コテイ村のスイリュウ
ドラゴンと言うと、番勝田の使い魔のドラゴンや東堂健二が召喚していたドラゴンを思い浮かべるが、今話題に挙がっていた『スイリュウ』はそれとは一線を画している。
ドラゴンは時折人里に降りて来る下級の種。国が勇者達を含めた軍隊を出したり、一騎当千の者ならば倒せる類の魔物である。けれども、『スイリュウ』のようなリュウの魔物は滅多に人里には降りて来ない上級の種。
この世界―――――イナフィアと言うらしいけど―――――には『リュウ』と名の付く魔物は7匹しか居ないらしい。
空気中などの水分の全てを操るとされる水の龍、『スイリュウ』。
太陽の温かさや生命の温かさを司る火の龍、『エンリュウ』。
人の生活を支える大地となりし地の龍、『ドリュウ』。
人々に大きな影響を与えて吹く風の龍、『フーリュウ』。
全ての者に喜びと安らぎを与える楽の龍、『ガクリュウ』。
全ての者に苦悩と苦しみを与える苦の龍、『クリュウ』。
全ての人の命を司る命の龍、『メイリュウ』。
この七匹の龍を総称して神として扱う『七龍神』として、この世界にはリュウは一歩離れた上級の種、それがこの7匹らしい。まぁ、『クリュウ』は明らかに邪神だろうけれども。
今回、コテイ村にやって来てカルタ様とミズワリさんを捕まえたのは、このコテイ村に置いては地の利を持っているスイリュウである。
「グェ――――――!」
全身を水色の鱗で覆われた10mサイズの巨大な龍、スイリュウはその両手にカルタ様とミズワリさんを持って大きな鳴き声をあげていた。
「か、カルタちゃん! おぉ……カルタちゃんが捕まっている。
アマカワ! 今すぐコテイ村全精力を持って、カルタちゃんとミズワリちゃんを救出するのだ! 全速力で! すぐさま!」
……孫大好きすぎだろ、この村長。まぁ、ミズワリさんを忘れてない所を見ても、その辺りは分別がついていると言うのだろうか?
「落ち着いてください……ニグレ様。ドラゴンならば軍を率いれば倒せるでしょうが、いくらなんでもリュウを倒すと言うのはちょっと……」
「倒す事はしなくても良い! あの2人をリュウの手から放せば良いだけじゃ! 解放すれば良いだけじゃ!」
だだをこねる孫大好きのニグレ様と、それをなだめるアマカワさん。そうこうしている間も、スイリュウは奇声をあげて水面を叩いていた。
周りを取り囲んでいるスキュラ兵士、そして魔法を構えようとしているセルキーの一部の民。
「……あのリュウ、子供ですね」
と、サファイアはそのスイリュウを見ながら言う。
「あの大きさで子供? 外見で子供とか分かるの?」
僕はそう聞く。サファイアはコクリと頷く。
「あの使い魔を選んだ時のゾーン、あったじゃないですか? 実はドラゴンの横の場所に隠し扉があって、その奥にリュウが居たんですよ」
「……マジで?」
あの場所にこんなサイズの龍の魔物まで用意されてたの? 誰かが気付いて取ったりしたりするのだろうか?
「ただし、隠されていますし、リュウ1匹につき最低100ptは要りますが。今まで誰も取ってません」
「まぁ、普通そうだろうな」
隠し扉+高価なポイントとくれれば、それを両方兼ね備えた人間はなかなか転生なんて言う舞台に挙がっては来ないだろう。
「それで分かるんですが、成体の龍はあんな大きさではありません。小さい者でもあれの2倍、大きい者だと5倍はあると思います」
「50mサイズか……。餌が大変そうだ」
いや、本当はそんな所に注目すべきではないんだろうか。
そんな事を考えていると……
「あれ……?」
僕はスイリュウの身体から赤い血が流れている。どうやらあの怪我のせいで、人里ならぬ魔物里に降りて来たと言うのだろうか?
「どうしたんですか、龍斗様?」
「ほら、あそこ。スイリュウの身体から血が流れてる。多分、自然に出来た事はないだろうから、人とかに攻撃されて血が流れたと思うんだけれども……」
「普通のスイリュウならば攻撃はしないでしょうけれども、子供のスイリュウならば倒せると思って誰かが手を出したと……。ありえますね。多分、あの怪我のせいで暴走していると思いますけれども」
じゃあ、あの怪我を治せば落ち着くのだろう。
「じゃあ、魔法で……!」
「あぁ、それは無理ですよ。龍斗様。
龍の身体を纏っている鱗は全部、異常なまでの魔法耐性を持っています。ですので、魔法で治すのは無理です。勿論、あんな大きさを覆う包帯もありません」
と言うサファイア。
分かってる。あの傷を治すのは普通ならば自然治癒しかないのだろう。このスイリュウの暴れっぷりを出来る限り最小限の被害で済まさるのが普通なのだろう。
けれども、僕には普通ではない手段がある。
「サファイア」
「……はい、分かりました。龍斗様にはその手段がありますからね。でも、よろしいので?」
「良いんだよ」
使える能力は、使える時に使わないと意味が無いのだから。