羽化と魔手(後篇)
僕の目の前には今、サファイアと夕張さんが倒した魔物の死体から攻撃に関係するスキルを手に入れていた。これはスキル、【過去の継承】によって手に入れているのである。そしてそのスキルを自分に手に入れているのである。
まぁ、どうしてこんな作業をしているかと思うだろう。
これもワイトワームを救うために必要な作業なのである。
今、ワイトワームはサナギの状態になっているけれども、そのサナギの殻が硬くて破れないから困っている。そして殻を破るには、そのワイトワームに殻を破るほどの力を与えないといけない。その力を与える手段が、今の所は僕の【救いの雨】でないとダメみたいなのだ。
【救いの雨】、それは僕が持っている物を他人に分け与える力。それは生命力やスキルなどであり、今はそのワイトワームに与えるためのスキルを集めている所である。
「【過去の継承】で魔物の死体からスキルを頂戴し、そのスキルを龍斗様の身体を通してワイトワームに与える。そしてワイトワームがこの殻を破ると言う事ですか?」
「まぁ、そう言う事ですよ、サファイアさん。そのために魔物の死体をもっと集めてください。スキルLv.は複数あると重複してレベルが上がりますから」
とサファイアにそう説明するヒルデガルドさん。まぁ、ワイトワームがこの殻を破れれば良い。ヒルデガルドさん曰くこのままだとワイトワームが殻を破れなくて死の危険もあるそうだから、早くしないと。
ドンッ! ドンドン!
と、殻の中からワイトワームがサナギの殻を破ろうとしている音がちょっとずつ聞こえてくる。その音は聞こえているけれども、サナギの殻には傷がちっともついている様子が見えない。
このままだと壊せなさそうですし、いつまでもサナギの状態である方が良いとは思えない。やっぱりこちらから攻撃スキルを【救いの雨】によってワイトワームに渡さないと。
そして40分後、魔物の死体からのスキル集めはだいたい集め終わった。スキルを持っていない魔物の死体とかあって、魔物の死体を集めた分くらい集められなかったんだけれども。
僕の身体の中には新たに【剣術スキル,Lv.3】、【突撃スキルLv.4】。そして【牙術Lv.5】、【炎魔法Lv.1】、【水魔法Lv.2】の5つのスキルがある。正直、ワイトワームに剣術と牙術の2つは必要ないと思うけれどもまぁ、あるだけマシだろう。
「じゃあ、そろそろ【救いの雨】を使ってワイトワームにこの5つのスキルを与えるぞ。良いな、皆?」
その言葉に皆は頭を振って肯いた。そして皆は僕とワイトワームの身体から離れる。もし近くに居てワイトワームに与えるはずのスキルが、渡ってしまったら元も子もない。元々この魔物のスキル集めはワイトワームのために用意したので、その集めた物が他の人に渡ったら意味は無いからである。
「さて、行くぞ! 【救いの雨】!」
僕はそう言いながら、【救いの雨】によってワイトワームにスキルを与えて行く。
身体の中に入っていた何か熱い物が、手を通ってワイトワームの身体へと伝わって行く。そして1つ1つのスキルがワイトワームへと伝わって行くと共に、サナギの殻の中でどくんどくんと大きな音が聞こえてくる。
ちゃんとスキルが伝わっているようだ。
「あっ、す、すごい。なんかサナギから音が聞こえてきます。力強い音です。さ、流石、ご主人様!」
「そうですね……。龍斗様からスキルが渡って、ワイトワームちゃんに正しくスキルが渡っているのは良いんでしょうが……」
「そうね。龍斗君、ちょっと止めといた方が……」
後それと、死体の魔物達から微弱にとれた生命力もあげておこう。【過去からの継承】は継承するためのスキルだからスキルを取る事も出来ると共に、生命力とかも取る事が出来たみたいである。とは言っても、魔物の死体達からスキルが取れないなと考えてどうにかして何かを得ようとした結果、思いついた事なのだが。
今から考えてみると、生命力を奪えるスキルってヤバイとは思うんだけど。
「ちょ、ちょっと殻から光とか出てませんか!?」
「……流石にやり過ぎてます? ヒルデガルドさん、これは?」
「そうね。ちょっと予想外かも」
……あ、あれ? なんだか3人のこっちを見る目が可笑しい……と言うよりも、なんだかワイトワームのサナギの様子がおかしい。
さっきまで無かった神々しい光とか殻の中から出ているし、それに剣を振った斬撃音みたいなのも聞こえる。そして
『ま……ー……』
なんか、人の言葉だと思わしき声も聞こえて来るし……。もしかして、ちょっと入れすぎた?
そうこうしている内に、殻に亀裂、いや剣で斬ったような裂け目が生まれてそこから光が漏れている。
そしてそこからゆっくりと、何かが殻の中から裂け目を通って現れて来た。
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