黒い泉と上級精霊
僕達はその後、闇精霊達が教えてくださった、外の闇精霊達が居ると思われる泉へと向かって行った。
「なんか進めば進むほど、辺りが暗くなっているな……」
「ここに住む魔物達、全員真っ黒で、こちらを見ているだけで襲っては来ませんね」
僕が暗さにちょっとビビりつつ、炎を持ったサファイアへと近付く。ここいらのシナピアに住む魔物は闇に生きる闇精霊がこのむような闇を求めている魔物達である。炎などの灯りを持っておけば、好き好んで襲ってはこないみたいだ。
先程まではそうとは知らず、襲い掛かってくる魔物達に苦戦を強いられていた。まさか炎1つで襲わなくなると言う簡単な方法があるとは……。
「真っ暗……と言うよりかは闇の精霊が増えているようですね。物と闇精霊が同化して居るみたいですね。
――――闇の精霊によって影が濃くなりすぎていて、黒が強くなっているようです。もうこの辺りだと、闇の精霊は闇そのものみたいになっているようですね」
ヒルデガルドが解説をしてくれながら、僕達はシナピアを進みながら、どんどんと黒くなる道を進んでいた。そして進んでいた先に泉を発見していた。
透き通るような水……ではなく、見ているだけで心が曇って行きそうなくらいどす黒い黒の泉。近くに立札が立っており、《黄泉の泉》と言う文字と共に、上の方に《ヨミノイズミ》と言う振り仮名が振られていた。そんな泉の水面の上で、黒い精霊達が笑って浮かんでいた。
《ここ、サイコー!》
《生き生きするね!》
《いっちゃうよ! 私達、最高だよ!》
「闇精霊にしては、あり得ないほどにテンション高いなの……」
「きっとあいつらが、外から来たと言う闇精霊達だろうな……」
僕達がそうやって話し合っている最中も、泉の上で踊る闇精霊達は能天気な言葉を言い続ける。
《良い場所! 良い所、一度はおいで!》
《あの吸血鬼も良かったけど、ここも良いね!》
《良いじゃん! あいつは道案内役で!》
《そうそう! ここまで連れて来てくれた彼女に感謝!》
「吸血鬼の少女……」
「恐らく、弓葉さんの事かと」
「それしかないなの!」
「じゃあ、あの精霊達が夜里弓葉さんと共に来たと言う……」
僕達が夜里弓葉の事について喋り合っていると、急に泉の真ん中からずるずると1人の少女が現れる。
闇の中から抜け出るように、泉の中から現れたその少女は酷く幻想的な雰囲気を漂わせる少女だった。
黒真珠のように綺麗な瞳も、吸い込まれそうな艶のある身長よりも長い黒髪も、どこか日焼けしたかのような黒目の肌もまた、全てが黒一色であると同時にどこか影の感じる魅力的な美少女。フリルの付いた漆黒のゴスロリドレスを着た、闇と同じ色の6枚の羽を持った、泉から現れた黒い羽の精霊は、焦点の定まっていない瞳でこちらを見つめていた。
《……主ら、もしや弓葉の知り合いかの?》
その声にはどこか陰りが感じられ、そしてその言葉には一切の感情が感じ取れなかった。
《我が名は闇精霊の上級精霊。真名は明かせぬゆえ、シェイドと呼んでくれるかの》
その後、シェイドと名乗る闇の上級精霊に吸血鬼の超・真祖である夜里弓葉について尋ねた所、彼女は《あぁ、あのヒトね》と分かりきっているかのように答えていた。
《ヒトは本当にバカな生き物さ。自分で生きる力を保てないばかりか、同じ生き物同士で殺し合う、本当にバカな奴ら。
人間も、獣人も、魚人も、エルフも、ゴーストも、魔人も、吸血鬼も、精霊である私からすれば本当に無駄な事をする奴らだの。そしてあの夜里弓葉と名乗ったヒトはその中でも大馬鹿者であるに違いない。こんな所に来て、あれをするなんてね……》
「"あれ"と言う事は、あなた様はそれが何かご存じなのでしょうか?」
ヒルデガルドの質問にコクリと頷くシェイド。
「じゃあ、何か教えて欲しいなの」
《吸血鬼の真祖、もしくはそれと同等の者のみが許されし儀式、『吸血の神式』じゃ。要するに、神と会ってその者と願いをかけて挑むと言う儀式じゃが、滅多に行う者もおらんの》
「神式……。あれですか……」
「あれに手を出すとはね……」
と、ヒルデガルドとサファイアの2人は『神式』の言葉を聞くと共に、顔を伏せていた。
「神式って、いったい何をするなの?」
「リンちゃん……龍斗さんも知らないから教えて置きますと、神式とは神を無理矢理降ろす儀式の事です」
サファイアが言うには、神式とは普段は神の世界にて見守っている神々の誰かを自らが持っている力によってこの世界に降ろす儀式であり、降ろされた神を言いくるめる事が出来たり、また神よりも優れている事が出来た場合、どんな願いであろうとも叶ってしまうと言う、まさに夢のような儀式。
「ただ、神を正式に降ろす場合はその際に神がフォーマット……所謂、現世の人間レベルにまで力を落とす訳ね。勿論、それでも普通に強いんだけれども。
神式は無理矢理穴を開けて落とすような物だから、勿論神レベルの強さのまま。
これを行う者はよっぽどの戦闘に飢えた者、もしくは神を無理矢理呼んででも叶えたい願いがあるかのどちらかですよ」
神を無理矢理呼んででも、弓葉が叶えたい願い、か。
《超・真祖だから良い線行くと思うけれども、相手次第じゃ。
『神式』はどんな神が降りて来るか分からない。運良く穏やかな神に当たった場合は良いが、戦闘を好む戦神にでも当たった日には……死ぬじゃろうな。不死だろうが、何だろうが》
「じゃあ、助けないと!」
僕がそう言うと、シェイドは僕の顔をじーっと睨み付けていた。それも顔の毛穴すら見えそうなくらい近くに。
「……何?」
《お主があの……。なるほど、そう言う事かの。
丁度良い。お前のスキル、借りるぞ》
「えっ……?」
《強制始動》
シェイドがそう言って、僕の手を取ったまま言葉を唱えると、いきなり僕の意識は遠のいた。