シナピアと吸血鬼の行き先
《吸血鬼の少女ー?》
《あぁ、それだったら黒い森に行ってるかもー?》
《行ってたよねー。黒かったねー》
《いっぱい、闇のを連れてたよねー》
風の精霊達はそう言葉を返していた。今、僕達は夜里弓葉の行方を探すために、噂好きの風の精霊達に魔力にて情報提供をお願いしたのだ。風の精霊達は好奇心旺盛で、それに人懐っこい。まぁ、精霊によって性格は少しずつ違って来たりするのだけれども。
魔女であるヒルデガルドさんの魔法によって、風の精霊から夜里弓葉の情報を得たのである。まぁ、その対価によって魔力をある程度差し出したのだけれども。
「黒い森、か。多分、シナピアだろうな」
「シナピア、ってあの死の森なの?」
リンが僕の言葉に対して反応を返して来た。僕は肯いていた。
シナピア。通称、死の森。
闇や影などの暗い場所などを好む闇の妖精達。その妖精達が住まう森。それがシナピアと言う場所である。闇精霊の力によって黒くなってしまった木々が生い茂る黒い森。それがシナピアと言う場所らしい。
そんな場所に、弓葉は何しに向かったのだろうか?
「闇の精霊を連れているのも何か関係あるのだろうか?」
まぁ、まずは会って見ない事には分からないのだけれども。
「と言うか、シナピア……か」
シナピアは死の森と言う別名が付けられているが、それとは逆に生の森と名付けられている場所が存在する。その場所こそが、ドリアードが【廃棄魔王】が居ると言っていたマナピアなのである。
【廃棄魔王】の現れた生の森、マナピア。
吸血鬼、夜里弓葉が向かっている死の森、シナピア。
偶然なのだろうか?
(……いや、恐らくは偶然だろう)
じゃあ、弓葉がシナピアに向かった理由は一体何?
「とりあえず行ってみない事には分からないなの」
「そうですね。それが本当に弓葉さんかどうかは分かりませんし」
そうかもしれない。あくまでも風精霊が言っていたのは、『闇精霊を連れた吸血鬼の少女』と言うだけ。吸血鬼族ならばこの世界にいくらでも居るだろうし、それが弓葉であると言う確証はない。けれども情報がこれだけしかない以上、そこに行って本人かどうか確かめておくくらいしか今出来る事はない。
「よし、シナピアに出発だ」
僕の言葉に仲間達も付いて来る。
☆
シナピア。
そこは黒い森。闇精霊が好む闇や影などの暗い場所が多い場所。
太陽がさんさんと照りつけるような昼間であろうとも、どんよりとした薄暗さが漂うこの場所で、1人の吸血鬼少女を見つけるのは骨が折れそうだった。なので、ヒルデガルドさんに今度は闇精霊達に話を聞いてもらおうとしたのだが。
《……吸血鬼?》
《何それ、ボク達に関係ある?》
《そんなの探している暇あったら、のんびりしたい》
《つーか、動きたくない》
とまぁ、このような感じで非協力的なのだ。どうやら闇精霊は人探しには向かないらしい。
「参ったな……これじゃあ手掛かりにはならないぞ」
せめてもう少し話が通じたら何とかなったのかもしれないが、これほど自由気ままだと話が全然通じない。
「そうなの。打つ手無しなの」
「精霊に聞く魔法じゃ、頼みの綱の精霊があれだからこれが限界よ」
「どこに居るんでしょうね、弓葉さん」
4人で諦めかけていたその時。
《弓葉なら知っている奴が居るよね》
《あぁ、あの外の》
《そうそう、外から来たの》
と、精霊達が弓葉の名前に反応して話し始めた。
「外の……? もしかして弓葉が連れていたという闇精霊か?」
《そうそう。あいつら、自分達と同じ闇精霊だけど》
《別の場所から来た余所者でしょ?》
《だから注意してたんだよね》
《ボク達の楽園が壊されるかもーって》
よし。ようやく手掛かりらしい手掛かりが手に入った。
そして闇精霊達から、外の闇精霊達が良く居るという泉への道を教えて貰った。
……その弓葉と共にやって来た精霊達が弓葉の居場所を吐いてくれるか、もしくは別の吸血鬼の少女だと言ってくれると助かるのだが。