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幕末カタナ・ガール  作者: 子父澤 緊
角力之章
357/404

力士乱闘事件 其之参

そして、ここにもう一組、この乱闘を外野から見守る関係者がいた。

谷三兄弟の長兄ちょうけい三十郎と、末弟まってい千三郎である。


チビの千三郎は、背伸びをしながら、芹沢たちの暴れっぷりを見て、

「兄さま、たまたま曽根崎のお姉ちゃんたちと遊びに来たところで、このような場面に出くわすとは、まさに天啓てんけいではありませんか。ここはひとつ、助太刀すけだちして恩を売り、そのままの流れで加盟しちゃうというのは如何いかがでしょう?」

と、兄の反応をうかがった。

「う、うむ。そうだな…」

しかし、三十郎は、芹沢たちの荒っぽいケンカにすっかり腰が引けている。

「いや待てよ。今日は友引ともびきか…千三郎、残念だが日が悪い。今回は出直すしかあるまい」

「兄さまは、六曜ろくようにも通じておられますからな。まあ、そうおっしゃるなら…。しかし、このケンカ、千三郎は勝敗を見届けてよろしいでしょうか」

「好きにせよ。私は無益むえきな争いは好まぬゆえ、先に店に行って飲んでいる」

「さすが、秩序ちつじょと平安を愛する三十郎兄さま。恥ずかしながら、私、こういうめ事が大好物なので、あとで追いかけます」

こうして、近藤たちのあずかり知らぬところで、浪士組乗っ取り計画の危機は、ひとまず遠のいたのであった。


一方。

永倉新八は、どうにかこの場を収めようとむなしい努力を続けている。

「うわあっ!こらまて!落ち着きなさいってば!」

乱れ飛ぶ攻撃を器用きように交わしながらみなをなだめて回ったが、

そんな永倉の気も知らず、原田左之助が次々と火に油をそそいでいった。

「ほらよ!一丁あがりだ!つぎ!ウヒョー!ほら、どうした総司!モタモタしてっと、俺が全部いいとこいただいちゃうぜ?」

「わたしは、5人目ですよ!」

沖田総司も、ヒラヒラと舞うように首やみぞおちといった急所を突いて、力士たちを翻弄ほんろうする。


「いいか!何があっても命をとってはならん!」

この中では比較的常識人の平間重助が叫んでいる。

芹沢一派はすでにみな抜刀して、

刀のみねで、むらがる力士を打ちえている。


あちこちで六角棒ろっかくぼうと刀のぶつかり合う音が鳴り響いた。


「てめ!左之助!いい加減にしやがれ!」

永倉は騒ぎの中心にいる原田たちに近づこうと、四方八方しほうはっぽうから飛んでくる六角棒をくぐったが、原田の方も右へ左へと走り回るため一向に辿たどり着かない。

「あんのバカどもが!こら、野口!テメエもやめねえか!って、あっぶねえな、おい!気をつけろよ、そんなもん振り回しやがって、当たったら死んじまうだろが!山南さん、なんとかしてくれよ〜!」


もちろん、山南敬介も騒動そうどうを止めようと全力で奮闘ふんとうしていたが、

如何いかせん四方を囲まれ、身をまもるので精いっぱいだった。

「原田さん、挑発ちょうはつにのっちゃダメだ!沖田くん、やめないか!」

そのとき、斎藤一が、山南の後ろから殴りかかる力士の肩を突き、そのまま山南に背をあずけた。

無駄むだだ。もう収まらん」


「ええい、クソ!もうアッタマきた!てめえら、いい加減にしねえとやっちまうぞ!」

とうとう永倉までが乱闘に加わった。

山南は首を振って項垂うなだれた。

「永倉さん…」


芹沢は大笑たいしょうしながら、脇差わきざしを振りぬき、目の前にいた敵の肋骨ろっこつくだいた。

「アハハハ!のってきたな、永倉!いいぞ!」

このんでこんなことやってるわけじゃねえぞ!チクショウ、何が悲しくて花街はなまちで相撲取りと喧嘩ケンカなんか…」

永倉も刀を振るいながら怒鳴どなり返した。

ここまで、浪士組は十人近い力士を打ち倒したが、まだひとりの死者も出していない。


しかし。


「ああ!しゃらくせえ!」

背中に一撃を食らった平山五郎が、ついに逆上ぎゃくじょうし、力士の一人を斬り伏せた。


崩折(くずお)れる巨体に、皆の視線が集中し、

一瞬、時が止まったかのような空白があった。


秀の川(ひでのがわ)が斬られた!」

誰かが叫ぶと、

貴様キサマら、もう許さん!」

倒れた力士の血を見て、仲間たちも激高(げきこう)した。

「おもしれえ!次に血祭ちまつりに挙げられたいのはどいつだ!」

平山が、それに応じる。


乱闘は沸点(ふってん)を超え、ついに命の取り合いが始まった。


力士たちは雄叫(おたけ)びを挙げて襲いかかってくる。

争いには消極的だった永倉や平間も、もはや攻撃をいなすだけでは防ぎきれなくなった。


気がつけば、路上には点々と血のあとが残っている。

敵だけではなく、野口健司の額にも血がにじんでいた。


「やめないか!双方そうほう静まれ!」

そう叫んだ刹那せつな

山南は、沖田の背後に回った力士が、今にもその頭上に六角棒ろっかくぼうを振り下ろそうとしているのを目撃した。

「沖田!!」

無意識のうちに抜刀ばっとうし、

その背中を斬りつける。

血飛沫ちしぶきとともにその力士が倒れるのを、まるでスローモーションを見るように目で追いながら、

山南は自分のやったことに茫然(ぼうぜん)として立ち尽くした。



しかし、両者入り乱れての乱戦は、山南を置き去りに続いている。


止める者が誰もいなくなり、戦いはますますヒートアップした。

芹沢は、平間と平山に背中をまもられながら、台風の目のように荒れ狂い、

その周りでは、

沖田、斎藤、原田が縦横無尽(じゅうおうむじん)けて、敵を駆逐(くちく)していった。



気の毒なのは力士たちである。

無敵の暴君、芹沢鴨に加え、

永倉、沖田、斎藤といえば、のちに洛中を震えあがらせた新選組の中でもトップ3の剣士たちで、原田左之助はNo.1のやり使いだ。

大人しそうに見える山南敬介ですら、北辰一刀流免許皆伝ほくしんいっとうりゅうめんきょかいでん剣豪(けんごう)である。

抜刀ばっとうした彼らが相手では、如何いかに30名を超える力士とは言え、相手が悪過ぎた。


よくよく考えて見れば、二十年にわたる幕末史の中でも、これだけの錚々(そうそう)たる剣豪と大立おおたちち回りを演じたのは、後にも先にも彼らだけだったかもしれない。


勿論もちろん、力士らに歯が立つわけもなく、すでに大勢たいぜいは決したと言って良かった。


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