旅は道連れ
「だ・か・ら、俺は1人のほうがむしろ戦いやすい。あいつも、あの生徒会長もそう言うタイプだろう。よって、この聖とか言う奴はお前の担当だな。あの生徒会長に渡すのはむかつくからな」
朝、コテイ村にさっそく向かおうとした僕を呼び止めた番勝田はそう言って、僕に彼女、夕張聖を追い出して魔界城の門を閉じた。
残されたのは、魔界城の門の前で呆けている僕とサファイア、そして夕張聖の3人だった。
「つまりは、『魔王城の留守を守るのに、彼女は必要ない』と言う事を勝田さんは伝えたかったんでしょうよ、ご主人様」
と、サファイアがご丁寧に今の状況を纏める。それは分かっているが、何故僕なんだ? 一応、魔王城の中には生徒会長、東堂健二先輩の他に夜里弓葉だって居るというのに……。いや、勝田としてはこの魔王城に生徒会長と聖を2人きりにさせたくなかったと言うべきか?
いや、今考えるべきは彼女だ。そう思って僕は彼女の姿を見る。
彼女の姿は所謂、エルフという物だった。
さらさらとした緑色の髪を後ろで三つ編みにしており、瞳は前髪で見えなくなっている。どこの雪山に行くんだって言うくらい厚着をしているが、それでも分かる豊かで豊満な巨乳。そして身長は女性にしては高いくらいだったはずなのに、今では僕と同じくらいにまで高くなっている。
美少女と言うよりかは、美女と言った方が正しいとされる夕張聖さんは、僕の顔を見ながらビクビクと怯えていた。
「え、えっと……あ、あの……」
これはどうしたら良いんだろう。彼女はどうも僕に対して警戒心を抱いているらしい。いや、他の男性からしたらまだ僕はましな方なんだろう。さっきの番勝田とのやり取りの時は、顔を青ざめて身体中をビクビクと震わせていた時よりかは、今の彼女はまだマシに思える。
(とは言っても、これじゃあ色々と難しいよな。まぁ、やるだけやってみますかね)
僕はそう思って彼女に向かって足を一歩踏み出すが、彼女はそれだけでビクリと明らかに今より驚いた様子で身体を縮ませる。なるほど、近付くだけでもアウトと言う事ですか。
僕がゆっくりと足を戻すと身体を縮ませるのは止めてくれたが、それでも警戒心は解けていないようでこちらに警戒心を抱いたままだ。
「はぁ……聖さん」
「は、はひ! な、なんでちょうか!?」
……どれだけ怯えているかというくらい、噛み噛みぎみの彼女を見て一瞬微笑ましい気持ちになるが、そう言った事を思ってはいけないので僕は顔を真面目に保って彼女に話しかける。
「僕は君に悪さを働かないし、それに多分そこまでの力を持っていない。僕はインドア派だったけれども、君は魔法を学んでいたみたいだからね」
これは嘘ではない。
ゴーレムの情報収集のために本を借りに行かせたところ、彼女が魔法コーナー、つまりは魔導書が沢山ある場所に居た所を見たと、サファイアやゴーレム達が教えてくれたからだ。多分、彼女は魔法特化、あるいは魔法に対してかなりの強さを持っていると考えた方が良いのだろう。それならばインドア派の僕如きが邪な考えで彼女に近寄る事は出来ないだろう。
「う、うん。夜里さんから聞いて、ます……。あなたはそう言う、女の子の嫌がるような事をするような人じゃない……って」
自身の無力さをアピールして彼女に警戒心を解かせると言う判断はどうやら正しかったらしく、先程よりかは彼女はこちらに対して警戒が薄れている気がする。
「そ、それにさ。僕もサファイアって言う使い魔を出しているんだから、聖さんの方も出したらどう?」
「そうですよ。私、同じ使い魔として仲良くしたいです」
と、サファイアも僕の考えに同調してくれたらしくて使い魔を見たいと彼女に言う。僕の使い魔、サファイアはCランクとランクは弱いし、彼女がこれよりも強い使い魔を持っている可能性は十二分にある。もしDランクで1匹だけだとしても、その使い魔とサファイアを交流させて警戒心を解かせる方法がある。だから僕は彼女に使い魔を出してくれるようお願いしたのだけれども、
「……えっと、私、使い魔。持ってないです。ポイントの全部を、他の人達に渡しちゃったので」
彼女の言葉で台無しになった。
使い魔が1匹も居ないとか、話が進められない! ど、どうすれば……。
(そうだ! あれがあった!)
僕はアイテムボックスの中から、今日の旅用に作り出した"あれ"を取り出して、
「こ、これ、お近づきの印にどうぞ」
と、聖さんに渡した。聖さんはビクビクしながらも、それを受け取ってくれて、その姿を見て笑顔になった。
(どうやら成功みたい、だな)
彼女に渡した物、それはゴーレムだ。とは言っても、観賞用に作ったイルカのぬいぐるみみたいな姿のゴーレムだ。本当はコテイ村のおみやげとして作ったのだが、彼女の警戒を解くために使うんだったら良いだろう。一応、薬草で作ったポーションとかを色々と試しにと作っていたから、コテイ村にはそれをおみやげとして渡そう。
それに、
『キュ、キュー!』
「う、うわー! い、イルカさんです!」
彼女の手の平の上で可愛らしく踊るイルカ型ゴーレムと、笑顔で笑いかける聖さんの姿を見ていれば渡したかいもさっき以上にあるという物だ。
「さて、サファイア。行こうか、コテイ村」
「はい、龍斗様。聖さんもそれでよろしいでしょうか?」
「あっ……えっと、はい」
サファイアからの問いかけにさっきのような笑顔ではないものの、はにかんだような笑顔が見られて僕は満足だ。さっきより警戒も解けたみたいだし。
「じゃあ、行こうか。聖さん」
「う、うん……」
僕は聖さんにそう言って、歩き出す。サファイアも聖さんも同じように追いかける。
「あ、あの……」
と、後ろから聖さんが声をかけてきて、僕は後ろを振り返る。
「ん……? どうかしましたか?」
出来るだけ警戒心を抱かせないように、笑顔でそう言う僕に対して、彼女は
「……うん。なんでもないです」
と遠慮するように答えた。
どうやらまだまだ警戒は解けきってはいないらしい。
まぁ、コテイ村に行くまでまだまだ道は長い。その間になんとか頑張ろうと僕はそう思った。