リンテイ村を後にする
遅延性の麻痺毒。僕が勇者キリュウとその一行を撃退する時に使った物である。
撃退方法を説明するとこうだ。
まず水に無色溶性の遅延性の麻痺毒を溶かして、それを木製のコップに入れる。老女に化けたサファイアに、そのコップの中身を勇者キリュウとその一行に飲ませる。長々と道を歩いていた彼らは喉が渇いているだろうから飲ませるのは、簡単だろう。
村に着いた彼らを白いマスクを付けた全身黒ずくめの、あからさまに怪しい容姿で僕が出迎える。そして長ったらしい文面で時間稼ぎ。
後は体力が少ない人間から順々に麻痺で倒れて行き、麻痺している彼らに聖さんが睡眠の魔法にて彼らを眠らせる。
全員が眠っている所を見計らって、ゴブリン達には捕まえて貰う。
《三日月槍》は僕の方で収納して置いた。破壊しようと思ったんだがどうも今ある装備では無理そうであり、このリンテイ村でどこかに隠して貰う事も考えたんだけれども『勇者の持っている武器など保管したくはありません!』と言って僕が持つ事になったのである。後で魔王城の隠し部屋かどこかで保管するように頼んでみよう。とりあえず今は僕の方で保管して置く事にしよう。
「無駄に時間をかけてしまったようだ。そろそろお暇させていただこう。サファイア、行くぞ」
「そうですね、そろそろコテイ村に行かないと行けませんと」
僕とサファイアは揃ってコテイ村に行くように身支度を始めていた。
「聖さん。そろそろ僕とサファイア的にはもう行こうかなって思っているんだけれども、聖さんはどうする?」
「へっ!? え、えっと……じゃあ、私もします」
そう言って、聖さんも恐る恐る身支度を始めている。
「あぁ言う……怖い人達がいっぱい居るんですね……」
と、聖さんは小さく呟く。恐らく勇者キリュウとその一行の事だろう。まぁ、勇者キリュウとその一行は粗暴と言うか、野蛮な気がするけれども怖いと言う意味ではその通りだと思うし。
「そりゃあ人間は千差万別で、十人十色。色々な人間があるのだから、あぁ言う粗暴な人間も居て当然だと思う。優しい人間や怖い人間、強い人間から弱い人間。人間もそうだし、魔族だって、多分全ての生き物だってそうだと思う。安易に怖いのは人間だけだと思わない方が良いですよ」
「……そう、ですか?」
きょとんと、頭を傾ける聖さん。
「そうそう。大切なのは、種族とかそう言うのではなく、人柄。そう言う物だと思いますよ、僕は」
そう言って、僕は「さぁ、早く準備をしてください」と急かす。
「う、うん。そ、そうよね……ありがとう、龍斗さん。ちょっと楽になったかも知れません。ありがとうございました」
そう言って、聖さんはニコリと笑っていた。
そして僕はリンテイ村の心優しい村長さんから貰った馬車を借りて、サファイアと聖さんを載せる。
「ありがとうございました、帰りには是非立ち寄ってお願いします。こちらでも今回のお礼はさせていただきたく思っていますので」
「まぁ、それは別としてこの馬車を返す際には 寄らせていただきます。それでは」
そう言って、僕達はコテイ村に向かって行ったのであった。