前魔王との対決
前魔王リーファ。彼は水を操る魔王であり、元は勇者であった。
リーファは勇者としてその前の魔王であるフレアを撃退した。しかしフレアの魔王として世界を平和にしようと言う考え方に、酷く感銘を受けたリーファは次の魔王として魔界を統治してたんだそうだ。それが前魔王リーファ。彼は自身の側近の魔族の者達に1つの事をお願いしたんだそうだ。
『死後、自分の亡骸を媒体にして僕を、自分を召喚して欲しい。そしてその召喚した自分を使って、次の魔王がどれほどの奴なのかと言う事を見極めてくれ』
それが彼の最期の遺言だったそうだ。それ故に僕達はこれからリーファさんの最期の遺言の通り、そのリファーを召喚して僕達5人と力比べをするんだそうだ。力比べと言っても、勝敗には興味が無くて、魔王と勝負してどれだけの強さを持っているのかが重要なのだそうだ。
どれだけの強さ。それが重要なのだそうだ。なお、自身で勝つ事は問題では無いんだそうだ。重要なのはその人の周囲にどれだけの軍事力があるかが問題なのだそうだ。けれども、その代わりにリーファは1つだけ条件を出したんだそうだ。
『ただし、その次の魔王候補から部下を1人だけ取って置いてくださいね。それについては何も言えないが、まぁ、その者が怪我した際の看護するためのルールみたいなものだ。僕が決めた、ちょっとしたルールだと思って貰えれば助かる』
と、リーファが言っていたらしい。それが僕がサファイアをこの部屋に入れて貰えない理由だったみたいである。ちなみに番勝田はミイラ族のお姫様、東堂健二はピクシー5匹、夜里弓葉はデュラハンを看護用にして貰ったんだそうだ。夕張聖は使い魔が居ないから例外的にこの魔王城の使用人がやってくれるんだそうだ。
まぁ、今頃サファイアが看護するための訓練でも受けているのだろうか。いや、完全にとは言い切れないけれども。
「……じゃあ、僕達はこれからその前魔王リーファと戦うと言う事か?」
「その通りですね。とりあえず、順番的には意欲順? と言う事ですか?
まず東堂健二、続いて、番勝田、私、龍斗先輩、そして最後に夕張聖さんと言う順番ですかね?」
「ならば、その3人が戦っている間に僕はこうやって弓葉から聞いていなかったら、何をやっているかさっぱりだったのか?」
説明不足だ。こんなの、聞いていないと分からない。
「まぁ、過ぎたる事は気にせず、今は戦闘のための集中をしておいた方が……と言っている間にも既に、事は始まっているみたいですよ」
弓葉がそう言うので、そちらを見ると確かにエントランスの中央部分には召喚術を行うための術者とその前魔王の亡骸と言う物が見えて、そしてその前に東堂健二が部下を伴って立っている。
東堂健二の後ろに立つのは、全身真っ黒なドレスを着た大人の女性とドラゴン、そして大きな口を持つ動く植物。
全身真っ黒なドレスを着た女性は背中に透明で綺麗に光る4枚の羽根と、何だか幻想的な美しさを持っている。恐らくはあれが最上級の精霊とかだろう。ドラゴンは全身が赤く光っており、見事なまでに強そうだが、どうしても子供スイリュウのあの巨体を見た今だと小さく見える。そして未知数なのはあの大きな口を持つ動く植物。恐らくは植物の魔物だろうが、果たしてあれがどんな能力を持つのか。
とまぁ、そんな事を考えていると魔術師が詠唱を始める。すると亡骸が動き始めて、透き通った肉体が亡骸に入って来る。恐らくはあれが召喚術なのだろう。そしてその詠唱が終わると、そこに居たのは170cmくらいの青い瞳の男性だった。
全身を水の線のような物が高速で回転しており、大きく胸元が開いた青い貴族服を着た彼。そんな彼がゆっくりと口を開く。
《どうか……殺してくれ……》
えっ? 今の声って、もしかしてリーファの声か? なんだ、今の声は?
耳を通して聞こえた訳でも無く、直接脳裏に響いたようなこの声は一体……。
「あれが前魔王ですか。いかにも強そう。そして亡骸からの召喚ですから、言葉が発せないんでしょうね」
「えっ……?」
今、弓葉はなんて言った? 言葉が発せない? 他の人達も何も感じていないようで、どうやらこいつが喋っているのは僕だけにしか聞こえないようだ。しかし、なんで僕だけ、あの前魔王リーファの声が聞こえるんだ?
「前魔王リーファ。水を操る魔王。どれだけの強さかは分かりませんが、私にかかればちょちょいとやっつけられるでしょう」
そう言って、気合十分の東堂健二は両腕を軽くほぐしてから、後ろの自身の部下達を見て、小さく頷く。
「さて、開戦だ」
そして、東堂健二たちと前魔王リーファとの対決が始まった。