表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幕末カタナ・ガール  作者: 子父澤 緊
凶刃之章
318/404

Dirty Work Pt.1

「おつかれさんどす」

八木家の主、八木源之丞は、疲れた顔をして屯所とんしょに帰ってきた近藤勇たちに声を掛けた。

なにせ、夜半やはんの捕り物から帰ってきて、すぐ公用方こうようがたからの呼び出しである。

昨日からほとんど寝ていないはずだ。

しかし近藤は、何事か考えにふけっていて、源之丞にも気づかず前を素通りしていった。

お供の山南敬介と土方歳三が、びるように会釈えしゃくを返し、近藤の後に続いて門をくぐる。


近藤は、まっすぐ離れに向かうと、出迎えた島田魁に早速指示を出した。

「島田さん、永倉と斎藤を俺の部屋に呼んでくれ。目立たないようにな。それから貴方あなたにも同席してほしい」

その固い表情を見て、島田はすぐに、よほど危険で、しかも内密な用件だろうと察した。

「ええ。分かりました」

なぜなら、名前の挙がった二人は隊内屈指の剣客けんかくであり、近藤にとっては道場時代からの身内である。



島田が前川邸にある近藤の個室に、副長助勤の永倉新八、斎藤一を連れてくると、

そこにはすでに副長の山南敬介と土方歳三が待っていた。


「こんな時に、呼びつけてすまないな」

近藤は、まず三人にびを入れた。

明け方までの隊務を終えた後とあって、今日はこの部屋にいるみなが一様に疲れた顔をしている。

「ど~おいたしまして」

永倉が皮肉ひにく交じりにおどけて見せる。


皆が腰を落ち着けると同時に、山南が早速話を切り出した。

「まず島田さん。田中新兵衛について分かったことを皆に話してくれませんか」

この中では新参と言える島田は、かしこまって報告を始めた。

「は。申し訳ありませんが、たいして有用な情報はありません。というのも、田中というのは藩士になってからまだ日も浅い下級武士で、元は薬屋のせがれです」

「薬屋か。トシ他人事ひとごとじゃねえな?」

近藤が土方の方をチラリと見て揶揄(からか)った。

「ぬかせ」

嫌な顔をする土方を見て、島田は思わず噴き出してしまった。

こういう時の二人は、まるで仲の良い悪ガキだ。

土方ににらまれた島田は、少しきまりが悪そうに取りつくろった。

「いや、失礼。藩士と言っても、彼は陪臣ばいしん身分で、どうやら汚れ仕事を専門に任されていたらしいです」

まったく洒落しゃれにもならない。

新兵衛の境遇きょうぐうをわが身に重ねた近藤は、自嘲気味じちょうぎみに笑った。

「ふ、ご多聞たぶんに漏れず、分相応ぶんそうおうのお役目を与えられたというわけか」


「ええ。ですから、お話しできるような彼の来歴は、ほぼ全て上京してからのものです」


しかし、

越後の志士、本間誠一郎。

九条家の青侍あおざむらい、島田左近。

京都奉行所の四与力。

渡辺金三郎、上田助之丞、大河原重蔵、森孫六。

千種家家臣、賀川肇。

そして、公卿、姉小路公知。

少なくとも、新兵衛が関わったとされる「天誅てんちゅう」の被害者たちの名前を並べて見れば、

それは驚くべき数に上った。


「わずか二年足らずの間に、斬りも斬ったりと言うべきかな」

斎藤がボソリと感想を漏らし、

「人斬り新兵衛とは、よく言ったものだ」

山南も、それに同意した。

島田は背筋を伸ばして、さらに付け加えた。

「それからもう一つ。信憑性しんぴょうせいのありそうな噂としては、彼奴きゃつが土佐の武市半平太と懇意こんいだったという話もあります」


土方と山南は眼を見合わせた。

それでは今、蔵に閉じ込めている土佐浪士、豊永伊佐馬の話と矛盾むじゅんするではないか。

「あの土佐者(おとこ)は姉小路と武市が親密だったと言ってたぞ。だとしたら、なぜ新兵衛が姉小路を襲う?」

「さあ…武市はある時期、京を留守にしていた。その間に、なにかの行き違いがあったのかもしれない」

二人の疑問に、近藤は、もっともシンプルな答えを提示した。

「あるいはただ、姉小路卿の翻意ほんいが、武市半平太の知るところとなった。それだけの事かも知れん」

「…そんなことがあり得るだろうか?会津の上層部ですらハッキリしたことは分からないというのに…」

険しい表情で反駁(はんばく)する山南を、土方も自説で後押しした。

「それに、いくら武市でも、裏切りを確かめもせずに親しい人間を殺すかね?」

幹部三人は、考えに行き詰って黙り込んだ。


永倉はしばらく三人の顔を眺めてから、先を促した。


「…さっさと本題に入んなよ。ま、あんた方の陰気なツラを見てりゃあ、どういったたぐいの相談か、だいたいの察しはつくがな」


「そいつは話が早い。ま、今さら取り(つくろ)っても仕方ねえしな。単刀直入に話すぜ?」

土方は切り替えて、公用方広沢富次郎との密議の一部始終を語った。



聞き終えた永倉は、片目をつぶって鼻毛を抜き、彼なりの不服を表明した。

「奴ら、とうとうハジ外聞がいぶんもなく、浪士組おれたちに始末を頼んできやがったか。だが、こういう荒事あらごとは、むしろ芹沢さんの得意分野じゃねえのか?」

土方は小バカにしたように、鼻を鳴らした。

「ここんとこ、芹沢さんはお上の評判がすこぶる悪くてな。近藤さんにおはちが回ってきた」

「そいつは目出度めでてえが…気乗りしねえな。田中はめられたんだよ。敵からだけじゃねえ、味方からもな」


眼を閉じて話を聞いていた斎藤が片眼を開けた。

「田中河内介の時と同じやり方だ」

土方が胡坐あぐらの上に頬杖ほおづえをつく。

何処(どこ)のどいつだ?その田中ナントカつー()は」

「一年ほど前、島津の都合で口封じに殺された、そういう名の青侍あおざむらいがいた。例の寺田屋騒動のあとだ。だがこんなのは、ただの一例に過ぎん。都合の悪い真実は闇から闇へ。それが世の習いだろう?」


近藤は、それを聞いて、何ともやりきれない気分にさせられた。

「なるほどな。だから、自刃じじんさせるのは、せめてもの情けという訳か…」

「クックック…アハハ、ア~ハハハハ!イヒヒヒヒ!」

永倉が突然狂ったように笑いはじめ、皆をギョッとさせた。

「大した理屈だなあ、おい。下っ端はいくらでも換えが効くから用済みは消せってことかい?あ~おっかねえ。政治屋(せいじや)なんて連中の考えるこたぁ、俺たちよか、よほど物騒ぶっそうだぜ。宮中や二条城に巣食ってる奴らは、あらかた物の怪(モノノケ)妖怪変化ようかいへんげたぐいに違いねえ」

「…かもな」

近藤が渋い顔で応える

「気を付けな近藤さん。都の毒気どくけに当てられたせいか、あんたも近頃は眼つきが怪しくなってきたぜ?」

軽口かるくちを叩く永倉の目は笑っていない。

「ちっ、よせよ」

近藤は思わず視線をそらした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=929024445&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ