乙女達の戦い
只今目の前では2人が、僕の権利をかけて戦闘用に用意された水面上の特設広場にて争いを続けている。
カルタ様が水で美しい白鳥の姿を作りつつ、それをミズワリさんに向けて放つ。ミズワリさんはと言うと、そのメデューサの髪のような数多の蛇のような足で跳んで床下の湖に飛び込んでそのままその水の魔法による攻撃を避ける。白鳥の魔法が効果を失ったのを水中で見た後、彼女は跳んでそのまま金色の剣で斬りかかる。それを美しい水の球体を作り出したカルタ様が防ぐ。
(水面からこの特設広場までおおよそで見積もって約100m……と言った所だろうか? 雨による湖の増減を見越して約100m高い場所に作られているんだな。そんな高い場所から堂々と飛び込んだりする度胸と、あの水中から飛び上がって来るだけの脚力。スキュラって凄いな)
いや、ミズワリさんが凄いのか? 他のスキュラのデータが無いから、何とも言いようが無い。しかし、他のスキュラが息を飲んでいる所から見ても、一線を画していると言っていいだろう。
(それよりも、これはカルタ様が不利だな)
カルタ様の魔法は、水の魔法だ。それも攻撃力よりかは美しさをメインとした攻撃である。そして魔法と言うのはなかなかに繊細な物らしい。きちんと狙って当てないと、当初の攻撃力を出せないらしい。ミズワリさんはそれを知っているから、絶えず動きまくって狙いを付けないようにしている。
また、特に水の魔法にとって水中と言うのは最悪の部類に入るらしい。なにせ、水の中に水を放り込むような物だ。自分の操っている魔法がどれだか分からなくなるらしい。とは言っても、これはカルタ様の言い分であり、要するにカルタ様はそう言うのに不向きであると言う事らしい。
水の中に入っただけで防がれる魔法と言うのは、あまりにも滑稽すぎる。やはり彼女に何か理由があると考えるのが自然だ。
(……まぁ、その理由は分からないけれども、とりあえず分かっているのは彼女が魔法を水中に放てない事。そしてそれを知ってミズワリさんが水中で攻撃を避けている事だ)
多分、水魔法を避けるにはステージ上を駆け巡るよりかは、水中に入った方がミズワリさんとしては効率が良いのだろう。
「しかしまぁ、ミズワリさんが随分と厳重に警戒しているな」
「……それは多分、あの水が魔法で作られた水だからでしょう」
と、僕の言葉に反応した聖さんがそう言葉を言って来る。
「魔法で作られた水? どう言う意味だ?」
「えっと……ですね。普通の水と魔法での水はまず魔力を得ていると言う点からして違います。ですから、魔法での水は本人の意思によって魔力が続く限りは、半永久的に扱えます。そんな水に身体を囚われてしまえば、まず相手はその水で水の中に捕らえて、なんとでもする事が出来ます。魔法使いの操る水の中と言うのは、ある意味どんな場所よりも危険ですよ?」
「囚われたら、終わり……か」
だからこそ、あそこまで過敏にミズワリさんは避けていると言う事か。
「あの水中ならば、魔法の水は効果を発揮しません。この湖の水は魔力が満ちていて、カルタ様の魔法が全然効果を示さないんですよ」
「……なるほど。と言うか、聖さんは魔法について随分と詳しいですね」
「へっ……? え、えっと……」
「また今度、機会があれば教えて欲しい。今後の参考になるかもしれないから」
「う、うん。じゃあ、また時間がある時に、ね」
そうやって力なく笑う彼女に、「あぁ、頼む」と言う僕だった。
そうこうしている間にも、カルタ様とミズワリさんの攻防は続く。カルタ様は水中に逃げられないようにと、空中に魔法の水の塊を作る事によって警戒している。魔力の大幅な消費は避けられないだろうが、このままなし崩し的に避けられ続けられるよりかは効率的である。
「喰らって、白鳥のワルツ!」
カルタ様が水で作り出した二羽の白鳥が舞い、ミズワリさんに向かって来る。ミズワリさんが金色の剣で風圧を起こしながら防いでいく。……と言うか、こんなの
「早く終わらせてくださいよ、長老様!
2人もさっさと止めろ! こんなのに何の意味も無い! さもないと、僕は聖さんとサファイアと一緒に帰るぞ?」
「「それはダメ―!」」
2人はそう言って、さっさと攻撃を止めてくれた。
折角の決闘の見物を邪魔された観客達には申し訳ないが、ここは止めて貰おう。もうそんな事をして、無駄に時間を費やされても困るからだ。
僕にはこの村に来た”目的”があるのだから。