異世界転生メンバー
時間と言うのはいつの間にか過ぎる物であり、2時間が経過していました。
「では、また異世界に降り立った後お会いしましょう」
と、サファイアはどこかに消えて行きました。恐らく彼女の言葉通り、異世界に降り立った後会う事が出来るようになるのだろう。使い魔が分かってしまったら色々と面倒な事になるからと言うのも理由の1つではないかと考えられる。
だって、モニターに現れた般若面を付けたイヴァリストがこう言っていたのだから。
『皆さんには今から5人組まででグループを作って貰いましょう。手を繋いでいた時の、その時のメンバーが異世界に行った時の、あなたがたの同行メンバーとなります。時間は10分でお願いいたします』
それを聞いた時、僕達の間に混乱が走っていた。へぇ……と僕は思っていた。
スキルと種族は時間制限なく決めて時間間隔を可笑しくする。使い魔を決めるのに2時間でそれでも時間を与えて、最後に10分と言う短い時間で同行メンバーを決める。長い物から短い物へ、そして物凄く短くする。時間間隔を可笑しくて、時間を短くして緊張感を一気に持たせる。
「これを考えた奴は相当あくどいな」
ただでさえ10分は短い。それを長い時間でゆっくりとじっくりと考える事に慣れた連中に、時間を一気に短くして考えさせるのだから。しかも今までは携帯である程度確認出来たが、今度は今まで同じ学校に居た連中を探らないといけない。誰が一番良くて、誰が要らない人物なのかを。
それには多くの時間が必要だし、ましてやたった10分では議論が可笑しくなるだけだ。
「まぁ、僕は1人でも良いかー」
と思っていると、1人の女子生徒が話しかけて来た。瞳は赤と青と左右で色の違うオッドアイで、藍色の髪は長くて腰まで伸びるほど長く、黒いゴスロリドレスが似合いそうな全体的にスラリとした体格をした小柄な美少女。
「先輩。こんな所に居ましたか」
「夜里、か」
夜里弓葉。通っていた私立シキジマ中学高校一貫校の中学2年生で、僕の後輩にあたる。僕と何となく馬が合い、いつも仲良くしていた女生徒。彼女も転生にやはり巻き込まれていたか。
「先輩、もしよろしければ一緒に良いですか? 私、知り合いがほとんど居ないんで」
「あぁ。別に誰と転生しようかと悩んでいたくらいだから、僕は別に構わないよ」
「そうですか。なら、一緒に」
そう言って彼女は僕の手を取る。これで一応知り合い一人いない異世界転生と言うのは回避できたか……。
「やぁ、君達の所にご一緒させて貰ってよろしいかな?」
と、いきなり夜里と手を取り合っていたら別の方が話しかけて来た。
生徒会長、東堂健二先輩と……確か夕張聖、だったかな?
高校3年生、東堂健二生徒会長は整えた黒髪をさらりと肩まで伸ばしていて、切れ長の瞳が特徴のイケメン。あの時は副会長の芹沢広人が疑問を投げかけていたが、本来ならば彼がやっていた。彼は何事にも積極的な頼りがいのある生徒会長で、誰からも好かれている。僕としてはある一点を除けば、彼は完璧だと思っている。
夕張聖は僕と同じ高校1年生で、クラスも違うからあまり接点も無い。髪は濃い茶色で瞳が見えない程前髪が長く、後ろで長い三つ編みにしている。背は女性にしては高いが、いつもおどおどとしていて縮こまっているから小さく見える。怯えた様子と、そのあまりある大胆な巨乳から、学校の人気も高い女性だったと記憶している。引っ込み思案なのか、健二先輩の手をぎゅっと握りしめて離さない。
そんな生徒会長の手を握る彼女の姿を見て、僕は夕張聖を救いたいと思っていた。彼女は引っ込み思案で、おどおどとしていて、きっと生徒会長と一緒に居るのも近くに居たから付いて来ただけなんだろう。だって、生徒会長のあの眼は、彼女を必要としていない目だったから。
「既にほとんどの人がやっていてね。彼女と2人だけでは心許ないと思っていたのだ」
「……それは彼女だけでは、不安だと言う意味ですか?」
と、僕が聞くと、彼は必要としていない目のまま、こう答えた。
「当たり前だろう。だって彼女と2人だけで魔王と言う仕事を出来るとは思えない。彼女と居るのは偶然だ。たまたま近くに居るから連れて来た。
彼女を押し付ける相手を見つけたら、それで良いと思っていた」
と堂々と答えた。その言葉に邪気は無い。
合理性、そして経験則。どの仕事にもそれぞれ一番良い人は決まっており、生徒会長は彼女にはそれが無理であり、彼女と2人だけでは魔王としてきちんとやっていけないと判断したのだ。
それは間違っていないのだろう。僕も引っ込み思案な彼女が、魔王としてやっていけるのか不安に思ったくらいだから。だけれども、もう少し言い方は無いのだろうか?
人を思いやる心。それが無いのが、僕が彼を完璧に好きになれない理由だった。
「……良いでしょう。もう時間もありませんし」
と、僕はそう言う。夕張さんとこの生徒会長を2人きりにするのは危険だと思ったからだ。断じて彼女の、夜里とは違う大きな巨乳に籠絡されたからではない。だから、夜里は僕の手の甲をつねるのを止めて欲しい。地味に痛いから。
『後10秒。9、8、7……』
そしてカウントダウンが終わって僕達4人で転生すると思いかけたその時、
「―――――――まぁ、こいつらで良いか」
そんな言葉と共に、ガシッと背中から誰かが僕の背中を掴む感触がした。僕はその相手を確かめようとして、
白い光に包まれたせいで、僕はその相手を見る事が出来なかった。