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幕末カタナ・ガール  作者: 子父澤 緊
変身之章
364/404

虎切 其之壱

京、壬生みぶ村。

壬生寺。

朝の四つ(9:00AM)


浪士組ろうしぐみ副長助勤ふくちょうじょきん、沖田総司は、境内けいだい狂言堂きょうげんどうそばで近所の子供達と遊んでいた。

余所者よそものである浪士組と、この村に住む人々の距離きょりを少しでも縮めようと、こうした地域交流に腐心ふしんしている、わけではない。

彼の場合、ただ、遊んでいるのだった。


「捕まえたぁっ!」

その証拠に、鬼ごっこのおに役を務める沖田は、相手が誰であろうとなさ容赦ようしゃなかった。

往生際おうじょうぎわの悪い石井雪が、まだ逃げようとするところを、後ろ(えり)つかんで、ヒョイと持ち上げる。

「きゃあ!やめてぇやあ!」

「”やめてやあ”だって!ハハハ、なんか子供の京言葉きょうことばって可愛かわいいなあ」

沖田は愉快ゆかいそうに笑ったが、見逃みのがす気はサラサラないようだった。

「沖田はん、大人おとなげないわあ」

雪がほおふくらませると、

「そや!」

「ほんまや!」

八木為三郎以下、すでに捕まった数人の子供たちが同調した。

「あのねえ。そんなマセた台詞せりふをどこで覚えるんだ?だいたいさあ、こういうのは、本気でやらないと面白くないんだよ」

沖田は腕組うでぐみをして、子供たちを見下ろす。


「せやけど、本気で走ったら、ウチら(かな)うわけあれへんやん!」

「そうや!手心(てごころ)っちゅうか、匙加減(サジかげん)がわかってへんねん!」

「相手は子供やねんから、大人になりよし」

子供たちから一斉いっせいに責め立てられると、沖田はフイと門の方に視線をらせた。

「あー、井上さん!」


たしかに、北門の前を稽古着けいこぎの井上源三郎が横切っていく。


「ごまかさんといて!」

沖田は子供たちの抗議こうぎを無視して、井上に声を掛けた。

「また稽古けいこですか?」


井上は足を止め、沖田たちの方を振り向くと、やれやれといった風にかぶりを振った。

「はあ…そうと知ってるんなら、黙っていても、やって来りゃ良さそうなもんだ」

ボソリと言うと、嫌な顔をして、そのまま屯所とんしょの方に歩いて行った。


「すぐ行きまあす!」

沖田は、まったく悪びれずに手を振って叫んだ。


子供たちは、冷たい目で沖田の顔をのぞき込んだ。

「これから稽古けいこなん?」

おこられてるやん」


沖田は心外しんがいそうに反論した。

「…アテにされてると言え。こう見えても、近藤道場の塾頭じゅくとうだからね。わたしがいなきゃ、稽古けいこもままならないってワケさ。まあ、いつまでも、きみみたいな子供にかまってるヒマはないんだよ。よっしゃ、じゃあチャッチャと勇之助を見つけて、稽古けいこに顔を出すとするか」

為三郎は、信じられないと目を丸くした。

「え?…まだやるん?子供と違うんやさかい、仕事と遊びの区別くらい、ちゃんとつけな」

まるで子供にさとすような口調である。

「なに、その言い方…興覚きょうざめだなあ。そっちが子供らしくないんだろ」

ムキになって言い返していると、

「あいかわらず、ひまそうね」

と声を掛けられた。


振り返ってみると、中沢琴と阿部慎蔵が並んで立っている。

井上とは反対の南門から入って来たらしい。

今日の琴は、浪人風の男装だった。


「お琴さん!と、…えーと…」

沖田は、初めて京にやって来た日以来、阿部とも数回顔を合わせている。

「…そうだ!阿部さん。最後に見かけたときは、たしか、曽根崎川でおぼれかけてましたけど、まだ、二人はツルんでるんですか?」

阿部は、きまりが悪そうに頭をいた。

「えっ!アレ見られてたのか?いや、参ったな…でもまあ、じゃあ、話が早いな。そうなの、ツルんでんの、俺たち」

琴は露骨ろこつに嫌な顔をして、それを打ち消した。

「人聞きの悪い事言わないでちょうだい。今日は、この人の付き添いできた、だけ」

「付き添いってなんの?」

沖田が怪訝けげんな顔でたずねると、琴は阿部の肩に手を置いた。

「入隊したいんだってさ」

沖田は、しばらく苦笑にがわらいする阿部を見つめてから、井上の通り過ぎた北門をした。

「なら、屯所とんしょはあっちですよ」


ところが、その時。

八木家の末弟、勇之助がけてきて、そのちょうど反対にある鐘楼しょうろう指差ゆびさした。

「沖田はん。あそこでおゆうちゃんがケンカしたはる」

沖田はキョトンとして、勇之助と視線を合わせるようにしゃがんだ。

勇坊ゆうぼう、あんな遠くまで逃げてたの?おゆうちゃんが誰と喧嘩ケンカしてるって?」

「知らんお兄ちゃん」

沖田と琴は眼を見合わせた。


とりあえず、勇之助に言われるままついて行くと、確かに鐘楼(しょうろう)の陰から、男女の言い争う声がする。

何を言ってるかまでは聴き取れないが、一方は、ゆうの声に違いなかった。


「キャア!」

突然、ゆう悲鳴ひめいが聴こえた。


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