誕生と命名
そしてワイトワームの殻を破って現れたのは、新たな姿へと変貌を遂げたワイトワームであった。いや、これはワイトワームとは言えないのかもしれないけれども。
その人物は美しい羽を持った金色の髪の美少女だった。毒々しさを感じつつもそれと同時に美しさを感じる美しい2枚の羽を背中に持ち、褐色肌が目立つ僕より頭2つ分くらい低い低身長と頭の上に目立つ王冠。着ている服は赤い炎をイメージしたようなデザインが施されている編み込まれた服であり、そしてその少女はじーっとこちらを見ていた。
「ワイト……ワーム?」
と、殻から出て来た美少女にそう聞くと、彼女はニコッと笑顔を見せる。そしてそのまま足を蹴って跳びあがってこちらへと―――――――
「―――――――その名前はダメなのー!」
そう言いながら、僕に向かって飛び膝蹴りをして来た。「ぐはぁ!」とそのまま倒れる僕。そして飛び膝蹴りしたその美少女は背中をポカポカと叩いて来る。
「ワイトワームは種族名を付けただけでしょーなの! ちゃーんと進化したんだから新しい名前を要求するなの!」
「うわー!」と若干涙声になりつつあるその美少女を止めるのに苦労する僕達であった。
そして―――――――
「と言う訳で、新しい名前は『リン』に決定致しましたなのー! はい、皆さん拍手してなのー!」
『うんうん!』
「皆、ありがとうなのー!」と言いつつ、アイドルが如く笑顔で手を振るワイトワーム……いや、リン。とりあえず名前の由来が蝶の羽についている鱗粉から付けたと言う事は言わない方が良いだろう。何か、凛とした雰囲気から付けたと思われているみたいだし。本人としては鱗粉よりかは、そっちの方が気に入っているみたいである。
「と言うよりも、流石にオーバースペックすぎますよ」
「ヒルデガルドさんもそう思います?」
と、ヒルデガルドさんとサファイアはそうリンのスペックを見てそう言っていた。ちなみにステータス表示から見る事が出来たのだが、
『名前;リン
種族;不死蝶
不死蝶→本来苦手なはずの火炎を自由自在に操る蝶型モンスターの上級種。その羽に付いている鱗粉は毒だけではなく、触れた場所から燃え上がる鱗粉となっている』
炎を操る蝶って……。と言うか、不死蝶って完全に狙ってやっているとしか思えないんだけれども。まぁ、リンが貴重な戦力の1人になってくれたのは嬉しい限りである。リンには【剣術スキル,Lv.3】、【突撃スキルLv.4】など色々と殻を破るためにスキルを渡しているし、それも有効活用すれば良いし。
―――――さて、それじゃあ後は『太陽の勇者』になろうとした勇者の従僕と名乗っていたフォースを倒せば解決である。
僕達はリンの誕生を祝福し、勇者退治に関して気持ちを改めて高めるのであった。
☆
そんな石動龍斗一行が気持ちを新たにしていた頃、【サイクロプス協会】では2人の人間がガクガクと震えながらお互いの肩を抱き寄せあっていた。
1人は金色の髪と鍛え上げられた肉体美が特徴の格闘家、【月の勇者】であるヒカゲ。もう1人は白銀の髪と睨むような目つきが特徴の狼の獣人、【月の勇者】であるガロウ。2人はこの世界【イナスフィア】ではない別の世界からこの世界に勇者として召喚された、選ばれしものたちであった。そう2人はつい先ほどまでそう思っていた。
しかし、今はそれがただの罰ゲームにしか思えなかった。
「ヒカゲ。無駄に硬い肉体とリミッターが外れたとしか思えない能力、【金剛馬力】を持った勇者。そしてガロウ。狼の獣人にして、金属を操る【金属専攻】を持った勇者、で間違いなかったですよね?」
自分達の事を淡々と話すその化け物に2人の意思は完全に無くなっていた。ヒカゲの自慢の肉体には全身鳥肌が立ち、ガロウの相手を威嚇する睨むような目つきには今はもうただの弱弱しさしか感じない。
「あぁ、良かった。情報通り。もうすぐ魔王達がここへ再び舞い戻ってくるこの時に、私の敬愛するヒトミ様の作られた武器を持たない勇者がやって来るだなんて! なんて幸運なんでしょう!」
アハハと笑うそいつは、ギィギィと鳴る不気味な音を立てながらゆっくりとヒカゲとガロウに近付く。
「あなた達の力、ヒトミ様のため役立ててくださいね。まぁ、その頃にはあなた達は死んでますが」
「「ば、化け物……。まg……」」
声を揃えて最期の言葉を紡ごうとした彼らだったが、時既に遅し。彼らの肉片はその前に立つそいつの手によって、一瞬にして無残な肉片へと変わった。そしてそいつ、フォースは手に付いた血をペロリと舐めながら、妖しげに笑う。
「化け物? ヒトミ様の傑作、自律人形の絡繰りであるこのフォースに対して、化け物は無いでしょうよ。まぁ、最もあなた達のそんな言葉はもう気にしません。存分に死後の世界で罵れば良いでしょう。ただ、あなた達の肉片とその肉片に宿った力は使わせていただきますがね。
さぁ、魔王よ。時は来たれり。今こそヒトミ様の悲願であった魔王退治、果たさせていただきましょう」
彼女は不気味に笑いながら、魔王の到来を待ちわびているのであった。