宿屋と鍛冶屋
僕は宿屋にて、ヒルデガルドさんからの話を聞いていた。
話をまとめると、僕達は月裏イヴァリストによって魔王として世界に転生した訳だが、彼女にも応援したい人や応援したくない人が居るらしい。神がそれで良いのかと激しく疑問視したいけれども。とにかく、月裏イヴァリストが応援したいと思った人達には個人的に新たに貰える物があるらしい。
それは新たな魔物だったり、強力な武器だったりと様々あるみたいだ。
ヒルデガルドさん。彼女は月裏イヴァリストの親友であり、月裏イヴァリストは僕の事が気に入ったみたいで、ヒルデガルドさんは月裏イヴァリストに頼まれて僕の元にやって来てくれたみたいである。
「こんにちは、サファイアさん。前に会ったのはいつ以来だったかしら?」
「確か……まだ使い魔の檻に入って無かった頃ですね」
ヒルデガルドさんとサファイアは知り合いだったらしく、仲良く喋り合っている。夕張聖さんとワイトワームはヒルデガルドが持って来た契約書を見ている。先程僕も確認したんだけれども、あれは契約書と呼ぶよりかは注文書だった気がする。
【ヒルデガルド×1
To;石動龍斗 From;月裏イヴァリスト】
とあの紙の一番最初にはそう書かれていた。その後にはヒルデガルドさんを送った理由と経緯が詳細に書かれており、最後に【魔王の神として魔族の平和を願っています】と書かれていた。
「まぁ、僕は結局の所は魔王にはなれなかったし、どう言う旅にするかを悩んでいるんだけれども」
「……! それでしたら、私に名案がございますよ?」
と、ヒルデガルドさんはそう言って懐から1枚の紙を取り出した。その紙には『サイクロプス協会』と書かれていて、『小さな物から大きな物まで、なんでもおまかせ♪』と言うキャッチコピーが付けられていた。
「これは……?」
「ハーデアン町で一番有名な鍛冶屋ですよ。そしてその鍛冶屋で作られた眼鏡をかけた者と出会ったんですけれども、その眼鏡に【石動龍斗を殺せ】と言う命令が……いや、確か正しくは、【勇者の名の下に魔王を殺せ】と書かれていました」
「「「……!?」」」
僕、サファイア、夕張聖は揃って驚く。
【勇者の名の下に魔王を殺せ】、それは即ち……。
「えぇ。まぁ、そう言う事でしょうね。【サイクロプス協会】の店主は魔王を殺そうと考える勇者の1人だと思います。
どうですか、石動龍斗さん? 旅の目的がないのでしたら、他の魔王のために勇者退治でもいかがでしょうか?」
ヒルデガルドさんはそう言って、ニコリと笑っていた。
「――――――――勇者退治、か。良いかも知れない」
僕もまた、そのヒルデガルドさんの言葉に肯いていた。
無目的で始まった僕の旅、その旅の目的が今決まった。勇者退治の旅、魔王としての僕の旅なら良い旅かも知れないと僕は思うのであった。