コテイ村のその後
目を覚ますと、そこは知らない天井だった―――――――と言う事はなく、普通のからぶきの藁で出来た天井だった。
「大丈夫ですか、龍斗様?」
そう言って、優しそうに話しかけて来たのはサファイアだった。その横には目に涙を溜めて今にも泣きだしそうなカルタ様とミズワリさん、他数名のセルキーやらスキュラやらの姿があった。
「……覚えてますか、自分が何をしたのかと言うのを」
「何をしたのか……」
僕はそう思いながら、記憶を手繰って行くと……思い出した。カルタ様とミズワリさんを捕まえていた子供スイリュウに対してスキル、【救いの雨】を使った事を。【救いの雨】、それは200ptを使って手に入れて置いた他者に生命力を分け与えるスキルである。それを使って魔法が効かない子供スイリュウの傷を治していた。あれは自身の生命力を使っていたから、生命力を使った事によって倒れてしまったのだろう。
「……だから、倒れてしまったのか。それで、あの子供スイリュウは?」
「「……!」」
僕が子供スイリュウの名前を出すと、カルタ姫とミズワリさんの表情が強張っている。やっぱり捕まえられていた時のショックが大きかったのだろう。トラウマになっているのだろう。
「……話を変えよう。じゃあ、聖さんは?」
一緒に来ていたはずの夕張聖さんの姿が見えないんだけれども、どこに居るのだろう? 帰ったのだろうか?
「……聖さんは少し急用で先にお帰りになられました。結婚式に向かわれました。本当ならば龍斗様も呼ばれていたんですが、今のように倒れていましたのでして、このコテイ村にて休ませて貰いましたんです。
まぁ、3日ほど眠っていらっしゃいましたので、もう既に結婚式は終わっているでしょうけれども」
「け、結婚式……? それに3日?」
そんなに眠った感覚は無かったんだけれども、ただ単に回復するだけの治癒術と違って生命力を直接与えると言う【救いの雨】と言うのとは違うみたいである。
(あまり多用は出来そうにない……と言う事だろうか。まぁ、このスキルを多様化する現場にはあまり会いたくないんだけれども。今回だって相手が魔法が効かない子供スイリュウじゃなかったら使いたくはなかったし……。それよりも、もっと聞きたいのは結婚式の事についてなんだけれども!)
結婚式? 相手は誰だろう?
普通に考えれば、僕や聖さんの知り合い……と言う事は転生して来たメンバーの誰かだろうか?
「それってもしかして、夜里弓葉?」
「いえいえ、違いますよ」
「じゃあ、もしかして……」
夜里弓葉でもなく、夕張聖は呼ばれた側だからあり得ないとして……それでいて東堂健二はあの魔王城に居るからして出会いも無いと考えられる。だったら後は、
「……これがその招待状です」
そうしてサファイアが僕にくれた招待状。そこにはこう書かれていた。
《俺達、結婚するぜ! そして俺が魔王になって見せる! 番勝田とその妻、マミィ・ハンズ♡》
それはあろう事か、僕が魔王として推薦しようとしていた番勝田の結婚式のお知らせだった。そこに映っていたのは黒い紳士服を着た番勝田と、花嫁姿のお相手のミイラのような女性の姿だった。
……結婚式ってマジですか?
「……まぁ、さらに魔王に近付いたと思えば」
「そ、そうだよね。まぁ、今回は助けてくれてありがとう。石動さん」
「わ、私からも礼を言わせて貰いたい。助けてくれてありがとうございます」
と、そう言って深々と頭を下げるカルタ様とミズワリさん。
「……まぁ、2人を助けられて良かったよ」
そう言うと、彼女達は嬉しそうな顔をしたと思ったら、泣き出してしまった。どうやら頑張って泣かないようにしていたんだが、僕のあの言葉で泣き出してしまったのだろう。
こんなに思われて、本当に嬉しく思う。
「サファイア。また機会があったら来ような……」
「そうですね、龍斗様」
僕はそう言いながら、泣き止まない2人の頭を撫でて、サファイアと一緒に微笑ましい気持ちになるのであった。