龍斗、戸惑う
デザート村で行われていた番勝田とミイラ族の女王、マミィ・ハンズとの結婚。これによって番勝田が魔王になる事はさらに後押しされる事になっていた。さらにサファイアから聞いた話によると、マンティコアと言うライオンのようなモンスターが魔王城前に現れて、最上級の妖精とついその前に契約を交わした東堂健二が調子こいて倒そうとしたが、返り討ちにあって何人かの、自分に従う部下と共に出て行ってしまったようである。
僕の作って魔王城勤務にしておいた騎士型ゴーレム達とメイド型ゴーレムを何体か奪おうとして、逆に魔王城に居た従者さん達に猛反対されて奪えなかったらしい。出来うる限り、従者さんと仲良くさせて置いて正解だった。そう言う事を考える奴が居ると考えていたからな。まぁ、最も最初は他の訪問者の魔族達や魔王城に来た勇者達に取られないようにするために味方を増やしていたのだが、まさか同じ転生者の東堂健二がそうなるとは。
ともあれ、こうしてコテイ村の後押しと、デザート村の強い後押しを受けて番勝田は次の世代の魔王として、近々君臨する事が決まったのだ。そして僕は当初の目的であったこの異世界での旅路を行う事が出来るのだが、その前に僕は魔王城にて番勝田の魔王城就任パーティーに、同郷の出の人間として出席しないといけないらしい。
「まぁ、と言う訳で私達、龍斗様達御一行様は、魔王城への道を歩み始めたのですと言う事は、龍斗様、理解していますか?」
と聞いて来るサファイア。今日もハートの形の眼が非常に可愛らしい。そしてオッドアイと金髪の彼女は、いつも通りである。そして説明も正しい。
僕はコテイ村から出て行って、魔王城に向かっているのである。コテイ村は湖の街だったから陸上用の動物はあんまり居なかったために、借りる事は出来なかった。だから、歩きでのんびりと動いて行くつもりだったのだが、
『ガゥ! ガゥ! グルルルルル……』
僕の眼の前の道に現れたのは、あの時の子供スイリュウ。しかも背中をこちらに向けて、明らかに乗れと言うくらいこっちを見て来る。
「……えっと、『お兄ちゃん! 私の背中の上に乗っても良いんだよ! なんなら、私の胸の上でも……キャッ//////』って言っているんですけれども」
サファイアがそうスイリュウの言葉を訳しているの聞いたスイリュウは、何故か地面を掘って顔を中に入れている。もしかして……恥ずかしい、とか?
「……いや、大災害なんだけれども」
彼女が地面を掘ったせいで軽く地面が、いやかなり深く地面が抉られているんだけれども。小さな小山が出来ているもの。もしもこれが大人のスイリュウだと、どうなっていた事か……。
「ともかく、この前助けて貰った事のお礼に龍斗様の使い魔になるって言っています。まぁ、彼女の心の声を意訳した言葉ですが」
「直訳は聞きたくない。もっと恥ずかしがって、ここいら一帯が穴だらけ山だらけにしたくない」
「……まぁ、そうでしょうね。とりあえず、魔王城まで送ってくれると言うので乗ってみたらどうでしょう?」
と、気軽に言うサファイアだが、このスイリュウは子供とは言っても10mはあろうかと言う巨体の持ち主。乗馬の心得もない僕にどうしろと言うのだろうか?
「とりあえず、サファイア。腕をシートベルトのようにして、僕を掴んでおいてくれない? 落ちそうで怖い」
「はぁ……。全く、ヘタレな主様です」
そう言いながら彼女は腕をシートベルトのように変化させて、僕にムギューっと抱きつく。それ故に僕の背中に彼女の豊満な胸がギューッと僕の背中に押し付けられている。……って言うか、この体勢は体勢で色々と拙い気が……!?
そして彼女は背中から翼を出して、ゆっくりとスイリュウの背中の上に飛び乗る。
「じゃあ、行きますよ、龍斗様! 目指すは――――――魔王城! では、スイリュウちゃん、よろしく♪」
『グェェェ!』
そう鳴き声をあげたスイリュウは翼をはばたかせて、大空へと飛び上がる。
僕は意図せずして、空の旅を満喫する事になったのであった。