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幕末カタナ・ガール  作者: 子父澤 緊
暗雲之章
390/404

不倶戴天の敵 其之参

それまで黙ってみなの話を聞いていた平間が、芹沢の顔をのぞき込む。

「…知り合いか?」

芹沢は頬杖ほおづえをついて、平間を流し見た。

天狗党てんぐとう時代のクサレえんてやつさ。ウデはイマイチだが、それなりにはらは座ってるぜ?なんせ、この俺様オレサマに、衆目しゅうもくの面前で堂々と盾突たてついて、まだ息をしてやがるんだからな」

うでがイマイチは余計よけいだ!」

平間は、鼻息はないきの荒い阿部を、しげしげとながめた。

「ほ、そいつは、頼もしいですな」


土方は、頃合ころあいや良しと、ふところから丸めた紙を取り出した。

「そうそう、肝心かんじんの用件を忘れていましたよ。これに目を通しておいてもらえますか」

軽い調子でそれを手渡す。


芹沢は紙を広げ、その標題タイトルあらためて、顔を上げた。

局中法度きょくちゅうはっと?」


「ええ。京に来た頃に比べれば、我々の所帯しょたいも大きくなったことですし、家里次郎のような悲劇ひげきを繰り返さないための、言ってみりゃ、約定やくじょうです。ご異存いぞんがなければ、明日にも施行しこうしようかと」

土方は、めずらしく改まった口調で裁可さいか(あお)いだが、どこかしら慇懃無礼いんぎんぶれいひびきがある。

「ふうん。ほんじゃま、じっくり吟味ぎんみさせてもらうよ」

芹沢の方も、さも興味なさそうに、またその紙を丸めた。

「ええ、そうしてください」


見えいたかし合いだ。

琴がきれていると、こしの辺りに土方の手がまわるのを感じた。

チラリと目を合わせた途端とたん、土方は「行くぞ」とアイコンタクトして、琴をせっつく様に、その場を立ち去った。

「…あれ?おい、待てよ」

その後ろを、阿部が追いすがる。


芹沢は三人の後姿うしろすがたを見送りながら、平間と梅に法度書はっとがきをヒラヒラと振って見せた。

「は!見ろよ、これ」


その紙を芹沢の手から取り上げた平間は、一見してうなった。


一、士道(しどう)(そむ)間敷事(まじきこと)

一、(きょく)(だっ)するを不許(ゆるさず)

一、勝手(かって)金策致不可(きんさくいたすべからず)

一、勝手(かって)訴訟(そしょう)取扱不可(とりあつかうべからず)

一、(わたくし)闘争(とうそう)不許(ゆるさず)


右条々(みぎじょうじょう)相背候者(あいそむきそうろうもの)切腹申付(せっぷくもうしつく)べく候也(そうろうなり)


「…むう」

「あーあ、あれも切腹(せっぷく)これも切腹(せっぷく)。まったく、田舎者いなかもんの考えるこたあ、笑っちまうな。これじゃ、命がいくつあっても足らん」

芹沢は笑い飛ばした。

「笑いごとか?これは近藤たちの姦計かんけいだ!こんなものを認めるわけにはいかん」


「ちょっと私の意見を言わせてもろても、よろしいですか?」

いつの間にか、佐伯又三郎が戻ってきて、軍師気取ぐんしきどりで口をはさんできた。

平間が佐伯をギロリとにらみつけ、

「お前は黙っていろ」

と口をふうじた。


芹沢はうすら笑いを浮かべながら、手をヒラヒラと振って見せた。

「いいよ、土方の好きにさせてやるさ」

平間が血相けっそうを変えて、芹沢を振り返る。

「おい、いったい何を考えてるんだ!」

「俺はこんな小賢こざかしいからめ手は好かん。そのためにも、さっきの二人は、何としても水戸派閥こっちに取り込むんだ」

「さっきの?阿部とくすのきとかいう若造わかぞうのことか?」


「ああ。新見と仏生寺ぶっしょうじさんが下関から帰ってきたら、一気にケリをつけるぜ。試衛館の奴らをつぶして、浪士組は俺様オレサマがそっくりいただく」

平間は梅と目を見合わせ、ため息をついた。

「こんな時に内輪(うちわ)もめか?芹沢さんも土方さんもどうかしてる。吉栄きちえいが探って来た長州の間者かんじゃの件はどうするんだ?」


芸妓げいぎ吉栄きちえいとは、水戸派平山五郎の愛人で、井筒屋(いづつや)で開かれた長州藩士らの宴席(えんせき)に同席していた遊女(ゆうじょ)の一人である。

つまり、彼女こそが、明里(琴)を出し抜いたスパイだった。


「おいおい、俺をめんなよ。売られた喧嘩(ケンカ)だ」

「しかし!」


がる平間をなだめるように、また佐伯又三郎が割って入った。

内患外憂ないかんがいゆう、まるでこの国の縮図しゅくずでんなあ。けど平間先生、勝算しょうさんならありまっせ?試衛館一派とうても、永倉さんは中立。わしらに楠小十郎くすのきこじゅうろう、そこに仏生寺先生が加われば、隊内の力関係は逆転します。まず後顧こうこうれいを断つと考えはったらどないです?」

どういうつもりか、内紛(ないふん)(あお)る。


「お前は口を出すなと言ったはずだ」

平間が声を押し殺してすごむと、芹沢が首を横に振った。

「いや、佐伯の言うとおりだ。佐伯、おまえなあ、今日からくすのきに張り付け」

「わかりました」

猫背ねこぜの佐伯が、さらにこしを低くしてうなずく。


梅は、芹沢たちの計画を聞いて、まゆひそめた。



そこへ、野口健司と沖田総司が、ゆうを連れ帰って来た。


「芹沢先生、ただいま帰りました!」

野口が、庭から芹沢たちに頭を下げる。

おもい人と一つ屋根の下で暮らせる喜びに、天にものぼる気分といった笑顔だ。



ゆうは、芹沢にしゃくをする梅を見て、野口にたずねた。

「さっき、ほんまなら屯所とんしょは、女人禁制にょにんきんせいとかうてへんかった?」

「あ、お梅さんのこと?」

「ほんなら、あのひとなん?」

説明に困る野口を見かねて、沖田が口を出した。

呉服問屋ごふくどんやから借金の取立てに通い詰めてたんだけど、だんだんその間隔かんかくが短くなって、今や入りびたってるんだよ」


「…ふうん」

ゆうは、納得しかねるように曖昧あいまいな返事をして、

梅の前を通り過ぎるとき、

「フンだ!」

と、あからさまな敵意てきいを表明した。


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