紛い物と真実
『―――ピピピ。またシテも回路にて異常ガ発生しマシたネ』
火の球によって【サイクロプス協会】の外へと吹き飛ばされた私、フォースは、またしても言語機能に対して障害が出ている事に違和感を感じていた。それを直すために、ポンポンと頭を叩く。
「あー……あー……。直りましたが、他の3体の自律人形の機能は全て失われてしまったようですね」
と、脳内スキャンして3体の自律人形―――ファースト、セカンド、サードの機能のほとんどが失われている事に気付いた。どうも先程の炎の球が予想以上の力だったらしく、3体ともの機能を焼くほどの威力だったみたい。今、かろうじて残っているのは3体が一番大切にしていた、作成者のヒトメが作った部品の一部だけ。でもそれだけでも私は心地良い想いを感じていた。
元々、フォースと言う名前は一番、二番、三番のような形で名付けられた訳ではない。フォース、その名前も自身の手で仮に付けた名前であり、正式名称ではない。本来の名前は――――――
「……偽物、フォールス。それがあなたの本当の名前ね」
ピクリ、とその声で後ろを振り返ると、そこには紫色の髪をなびかせた魔女が被るような三角帽子を被った魅惑的な女性が立っていた。確か……あいつも『魔王』の近くに居た奴だ。
「ファーストからサードの3体は確かに番号順の名前を付けて、そして設計だけを行ったとされるあなたもその次の番号、フォースが名前であると龍人さんには説明したんでしょうね。でも本当は違う。
あなたを作った方は紛い物、"フォールス"と言う名前をあなたに与えた。そして作成のためのお手本として用意されたファーストの記憶を読み取ったあなたは、"フォース"と名前を変えて、【サイクロプス協会】で敵、そう魔王を待っていた」
「汚れた魔王の部下の分際で……そこまで私を愚弄する気ですか」
そう言って、あの方―――私を作ったあの金儲けと自身の贋作作家としての腕を見せ付ける事しか考えなかったあのふざけた男とは違う、私に崇高なる精神を遺してくれたヒトメ様が作った剣を、その魔王の部下へと向ける。
「贋作と言う名前は私がヒトメ様の意思を理解したその瞬間、自ら捨てました。今の私は、ヒトメ様の成そうとした魔王退治を行うためだけに存在する自律人形、四番。例えこの鋼の身体が滅びようとも、例え全てのデータが無に帰そうとも、たった一発だろうと魔王退治を望む者なり!」
「―――あくまでも魔王退治こそがヒトメの意思、とそう言いたいようですね」
「そうです! ヒトメ様が魔王を退治しようと【サイクロプス協会】を作ったのは事実です。そして私達、自立人形は魔王を倒す武器として、それと同時に魔王を倒すための武器を作るためのサポートとして作られたのも……」
「―――前者は正しいけれども、後者は違うわよ」
私が高らかに宣言しようとしていると、そいつはそう言った。
「確かにヒトメは魔王を倒すための武器を作るため、【サイクロプス協会】を始めた。それは正しい。けれども――――――あなた達、いえヒトメが作った3体の自律人形はそうではないわ」
「何を根拠にそんな事を――――――!」
私の敬愛するヒトメ様を侮辱された怒りで、私は地面を蹴って相手を倒そうと跳び上がる。そのまま剣を振るうが、その刃は魔王によって阻まれる。
「――――――あなたのような紛い物でもヒトメの意思を理解して魔王を退治しようとしているのに、どうして本物であるファースト、セカンド、サードの3体の自律人形は魔王を退治しようと動かなかったのかしらね?」
ピクリ。私の腕が止まる。
「『魔王を退治する事こそが作成者であるヒトメの望みである』。それならばどうして魔王を退治するため動かなかったのかしら?」
止めろと、私の頭の中の何かが音を上げる。
「答えは簡単よ。
――――――魔王退治は、ヒトメが自律人形に託した本当の望みではないから」
「な……」
「ヒトメの本当の望みは――――――世界を滅ぼす魔王となる事だったのだから」
「――――――――――――出鱈目を言うな!」
私はそう大きな声で叫び、地面に剣を強く突き刺した。
「そんな訳があるはずがない! 魔王を退治する事こそが、世界に自分と言う存在を認める事こそがヒトメ様の―――」
「世界に自分を認めさせるのならば、『勇者』ではなく、『魔王』としての道もあり得るのじゃないかしら?」
その可能性の話について、私は否定する事が出来なかった。そして頭の中に記憶が思い出されていく。いや、そうではない。記憶が思い出されているのではなく、ファーストからサードに入っていたヒトメ様の記憶の断片が私の頭のディスクに入り込んでくる。
――――――ファーストを創ろうとしていた時、ヒトメ様は『勇者』に対して諦めていた。と言うよりかは、見切りを付けていた。『勇者』になるのはもう無理だと考えていた。よって、別の方法で世界に名を残そうとした。それが……
「ヒトメと言う個人を『魔王』にすると言う計画が立てられたと言う事だよ」
頭の中に、目の前の女性が言っている事を裏付ける記憶が流れ込んでいる。
「つまりあなた方は、『勇者』の手助けをする『仲間』ではなく、『魔王』の『配下』として作成された。だから――――――私は、龍斗さんとぶつかるかもしれないフォースを倒そうと考えたのですよ。ついでにファーストからサードまで」
彼女はそう答えた。つまり、私がこの真実に辿り着いてあの『魔王』を倒すかも考える際に、邪魔になってくるから今のうちに倒そうと考えているのだと。
「――――――なら、本当の使命を理解した私が! 今からする事はヒトメ様のために、あの『魔王』を倒して、ヒトメ様の名を借りて魔王となりて……」
「それだから、倒そうとしたんですよ」
そう言って、彼女は私の機能を停シサセ……。
☆
私、ヒルデガルドは倒れた自律人形のをじっと見て、はぁーと溜め息を吐いた。
「ファーストからサードまでの3体の自律人形が、折角ヒトメが魔王になれないと理解して睡眠に入ったのに、どうしてこのフォースは魔王になろうと言うヒトメの意思を継ごうとしたのかしら? 本物と偽物の違いはこう言う所でも出て来るのかな?
まぁ、良かったですよ。ファーストからサードに悪魔が宿っていて、その悪魔が神の1人、悪魔の神によって入れられた物でしたからそれを倒せて良かったですよ。
――――――さて、そろそろ皆さんの元へ向かいましょうかね」
私はそう言って、夕張さんの元へと向かう。
「――――――そう言えば、夜里弓葉。
あの女もこのフォースと同じく、始末しませんと」