、これで夜里弓葉がシナピアに来た理由がなんとなくではあるが分かっていた。
『弓葉はシナピアで神と戦って、僕に相応しい領土を作ろうとしているのか?』
僕がそう言うと、シェイドはコクリと頷く。
《私が弓葉から呼ばれたのはそう言った理由なのだけれども。
まぁ、ともかくこれで分かったでしょ? 止めるのならば止めて、行くなら行って。
――――私はこれをあなたに知って欲しかった。人の子よ、あなたは彼女の想いを知って欲しかった。
知って止めるかどうか考えてください》