不良対生徒会長
「―――――――さぁ、始めるぞ。勝田」
「―――――――あぁ、良いぞ。東堂健二」
「「砂漠にはお前が行け!」」
東堂健二と番勝田は魔王城の中庭でそう言いながら、お互いに武器を構えていた。東堂健二は半透明な身体で宙を浮かびながら魔法の杖を構え、番勝田は獅子の毛を逆立たせながら鋼の剣を持ってお互いに構えていた。
―――――――何故、こうなったのか? それは少し前に東堂健二が倉庫から地図を取り出したのが原因である。
魔王には親密に仲良くしていた3つの村があった。
1つ目は竜族や吸血鬼族などが多い空気が薄い高い山の上にある村、ダーティー村。2つ目は魚人族や人魚族などが多い水辺に近い村、コテイ村。3つ目は幽霊族や人造人形族などが多い砂漠の村、デザート村。
この3つの村にはそれぞれ魔王が仲良くしている種族が居て、魔王として会った方が良いと言うのが東堂健二生徒会長の主張である。別に僕はこれをきっかけに新たな道が開けるかもしれないと思っていたので反対もせずに受けいれて、他の3人も特にそうだなと言って受け入れていた。
とりあえずダーティー村は夜里弓葉、コテイ村は僕、夕張聖は自分から魔王城に残ると言う道を選んでいた。
そして残ったのは、デザート村。この魔王城から一番遠く、道も過酷。さらに暑い砂漠を通らなければならないので必然的に残ってしまった村である。
――――――そして今。東堂健二と番勝田による
『どっちがデザート村に行くか』と言う事を決める私闘が始まらんとしていた。
「前々から君とは決着を付けたかったんだ、勝田君。君は自らを律していない。私達に無理矢理付いて来た君に、私は怒り心頭だ」
「俺だってそうだぜ、東堂健二。いまだに元の世界の『生徒会長』なんて職を引っ張りだしていたり、自らを律せよとかうるせぇ。俺は俺の好きなようにやる。結果は後から付いて来るんだ。
それにその、透き通った身体も召喚系ばかりのスキルも、自ら戦わないお前に相応しいスキルだぜ」
「何を言うかと思えば……。私は顔を汚したくないんでね。そう言うのがないゴーストを選んだだけさ。そして私は、この召喚系のスキルを気に入っている。居るべき場所に居るべき者を配置するのは得意なのさ」
2人ともお互いの存在が許せない……と言うか、気に食わないらしい。水と油とは良く言った物だ、彼らの場合はそう言った物よりも遥かに混じり合わないような感じを感じるけれども。
「召喚に応えよ、サラマンダー」
東堂がそう言うと、魔法陣が現れて1匹の巨大な赤い蜥蜴が現れ出でる。炎の尻尾と硬い鱗を持つサラマンダー。東堂の契約する魔物の1体だ。
「燃えたぎれ、熱き血潮」
勝田はと言うと、自らをスキルによって身体に熱気をこもらせる。熱気によって今まで以上の力を発揮できる今の彼の身体からは、その高温による蒸気が発生していた。
「行け、サラマンダー」
東堂がそう命じると、サラマンダーは大きな声をあげて勝田の方に向かって行き、その大きな足を勝田目がけて振り落す。
「ふん!」
しかし、それを軽々と受ける勝田。そしてすぐさまその足を振り回してサラマンダーを転倒させたかと思うと、一瞬で東堂の浮かぶ宙へと跳びあがる。
「鉄拳!」
そしてこちらからでは見えない速度で、重い拳を振るう勝田。しかしその攻撃は半透明な幽霊の東堂には効かず、まるで空気を掴むかのように通り抜ける。
「召喚せよ、ドラゴン。フェンリル。バジリスク」
東堂がそう言うと、大きなドラゴンとそれに負けないくらい大きな白銀の狼、フェンリルが顔を出す。そしてドラゴン、フェンリル、そしてバジリスクの口は宙から落ちる東堂に向いていた。
「ちっ……!」
慌ててスキルで逃げようとする勝田。しかし、東堂の身体から出た緑色の植物の蔓がそれを止める。
「てめっ……! なんだ、この蔓は!」
「召喚系、植物。自律思考を持つ植物を呼び出して従わせる召喚の一種。そしてこれを呼び出したのは、下の3匹の魔物のブレスから逃がさないためだ。どうだ、不良の頭でも分かりやすく説明してやったぞ?」
「ちっ……! だが、お前も危ないぞ!」
「忘れたのかい?」
ドラゴンとフェンリル、そしてサラマンダーは2人にブレスを浴びせるべく口にエネルギーを蓄える。そしてそれを一気に2人に向けて放出する。
「――――――私はゴースト。この程度の攻撃、効きやしないのさ」
そしてその高エネルギーのブレス攻撃をもろに喰らった番勝田。彼は持ち前のスキル、回復力を著しく上げる『体力回復』であり得ない速さで復帰したが、戦闘はもう終わっていた。
結局。
ダーティー村には弓葉、コテイ村には僕、そしてデザート村には勝田。生徒会長と聖は2人仲良く魔王城でお留守番と言う割り当てになるのであった。