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Road to Lord -魔王の道-  作者: アッキ@瓶の蓋。
第1章 魔王候補
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勇者撃退作戦

 『太陽の勇者』、キリュウ。

 彼は元々とあるお山の大将であり、多くの部下を引き連れる肉体系の山賊であった。そしてキリュウは、とある古代遺跡で《三日月槍》を偶然的に手に入れて勇者となった。故に彼には勇者としての矜持がなく、ただただ村で奪いながら時々現れる魔物を倒して生計を立てていた。

 王国からしてもキリュウの扱いには困ってはいたが、神が作ったとされる武器の1つである《三日月槍》と言う武器を持つ彼を無残には扱えなかったために、時々面倒な場所の調査を彼に押し付けたりと厄介払いをするくらいにしか思っていなかった。



 そうやって、王国から騙されているなんて言う事も分からないくらいのバカ、キリュウとその一味はリンテイ村に向かっていた。



「おかしら、そこにある物はなんでも取って行って良いんだよな? 女とか金とか、何でもさ」



「あぁ、そうらしい。ただし、そこに居るのはゴブリン達らしいけれども」



『うえー、萎えるわー』



 女性をさらえない事で明らかに意気消沈した様子の子分たちに、「急ぐぞ、野郎ども!」と怒ったような声で言うキリュウ。



 そんな彼らの前に1人の女性が現れた。とは言っても、それは40歳くらいの、昔は若かったんだろうなと思わせるような老いた老女であった。



「おぉ、旅の人達かい? 良かったらこれでも飲んで行くかい?」



 そう言って、彼らに水が入った木製のコップを差し出す老女。



『おぉ、ありがてぇ!』『ちょうど喉が渇いてたんだよなー』『俺はどちらかと言うと、普通にお前のあれを飲みたい』『おいおい、気持ち悪いぞ、お前』



 ハハハ、と笑いあいながらも飲みあう組員達。歩きっぱなしであったため、彼らは喉が渇いて仕方ないのだ。



「さぁ、あんたさんも」



「……良いだろう。ただし、おばあさん。お前も飲んでからだ!」



 キリュウはそう言って木製のコップを突き返す。

 彼が警戒しているのはこのコップの中に毒か何かを仕込まれていて、動けなくなるんじゃないかと言う物だ。最悪、構成員の数名が死んだって構わないが、自分まで死んでしまうと戦力が大いに減ってしまう事を恐れての行動だった。



 おばあさんはそれを聞いて、「はいはい」と言いながら木製のコップの水をちょびっと飲んだ。しかし、おばあさんは数分しても倒れない、それどころか苦しそうな素振りすら見せない。ただただ、にこやかにほほ笑んでいるだけだ。



『おかしら、飲まないんなら俺らが飲みますよー』



「いや! お前らに飲ませるくらいならば俺が飲む!」



 毒見は済ませてあって、安心な木製コップの水を飲み干すキリュウ。喉に染み渡る水の心地よさは本当に素晴らしい物だった。




 おばあさんに分かれた彼らは、水を飲んで活力も湧いたのかすぐさまリンテイ村に向かって行く。







 リンテイ村には1人の男性が立っていた。

 こんな太陽が照りつける場所に全身黒ずくめ、しかも顔には何も書かれていない真っ白なお面を被っている謎の男。その背中にはその者の背丈を越えるような巨大な剣を背負っている。



「貴様、何者だ。名を名乗れ! 我が名は闇夜に切れ味を増す《三日月槍》の所有者である『太陽の勇者』、キリュウ! そして彼らは我が部下達だ!

 大人しく村の中の物を渡さなければ殺す! ごたついても殺す! さぁ、返答をしやがれ!」



 キリュウはそう言いながら、《三日月槍》を構える。いくら闇夜に真価を発揮するタイプの武器だと言っても、神が作ったとされているこの《三日月槍》は普通でもその効果を発揮する。10人くらい連続で斬り続けても、刃こぼれ1つ起こさないこの武器で、目の前の男性を殺すのは簡単だが、こう言った前口上があった方がカッコいいと言う理由でキリュウは名乗りを上げていた。



 それに対して、目の前の相手はと言うと、



「ふっ」



 と馬鹿にしたような声をあげる。



「何とも滑稽、ただの勇者(・・)とその(・・・)一行(・・)か。てっきり悪人かと警戒してしまった。

 しかし、勇者ならば遠慮はいらないな」



 彼はそう言って、手をこちらに向ける。



 武器1つまともに握った事が無さそうな、男性にしては綺麗すぎる手を目の前に出して、彼もまたキリュウのように前口上を並び立てる。



「我々は勇者を殺すために組織された組織。

 その組織に名は無く、ただただ勇者を殺すために集められた連中によるただの組織団体。そして、我々はお前らをいつでも殺せる」



「何を言ってやがる……」



 意味不明の言語をまくし立てる相手に対して、せめて腕の一本でも斬りおとそうと思っていると



『おかしら、大変です! 後ろの方の奴らが倒れはじめました!』『こっちもです!』



「な……ぬ……」



 後ろを見ると沢山居たキリュウの部下達が1人、また1人と倒れて行くのだ。屈強な部下達がここまでの道中で疲れてしまって倒れたと言う事はない。



「……これは」



 そう言うキリュウは驚きながらも、目の前の男を睨み付ける。



(多分、こいつが原因、しかし何をしたんだ。何かをした様子は一切なかったが……くっ……これは……)



 そう言いながら、彼は膝を付く。彼自身もまた立ち上がれなくなってしまったからだ。



「なんだ、この痺れは……」



 それを見て、目の前の男は笑い出す。



「我はお前達に対して、お前達を気絶させるほどの気迫を出した。そしてお前達は倒れていっているのだ」



「……気迫……でだと」



 そう言いながら、キリュウは足りない脳みそで考える。




「思い出した! ……確か、異国には……気迫だけで……相手を気絶させる……術が……」



 まさか、こやつは……そう言った類の技を!?

 それで部下達は倒れて行ったのか?



「お前達が気絶した後、この村に住むゴブリン達がお前達を殺す。喰らっておけ」



 そう言って、彼が手を上に上げると、どこからかゴブリン達が現れてキリュウ達を取り囲んで行く。



 もうダメか……。



 あっけない最後だ……。



 そう思いながら、ゆっくりとキリュウは眼を閉じた。

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